本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。
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日本の漫画界において「監獄」「脱獄」というモチーフは、数多くの名作で描かれています。昭和57年=’82年生まれの筆者世代でいえば、『ストーンオーシャン』(荒木飛呂彦)、『無頼伝 涯』(福本伸行)、『RAINBOW 二舎六房の七人』(原作・安部譲二、作画・柿崎正澄)など、監獄を主舞台とした作品の数々。また、監獄で食を語り合う異色作『極道めし』(土山しげる)や、「死刑囚」「監獄」が物語のカギとなる『バキ』『範馬刃牙』(板垣恵介)も、強烈な印象を残しています。
世代がかなりズレますけど、初見から今でも鮮烈なのは『あしたのジョー』(原作・高森朝雄、作画・ちばてつや)です。札付きの不良(ワル)が収容される「東光特等少年院」で主人公・ジョーが先輩たちから受ける理不尽な仕打ち、プロデビュー目指しての特訓、そして永遠のライバル・力石徹との出会い、初戦。いずれの名シーンも、時にアニメの音声まで鮮やかに蘇ります。
さて、今回ご紹介する『囚人リク』は、警官殺しの濡れ衣を着せられた少年・リクが、「極楽島特級刑務所」という地獄のような監獄で戦い、生き抜く姿を描いたバトル漫画となっています。恩人であり父親がわりだった警官「おじさん」を殺した鬼道院への怒りを胸に入所するリクでしたが、初っ端! 刑務官たちから受ける一度のリンチで早くも心は折れ、監禁房でか細くつぶやきます……。
「もう… ダメだ… 何をしたって…」
「おじさん… 会いたいよ――…」
血も汗も出し尽くし、胃の中身、糞尿を垂れ流し、傷つき汚れ全裸のまま正座するリク。ただよう無力さ、絶望感は読者の心を静かに冷たく撫で回さんばかり。大ゴマで描かれるこちらの場面は第01巻でも屈指の名シーンですが、その絶対的な絶望から這い上がることこそ、本作のテーマ「絶望への反抗」であり、輪をかけて名シーンになっています。
刑務所という過酷な環境をサバイヴするなら、リクはあまりに弱い存在。友情に厚く、負けん気が強いこと以外は普通の少年に過ぎず、小学校でクラスに一人はいた運動神経バツグンの人気者、といった感じでしょう。そんな普通の少年であるリクを奮起させるのは、仇敵・鬼道院と、弱い自分よりもさらに弱い友・ノギの存在でした。
もし、何も持たないならば拠り所は「心」でしかなく、強大な敵に立ち向かう少年の心とは、「怒り」と友情つまり「義侠心」だけです。
なぜ、冒頭触れた『あしたのジョー』のシーンは、今も鮮烈なのか――。多くのファンや評論によって語りつくされている名作ですから、今さら筆者などが付け足すことはなく。ただひとつ言えるのは、少年という本来守られるべき“弱い存在”が、「怒り」と「義侠心」を持って大敵に立ち向かう時、いつの時代もアツい物語が生まれる。いや、血がたぎる物語にならざるを得ず、それは、そう、本作『囚人リク』にも流れる「少年漫画の血脈」です。
「俺は誰も 信じない」
「その力さえ あればいい」
第01巻もいよいよ大詰め! いっさいの「義侠心」を否定し、冷徹な強さで監房を支配するボス・レノマと、リクは「ラグビー」で直接対決することに。無論ただのスポーツをするわけがなく、実態は官黙認処刑というべき陰惨な集団リンチ。圧倒的な体格差を心で補うリクに勝機はあるのか? そして、「貴様には いずれ特別な絶望を用意する」と言い捨てた、鬼道院の底冷えする悪意。打倒を誓うリクの拳は、はたして彼に届く日が来るのか…!?
「監獄」という非日常を物語に据え、“閉ざされた環境からの脱出”を描く手法は、漫画のみならず映画やドラマ、小説など古くから多くのエンターテインメントで実践されてきました。本作はそれら系譜の現世代で、雄たけびをあげる少年漫画の王道です!
現・少年少女の心に火を点け、かつての彼らに再び火を灯す『囚人リク』は、血と汗にまみれ、いつでも貴方を待っています。