日本時間の2021年6月3日深夜、スペースXのドラゴン補給船が国際宇宙ステーションへ向け打ち上げられます。今回の積荷は、生物実験に使われる小さなイカやクマムシのほか、丸めて運べる新しい太陽電池パネルなど。将来の有人宇宙探査に必要なノウハウを得るものが揃っています。

 今回のドラゴン補給船で、民間企業による物資補給ミッション(CRS)は22回目。現地時間の6月3日13時29分(日本時間6月4日2時29分)に打ち上げ予定で、国際宇宙ステーションには6月5日にドッキング予定となっています。

ロールアウトするCRS-22(Image:SpaceX)

 スペースXでは、ロケットや宇宙船の与圧カプセルを再利用していますが、今回の打ち上げに使われるファルコン9ロケット、ドラゴン補給船は両方とも初めて使用されるもの。与圧カプセルはアップグレードされた「ドラゴン2」貨物船の2号機(C209)で、ファルコン9ロケットは回収に成功した場合、有人のクルードラゴン「Crew-3」ミッションに再利用される予定となっています。

今回はロケットもカプセルも新品(Image:SpaceX)

 合計で3.3トンあまりになる積荷は、宇宙飛行士の活動に必要な食料や水などのほか、様々な実験機器などが搭載されています。最も大きな積荷は、非与圧ブロック(トランク)に収納された「iROSA(ISS Rool-Out Solar Arrays)」と呼ばれる新型の太陽電池パネル。

CRS-22積荷の内訳(Image:NASA)

 現在、国際宇宙ステーションには8セットの大きな太陽電池パネルがあり、合計で160キロワットの電力を供給しています。しかし、最も古い2セットは2000年12月にスペースシャトルによって取り付けられたもので、すでに設計寿命の15年を大幅に超過し、劣化の兆候が出てきています。

国際宇宙ステーション(Image:NASA)

 残る6セットも2009年3月までに取り付けられているため、近い将来に設計寿命を迎え、劣化して発電能力が落ちることが予想されます。このため継続して国際宇宙ステーションを運用するには、新しい太陽電池パネルを設置して電力供給を強化しなければなりません。

 スペースシャトルはすでに退役し、大型の太陽電池パネルを運ぶ手段はありません。そこで、円筒形に巻き取ることで従来よりコンパクトになる太陽電池パネル「ROSA」が開発されました。

展開された状態のiROSA(Image:Deployable Space Systems)

 すでに試作品が2017年に国際宇宙ステーションに持ち込まれ、丸めた太陽電池パネルが問題なく展開でき、動作することが確認されています。今回のドラゴン補給船には2セットが搭載され、既存の太陽電池パネル上に展開させることになりました。

ROSAの展開試験(Image:NASA)

 ROSAは全部で6セット設置されることが予定されており、合計120キロワットの電力供給が可能。劣化した既存の太陽電池パネルも発電能力がすべて失われた訳ではないので、合計すると215キロワットとなり、より多くの機器へ電力供給が可能になります。

iROSA全てを設置した予想図(Image:Boeing)

 この巻き取り式の太陽電池パネルは、これまでの折り畳み式よりコンパクトにすることができるので、太陽の光が弱くなる火星への有人探査でも、十分な電力供給が可能な大きさのパネルを作れます。ROSAは、将来のアルテミス計画に備えた技術試験の意味合いもあるのです。

ドラゴン補給船に搭載されたROSA(Image:NASA)

 また生物学的な実験では、小さなイカが大きな役割を果たします。今回の実験に使われるのは、ハワイミミイカ(Euprymna scolopes)という体長数mmのイカ。このイカは、共生する細菌によって体を発光させることができます。

ハワイミミイカ(Image:NASA)
ハワイミミイカは体長数ミリ(Image:NASA)

 生物と細菌との共生関係は、人間でも腸内細菌との関係が知られていますが、この共生関係に、無重力(微小重力)環境がどのような影響を与えているかは解明されていません。そこでライフサイクルが短く世代交代が活発なハワイミミイカと、共生する発光細菌を観察することで、宇宙で微生物との共生関係がどう変化するかを探り、人類が宇宙に数年単位で生活する際の予測を立てようという実験「UMAMI(Understanding of Microgravity on Animal-Microbe Interactions)」が実施される予定です。

ハワイミミイカを入れたUMAMIのパック(Image:Rachel Ormsby)

 過酷な環境にも耐えられることから「宇宙最強の生物」とも呼ばれることもあるクマムシ。この特性から、宇宙という極限環境が生物にどのような影響を与えるのか、という実験が実施されます。

クマムシ(Image:Boothby Lab)

 実験の期間中、クマムシは様々な生物学的極限環境にさらされます。その結果、クマムシの遺伝子にどのような変化をもたらすかをゲノム解析で観察し、将来人類が宇宙で長期間生活する際の生物学的ストレス要因や、その対策を見つけ出そうというものです。

発射台のCRS-22(Image:SpaceX)

 このほかにも、宇宙飛行士に起こりやすいとされる腎臓結石のメカニズムを探る実験装置、技師のいない宇宙船内で簡単に使える超音波画像診断装置(Butterfly IQ Ultrasound)といった医学研究、ARを使用したロボットアームの操作法(Pilote)などの工学的な試験装置が積み込まれたドラゴン補給船。打ち上げの様子はスペースX公式YouTubeチャンネルのほか、NASA TVでも配信予定です。

<出典・引用>
NASA CRS-22 Mission Overview
Image:SpaceX/NASA/Boeing/Boothby Lab/Deployable Space Systems/Jamie S. Foster/Rachel Ormsby

(咲村珠樹)