おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

DTPの過渡期にあった代理店とのバトル 用語の誤用が生んだ思い出話

 今や色々な過程がデジタル化され、印刷物もコンピュータを使って作るのが当たり前ですが、その環境への過渡期においては様々な苦労がありました。コンピュータ独特の新しい概念が導入されたため、アナログ制作に慣れた人から勘違いしたオーダーが出されることも。

 かつてDTPデザイナーとして活動していた方が当時起きたバトルについて思い返す、一連のツイートが話題となっています。

  •  このツイートをしたのは、かつてDTPデザイナーとして事務所を運営していた長月みそかさん。今は別の分野で活躍されているため、デザインの世界からは離れていらっしゃいます。

     DTPデザイナーとして独立したばかりの頃、1990年代にあった話、として披露されたのは、代理店の営業さんからデータを「600dpi」でください、とオーダーされた時のこと。当時はアナログ制作からDTPへと、制作環境が変化していく時代でした。

     「今でこそCTP(コンピュータのデータから直接製版する手法)が主流ですが、その前はフィルム製版で、1990年代中期ぐらいまではDTPデータを印画紙出力してからアナログ製版指定するケースも見受けられましたね。そんな時代に、当該代理店にDTPアドバイザー的なポジションで出入りしていたのが自分でした」

     印刷される用紙の大きさを把握したいので「印刷サイズはどれくらいですか?」と尋ねたところ、高圧的に「だから600dpiだと言っただろ」と出られたため、カチンときた長月さんは解像度が「600dpi」になっているアイコンサイズぐらいの小さな画像を渡したのだそう。

     もちろん、この小さな600dpiの画像は、長月さんが「600dpiは何を意味しているのか」と営業さんに理解してもらうために提出したもの。別の媒体に、おそらく意図していたであろう「A4サイズで600dpiのデータ」も用意し、渡したとのことです。

    ■ 「解像度」だけで「サイズ」まで意味すると勘違い?

     詳しく話をうかがうと、バトル相手となったこの営業さんは、代理店内製デザイン部門の制作部長で当時50代半ば。役職者ということもあり、本来現場で下請けのデザイナーに直接指示を出す立場ではなかったとのこと。しかもデジタル音痴で、DTP講習を受けたものの完全に理解したわけではなく、中途半端な知識で首を突っ込んできた……という話だったそう。

     このため印刷に用いる際、画像(ビットマップ)データにはA4判といった「印刷(仕上がり)サイズ」のほか、〇〇dpiで示される「解像度」という2種類の要素が必要だと把握しきれていなかったようです。

     そこで「印刷サイズ」と「解像度」は別の要素ですよ、ということを理解してもらうため、あえて「アイコンサイズぐらいの600dpi画像」を渡したというわけ。まだ20代だったこともあり、血気盛んで「舐められたらいけない!」と高圧的な要求に反発した面もあったようです。

     この制作部長さんは長月さんのことが気に入っていたのか、出入りするたびに絡んできたといいます。しかし「パワハラ・モラハラ・セクハラあたりまえの昭和な叩き上げ営業だったので、ちょっと煙たく思っていました」と、当時のことを語ってくれました。

     まだネット回線で大容量のデータを送るわけにはいかず、メディアに入れて直接やりとりしていた時代。そんなこともあり「生意気な若造デザイナー」と「昭和の老害営業」とのバトルが毎回のように繰り広げられ、当事者同士はそれを楽しんでいたようにも思う、とも長月さんは後日のツイートで振り返っています。

    当時のバトルを振り返る長月さんのツイート(スクリーンショット)

     今になって思えば、アナログ時代に長くキャリアを積んできた営業がデジタルを理解できていないのはある程度仕方のない話、と長月さん。

     「もしあの時、もっといい方法があったとすれば『すみません、専門的な部分の情報が必要なので、内製部門のリーダーさんを呼んでいただけますか?』と言うのが良かったような気もしますが、どちらにしても分かった気になっている人のプライドを折らずに解決するのは難しかったような気もします」

    ■ 時代の過渡期には「あるある」なことかも

     今までのキャリアやプライドを尊重しつつ、それでも間違っている部分は正す、というのはいつの時代も難しいもの。しかし避けて通ってばかりもいられません。人間関係は、このようなぶつかり合いを経て「ちょうどいい具合」を探る面もあるので、やむを得ない部分もあったかもしれませんね。

     この一連のツイートには多くの反響が寄せられ、当時の状況を知る人からは懐かしがるコメントも。筆者も当時出版社でアナログ製版とDTPをかじっていたので、現場での苦労を懐かしく思い出しました。

