江戸時代までの人々の旅といえば、徒歩が基本。飛行機や新幹線を使えば遠いところでも短時間で移動できる現代において、あえて徒歩で京都から長崎県佐世保市まで帰省した人が現れました。
道中の記録をTwitterに投稿しつつ、868.1kmの道のりを3泊32日かけて踏破した「そううん」さんに、旅の裏側をうかがいました。
京都在住の大学生であるそううんさん。春休みを機会に、郷里の長崎県佐世保市まで徒歩で帰省しようと思ったきっかけは、地理や地学好きであることに加え、青春18きっぷで帰省した際「もっとそれぞれの街の景色を見てみたい」という思いがあったからだといいます。
■ 事前にシミュレーションしてから計画
とはいえ、京都から佐世保までの道のりは遠く、思いついたからといって気軽に挑戦できるものではありません。このため、自分の体力に基づく無理のない日程、必要な資金などの目星をつけるため、いったん京都から名古屋まで歩いてシミュレーションをしたのだとか。
そううんさんはこれまでにも、京都から奈良、神戸まで徒歩移動した経験があったとのこと。少し長い名古屋まで歩いた経験をもとに、1日あたり30kmのペースで1か月強、20万円程度で実現できると計算し、実行に移したのだそうです。
■ 徒歩旅の宿泊・食事事情
バックパックを背負い、京都を出発したのは2023年の2月12日。京都から大阪に出て、国道2号(江戸時代でいうところの山陽道とほぼ重なる)沿いに歩き、佐世保を目指しました。
宿泊は基本ネットカフェ、3日に1回はビジネスホテルに宿泊し、体力回復に努めたといいます。食事はネットカフェで提供されている無料朝食やファミリーレストランの平日ランチ、スーパーの割引弁当など。
しかし、1日あたり平均30km歩くだけで約1200kcalも消費してしまうので、摂取カロリーを補うためコストパフォーマンスの良い食パンを活用しつつ、各地の名物も食べたそうです。「歩く修行」ではなく「旅」ですから、楽しむことも大事ですよね。
■ 道のりで感じたこと
途中、2月22日に国道2号の起点から222.2km地点を通過、というミラクルも経験しながらの徒歩旅。中国地方に入ると、思いのほか山道や峠を通過する区間が増えてきます。
山越えも当然難所といえますが、徒歩ということもあり、歩道のない区間を歩くのが危険だったといいます。もちろん、山越えと歩道のない区間が重なる場所もあります。そううんさんは次のように語ってくれました。
「具体的には、歩道がない国道の山道が続く播州赤穂手前の高取峠や、泊まる場所がなくて1日40km以上の山道を歩く必要があった三原から呉への道が難所でした」
広島県三原市から呉市への道のり(2月24日〜25日)のうち、特に竹原から呉へ歩いた2月25日の行程は、山越え4回に10km近い歩道のない区間を含め、43kmを9時間かけて歩いたそうです。体力だけでなく、横を走る車に気をつけながらですから、かなり疲れたのではないでしょうか。
歩いていると、ただ車や列車で通り過ぎていては気づかないものも目にとまります。広島に到着し、ホテルに投宿した2月26日のツイートでは、1km間隔レベルで「交通安全」と記されたお地蔵さんがあり、道端に花が手向けられていたと綴り、交通事故の死者がいかに多いか驚いたと語っています。
また、道中で地域の人と話すたび、西に行くにつれて関西弁から広島弁、九州弁と、徐々に方言が変化していくのも興味深かったとのこと。印象に残った場所については「九州に帰ってきた実感が湧いた関門海峡でしょうか」と答えてくれました。
武雄温泉を後にした3月14日、JR佐世保線の長尾駅(佐賀県武雄市)に立ち寄ったそううんさん。無人駅に設置された駅ノートに、これまで歩いてきた感想を書き綴りました。
■ 旅を終えての感想
佐世保へ到着したのは3月15日。31泊32日、踏破距離は868.1kmにおよびました。そううんさんは、かかった費用についてもツイートで報告しています。それによると次のとおり。
宿泊費:11万3134円
食料費:4万7086円
装備費:5234円(新たに買い足すものが少なかったため)
その他:4690円
交通費:0円
合計:17万144円
ツイートによると、これは新幹線を使った場合と比較し、1.1倍の距離、9倍の費用(交通費が0円なので総額との比較)、そして135倍の時間を要しているとのこと。新幹線の速さに驚くと同時に、いわゆる「時間をお金で買う」という言葉の意味を実感する数字です。
ちなみに、広島到着時点で中間発表もされています。1日最大40km歩けると仮定して、京都から広島まで約440kmは14泊15日、予算はおよそ8万1000円とのこと。今後チャレンジしてみたい方には参考になるかもしれません。
ずっと歩いてきて、佐世保で久々に交通機関(JR佐世保線)に乗った感想をうかがうと「歩くと時間と労力が膨大にかかる移動をあっという間に出来てしまう、電車などの日本の交通機関のありがたみを身をもって実感しました」とのこと。まったく速度感覚が異なる移動体験は、鉄道を初めて目にした明治の人と似ているかもしれませんね。
■ 復路とこれから
およそ1か月かけて踏破した佐世保までの道のり。しかし大学が始まるので、京都に戻らなくてはなりません。さすがに徒歩だと間に合わないので、復路は新幹線を使うそうですが、徒歩旅を経験したからこそのチョイスがあるそうです。
「京都から博多までのほぼ全ての新幹線駅を歩いて訪れたので、思い出に浸るために敢えて各駅に止まるこだまを使って復路は帰りたいと思います」
今後の徒歩旅についてうかがうと、そううんさんは次のように話してくれました。
「長期休みでまとまった時間が取れる、来年の春休みに東海道を歩いてみようかなと検討しています。何せ時間がかかるので、時間のある大学生のうちにやっておきたいです」
社会人になるとまとまった休みが取れず、このようなチャレンジをするのは難しいもの。体力があり、そして感受性も豊かな若いうちに経験しておくと、その後の人生で何かが変わってくるかもしれませんね。
京都から佐世保まで歩きたい人は沢山いると思うので、有益な情報を投下します。
32日で868.1km歩いた徒歩帰省にかかった費用は
宿泊費 113,134円
食料費 47,086円
装備費 5,234円
その他 4,690円
合計 170,144円これは、新幹線を使うのに比べ、1.1倍の距離、9倍の費用、135倍の時間を要しています。 pic.twitter.com/x7SdTFKGUq
— そううん (@soun142857) March 15, 2023
<記事化協力>
そううんさん(@soun142857)
(咲村珠樹)