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【宙にあこがれて】第7回 東日本大震災における航空宇宙関係の被害

東日本大震災における航空宇宙関係の被害まず初めに、このたびの東日本大震災および、長野県北部を震源とする地震、静岡県東部を震源とする地震において被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早く皆様の心に安寧と、いつも通りの日常がやってきますよう、お祈り申し上げます。

さて、地震発生より一ヶ月近く経過した訳ですが、今回の「宙(そら)にあこがれて」では東日本大震災における、航空宇宙関係の被害状況をまとめておきたいと思います。


  • 現地で取材して回るような状況ではないので、判った範囲でのものになることをお許しください。

    今回の地震では、地震の被害もさることながら、これによって発生した津波によってもたらされた沿岸部の被害が甚大でした。
    津波の大きさの元となる海底の隆起量が、明治の三陸大津波で観測されたものの倍以上あった、という報告もありますので、それだけでも津波の巨大さが判ります。
    航空宇宙関係の被害も、多くは津波によるものでした。

    まずは、テレビでも津波に襲われる様子が報道された仙台空港(宮城県名取市)。
    ここはターミナルビルの1階部分が水没し、3月13日の午後になってようやく水が退きはじめる有様でした。
    ターミナルビルに避難し、取り残された約1300人が全て救出されたのは3月16日で、現在でも旅客設備の復旧は進んでいません。
    滑走路については、3月16日に主要滑走路であるB滑走路(長さ3000m、幅45m)の半分が使用できるようになり、最初にアメリカ空軍のMC-130H輸送機(特殊作戦用の改造機)が着陸して運用を開始しました。現在では3000m全てが使用できるようになっています。
    しかし、無線誘導装置など、民間機が使用する支援設備が復旧していないため、アメリカ軍や自衛隊などの公的な飛行機に限って離着陸が許可されている状況です。
    空港側としては、施設を復旧させ、4月13日から民間機の運航を一部復活させたいという方針を示しています。

    仙台空港における航空機の被害状況ですが、民間旅客機に関しては、たまたま出発便が一段落し、飛行機が出払っている時間帯だったために、旅客機の被害はありませんでした。
    しかし、全日空と共同運航便を飛ばしているIBEXエアラインズは、ここ仙台空港を拠点としていることもあり、機材繰りのスケジュールを大幅に変更することになりました。この影響で、欠航便や発着時刻の変更が発生しています。

    他の、仙台空港を拠点としていた自家用機は、ほぼ全てが被災しました。この中には宮城テレビ、仙台放送の報道ヘリも含まれています。
    また、東北電力グループのヘリコプター運用会社、東北エアサービスも仙台空港を拠点としていますが、こちらの機体は地震発生時、多くが業務で飛行中だったため、被害を免れています。
    この他、消防・警察のヘリコプターも被災状況を確認するために離陸したのでしょうか、こちらも多くが被害を免れました。

    また、仙台空港には海上保安庁の仙台航空基地が設置されており、第2管区海上保安本部の航空拠点となっています。こちらではやはり津波により、基地機能が失われました。
    航空機も飛行機2機(保有する全て)とヘリコプター2機が流出・浸水しています。
    このうちの1機、ビーチクラフト200T「うみねこ」は2010年度限りでの引退が決定しており、3月15日に解役式典が開催される予定でした。
    この他にも、海上保安大学校仙台分校で保管されていたヘリコプターが1機、そして同じく仙台空港内にある航空機器メーカー、ジャムコの仙台整備工場で整備中だった飛行機1機、ヘリコプター2機が浸水被害にあっています。
    このうちヘリコプター1機は、大型巡視船に搭載されているものだったようです。
    仙台航空基地の格納庫は、水害に備えて床を1m高く作っていたそうですが、今回の津波は想像を超えていました。

    仙台空港にはもうひとつ、民間パイロットを養成する独立行政法人航空大学校の仙台分校が設置されています。
    最終の飛行訓練課程を行う場所なのですが、こちらで保有している飛行機も被災しています。
    旧来のビーチクラフトC90Aに加え、2010年9月に新型機としてビーチクラフトG58が導入されたのですが、たまたま飛行中で別の空港に着陸した3機を除き、格納庫などで浸水・流出の被害にあったようです。
    また、校舎1階が完全に浸水し、全寮制の学生は一旦名取市体育館に避難した後、3月15日に山形空港から各自の自宅などへと移動しています。

    同じく宮城県にある、航空自衛隊松島基地(宮城県東松島市)。
    仙台空港よりさらに海に近い場所に位置しているので、やはり津波によって基地機能が失われてしまいました。
    こちらには航空救難を行う「人命救助最後の砦」航空救難団松島救難隊があるのですが、地震発生を受け、荒天をついて救難ヘリコプターの発進準備を進めていたところ、大津波警報が発令されて隊員は一旦庁舎屋上に避難。
    そこへ津波が来て航空機を押し流していったそうで、初期における救難活動ができなかったことを基地司令は無念に思っているとか。隊員にも死者が出たそうです。

    浸水した滑走路は3月17日に使用可能になり、15時31分に最初の輸送機である第401飛行隊(愛知県小牧基地)所属のC-130Hが着陸しました。
    その後は航空自衛隊の輸送拠点となっていますが、周囲はまだ水浸しで、水田は池のようになっているそうです。