     新しい技術が広まる時、その流れに対応できるか否かという問題は、どの時代や業界でもありうること。ひょっとしたら将来、自分が「老害」と呼ばれる日が来てしまうかも。世代に関わらず、互いに持つ自負心を理解しつつ、できるだけ柔軟に対応する姿勢が必要なのかもしれません。

    <記事化協力>
    長月みそかさん(@misoka09)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 運動会は年1回のはずが……年2回の場合も?アンケート結果をまとめてみた
    ライフ, 雑学

    運動会は年1回のはずが……年2回の場合も?アンケート結果をまとめてみた

  • 老人のアニメ寄せ
    インターネット, びっくり・驚き

    60代70代もアニメに夢中!?「老人のアニメ寄せ」現象を唱える投稿に反響

  • 「Z世代と昭和世代の違い」
    インターネット, びっくり・驚き

    上司と部下の考えかたの違いが話題 昭和世代は「未来に希望」、Z世代は「未来はわか…

  • 昭和の人間ならついやってしまう Bluetoothリモコンをテレビに向けて操作
    インターネット, おもしろ

    昭和の人間ならついやってしまう Bluetoothリモコンをテレビに向けて操作

  • 画像提供:「杉山写真材料店」公式X(@sugiyamasya1946)
    インターネット, おもしろ

    「mixiってなんですか?」の質問に崩れ落ちる人が続出

  • 一言LINE
    ライフ, 雑学

    「マルハラ怖い」と「一言LINEに違和感」 それぞれの主張

  • 知らない人からの「おかあさん」呼びにモヤッ
    ライフ, 雑学

    知らない人からの「おかあさん」呼びにモヤッ

  • ジェネレーションギャップ?LINEの送り方に年代で明確な違いがあるらしい
    インターネット, びっくり・驚き

    ジェネレーションギャップ?LINEの送り方に年代で明確な違いがあるらしい

  • 文の最後に絵文字を付けるのはおじさんおばさん説……新たなジェネレーションギャップに戸惑い
    インターネット, 雑学・コラム

    文の最後に絵文字を付けるのはおじさんおばさん説……新たなジェネレーションギャップ…

  • 「とし取ったなぁ」と思う瞬間 「チョコレートで胃もたれ」「起きたら疲れてる」など多数の意見
    ライフ, 雑学

    「とし取ったなぁ」と思う瞬間 「チョコレートで胃もたれ」「起きたら疲れてる」など…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設
    企業・サービス, 経済

    ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

  • 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」
    エンタメ, 芸能人

    嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現…

  • カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)
    イベント・キャンペーン, 経済

    昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」…

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • トピックス

    1. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…
    2. Shuffle Town

      キーボードを叩くと家が出現!文書に「町」を作るフォント「Shuffle Town」が面白い

      手書き風の文字だったり、ホラー風の文字だったり、一風変わった文字を簡単に使用することができるデジタル…
    3. “すっぱいペヤング”が爆誕!?超大盛りハーフ&ハーフシリーズ最新作を実食

      “すっぱいペヤング”が爆誕!?超大盛りハーフ&ハーフシリーズ最新作を実食

      まるか食品は11月4日、「tabete だし麺×ペヤング超大盛やきそばハーフ&ハーフすっぱゆず」を発…

    編集部おすすめ

    1. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    2. ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

      ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

      ヤマト運輸株式会社は、11月10日から「宅急便当日配送サービス」の提供を開始し、併せて新たに「同一都道府県内運賃」を導入すると発表した。午前…
    3. 1回1万円の「大人のセボンスター」カプセルトイ登場 女児ゴコロときめく本格宝石入り

      1回1万円の「大人のセボンスター」カプセルトイ登場 女児ゴコロときめく本格宝石入り

      株式会社KARATZが、カバヤ食品の玩具菓子「セボンスター」45周年を記念したジュエリー企画「大人のセボンスター」第3弾を発表。11月5日に…
    4. 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」

      嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現時点なし」

      人気グループ「嵐」の公式SNSをめぐり、偽アカウントの出現が相次いでいることを受け、所属する株式会社嵐の四宮隆史社長が11月4日、自身のX(…
    5. ヒャダイン氏おすすめ 「ブロッコリー×ごはんですよ×ねぎ油」レシピ作ってみた

      ヒャダイン氏おすすめ 「ブロッコリー×ごはんですよ×ねぎ油」レシピ作ってみた

      音楽クリエイターのヒャダイン(前山田健一)さんが、Xで紹介した超手軽レシピ。それは「ブロッコリーを桃屋『ごはんですよ』と『ねぎ油』で和えたら…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト