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火星の空気で呼吸できるようになるかも?NASA火星ローバーが火星大気からの酸素生成に成功

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 将来の有人火星探査に明るいニュースです。NASAの火星ローバー「Perseverance」が、搭載する機器を使って火星の大気から酸素を生成することに成功した、と2021年4月22日(現地時間)に発表がありました。人類の活動に不可欠な酸素を“現地調達”することができ、将来的には火星の空気で直接呼吸できるようになるかもしれません。

  •  NASAの火星ローバー「Perseverance(忍耐)」は、先日地球以外の天体で初めて飛行に成功したヘリコプター「Ingenuity(創意工夫)」のほか、さまざまな観測機器や実験機器を搭載しています。これは将来の有人火星探査に必要なデータを取得するとともに、現地でしかできない実験を実施して、技術開発につなげることが目的です。

    火星上の「Perseverance」(Image:NASA/JPL-Caltech)

     火星は月よりもはるかに遠く、有人宇宙船の場合は約2年かけて向かう場所のため、国際宇宙ステーションのように補給が簡単にはできません。また、重力も月よりはるかに大きく、火星から離脱する際には多くの燃料と酸素が必要になります。

     ところが火星の大気組成は二酸化炭素がほとんどで、酸素はわずか0.13%ほどしかありません。このままでは地球から「帰りの分」の燃料や酸素を持っていく必要があります。そうなると、宇宙船の規模はかなり大きくなってしまい、地球からの打ち上げが困難になる可能性も。

     そこで、火星の大気で約96%を占める二酸化炭素から、酸素をうまく取り出すことができないか……という構想から、火星ローバーの「Perseverance」には、二酸化炭素から酸素を生成する装置「MOXIE(Mars by making OXygen. It works “In situ” on the Red Planet, and is an Experiment)」が搭載されました。日本語に訳すと「火星で酸素を作る、その場で動く実験装置」といった感じでしょうか。

    「Perseverance」に搭載されるMOXIE(Image:NASA/JPL-Caltech)

     実験装置MOXIEの大きさは、トースターと同じくらいの23.9cm×23.9cm×30.9cm。質量は17.1kgで消費電力は300ワットとなっています。原理は、二酸化炭素を摂氏800度まで加熱し、酸素原子と炭素原子を分離させて酸素を生成するというもの。副産物として生じる一酸化炭素は、火星の大気中に放出されます。

    「Perseverance」におけるMOXIEの搭載位置(Image:NASA/JPL-Caltech)

     MOXIEは2時間の予熱後、火星大気中の二酸化炭素から酸素を作る実験を開始。約5gの酸素を生成することに成功しました。装置が小さいため生成量に限界がありますが、規模を拡大すればもっと多くの酸素を生成することも可能とみられています。

    MOXIE最初の動作結果グラフ(Image:MIT Haystack Observatory)

     NASAの宇宙技術ミッション局で、この実験を担当しているジム・ロイター氏は「これは火星で二酸化炭素から酸素を生成する重要な一歩です。MOXIEにはやるべきことがたくさんありますが、火星に人類が立つという目標に向かって進む上で、この技術デモンストレーションの結果は期待に満ちたものです。酸素は私たちの呼吸に必要なだけでなく、ロケットの燃料を燃やすのにも使われますし、火星有人探査の際には地球へ帰還するため、どうしても必要なものなんです」と語っています。

     将来の有人火星探査で4名の宇宙飛行士が地球へ帰還する際、火星から宇宙船を飛ばすためには7トンの燃料と、25トンもの酸素が必要だと見込まれています。これだけの量の酸素を地球から持っていくのは非現実的で、火星での活動で宇宙飛行士が呼吸する分(1名あたり1年で約1トンの酸素が必要になる見込み)を含め、なんとかして酸素を“現地調達”する方法を確立しなければなりません。

     火星の大気に豊富な二酸化炭素から酸素を生成するMOXIEは、人類が火星で活動し、かつまた地球へ帰還するのに必要な酸素を現地調達する技術を確立する、大きな使命が課せられているのです。MOXIEが今回の実験で生成した1時間あたりの酸素量は、平均的な人間が約10分の呼吸で必要とする量とのこと。MOXIEは最高で1時間あたり10gの酸素を生成する能力があるそうです。

     火星の大気から酸素を生成する実験は、全体で3つの段階に分けられています。最初の段階では機器が問題なく動作するかを確かめ、第2段階では様々な時間帯や季節で機器を動かし、生成結果にどのような変化があるかを確かめます。最終段階ではさらに進み、新しい動作モードでの酸素生成実験や、3つ以上の異なる温度で機器を動作させ、結果を比較することで効率の良いパターンを見つけ出すとのこと。

    Perseveranceが撮影した火星の大地(Image:NASA/JPL-Caltech)

     火星大気のほとんどを占める二酸化炭素から安定的に酸素を生成することができれば、人類が火星で活動し、地球へ帰還する際の大きな技術的問題を解決できる可能性があります。また、継続的に稼働させ続ければ大気組成が変わり、人間が火星の空気で直接呼吸できるようになるかも。

     MOXIEは小さな実験装置ですが、人類が火星に行くため大切な実験をしています。ずっと先の未来では、漫画・アニメ「ARIA」のように、テラフォーミング(地球化)された火星に多くの人が住むようになっているかもしれませんね。

    <出典・引用>
    NASA プレスリリース
    Image:NASA/JPL-Caltech/MIT Haystack Observatory

    (咲村珠樹)

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