    航空機の被害ですが、前述の松島救難隊(U-125A救難捜索機・UH-60J救難ヘリコプター)は全て、この他に航空教育集団・第4航空団第21飛行隊のF-2戦闘機18機、そして第21飛行隊とブルーインパルス(第11飛行隊)に所属するT-4練習機が4機被災しました。

    1月の那覇基地航空祭で、公式展示飛行1000回を達成したブルーインパルスについては、3月12日の九州新幹線鹿児島ルート全線開業記念式典で1001回目の飛行展示(編隊航過飛行)を行うため、3月10日の朝に7機(ブルーインパルス仕様6機と通常仕様の1機)が福岡県の芦屋基地に移動していたので、難を逃れています。が、定期点検中だったとおぼしきブルーインパルス仕様の1機(728、729、804のいずれか)が被災しました。
    11日のお昼過ぎには、博多駅上空で事前予行(5機によるデルタローパス・スワンローパス・ファイブカードローパスの3課目)が行われ、福岡の人々を喜ばせたそうですが、翌日の開業記念飛行(こちらでは列車名にちなんだサクラが披露される予定だった)はキャンセルとなりました。
    松島基地が被災したため、飛行機は芦屋基地に置いたまま、パイロットと整備員はC-1輸送機で3月14日の深夜に入間基地(埼玉県入間市)に到着、そこからは陸路で松島基地へと帰還したそうです。現在でも飛行機は芦屋基地にあり、パイロットらは被災地での支援活動に従事しています。

    仙台市でも津波の被害が大きかった若林区。
    ここには東北方面ヘリコプター隊が所属する、陸上自衛隊霞目駐屯地があるのですが、幸いにも被害を免れ、震災当初における宮城県唯一の空輸拠点になりました。
    この他にも東北地方の飛行場(アメリカ空軍三沢基地・海上自衛隊八戸航空基地・花巻空港・新潟空港・青森空港・福島空港など)が空輸拠点となって、支援物資の輸送を行っています。
    また、民間・個人所有の航空機による支援物資の輸送については、花巻空港・福島空港・庄内空港・米沢へリポート・秋田空港・大館能代空港・青森空港・新潟空港で、物資受け入れの事前調整や荷下ろしなどの搬送手段、燃料確保等は自身で行うこと、といった条件付きでの受け入れをしています。

    宇宙関係では、JAXAの筑波宇宙センター(茨城県つくば市)が、地震によって人工衛星の試験棟など、建物が損傷し、設備点検のために国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」と、無人補給機HTV「こうのとり」2号機の運用管制ができなくなりました。
    これにより、事前の申し合わせに従って運用管制が一時的にNASAのジョンソン宇宙センター(テキサス州ヒューストン)に移管されました。
    その後、3月22日午後に施設が復旧したために運用管制を再開し、3月29日には無事、予定通りHTV「こうのとり」2号機を国際宇宙ステーションから分離し、大気圏突入までの任務を完了しています。
    また、今回の被災により、4月の恒例行事だった「科学技術週間」の公開行事(16日)が中止されています。科学技術週間の公開行事については、角田宇宙センター(宮城県角田市)も、17日に予定されていた施設公開を中止しています。どちらも、通常の展示施設における見学は受け入れていますので、そちらでの見学はできる状態です。

    こうして見ていくと、航空機の被害、特に航空自衛隊松島基地に所属する機体の被害が大きいのが判ります。
    松島救難隊は全ての航空機を失いましたから、仙台空港の第2管区海上保安本部と合わせて、これから宮城県を中心とする東北地方太平洋岸での救難活動が困難になることが予想されます。
    2010年9月には、松島救難隊編成50周年を記念して、地元石巻市出身のまんが家、石ノ森章太郎さんの作品『サイボーグ009』の009(島村ジョー)を描いた特別塗装機を登場させていたことが記憶に新しいところでしたが、早い再建がなされることを祈っています。

    また、第21飛行隊のF-2が18機というのは、飛行隊ほぼ全てを失ったことになります。
    防衛を担う戦闘飛行隊でなく、パイロットを養成する飛行隊であることが、航空防衛という点では不幸中の幸いといえますが、新しいパイロットが養成されなくなってしまうので、長期的な影響を及ぼしそうです。
    また、機体の調達についても2007年度発注分(2011年度までに納入予定)で終了していて、以降の予算を計上していないので、失われた分がどうなるかは不透明です。
    本来防衛予算は自然な損耗(事故や耐用年数超過など)を補うという方針で編成されているので、このように災害や戦争などで一気に大量の装備を失うことは想定していません。
    2011年度に次期戦闘機(FX)選定の予算が計上されていますが、国家予算全体が「震災復興」にシフトしてしまうので、色々な組み替えが必要になってくるでしょう。

    この他、独立行政法人航空大学校の被害も深刻です。
    2010年9月に導入したばかりの新型練習機、ビーチクラフトG58のほとんどを失ってしまったので、こちらもパイロット養成ができません。
    宮崎の本校、帯広の分校で初期の課程だけはできますが、最後の仕上げとなる双発(多発)機での訓練ができないと卒業が認められないので、どんどん訓練生がたまっていくことになります。
    現在、毎年4月上旬に行われている、2012年度学生募集要項の配布が延期されていますが、こちらもどうなるか不透明です。

    直接的な被害もさることながら、これからに及ぼす影響を考えると、この地震が与えたものというのは、かなり深刻であることが判ります。道のりは長いですが、一日でも早い復旧がなることを祈っています。

    ■ライター紹介
    【咲村 珠樹】

    某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
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