「うちの本棚」第141回目は文月今日子の『わらって!姫子』をご紹介いたします。
落ち込んでいるときにも気分を明るくさせてくれるホームコメディ作品として繰り返し読んでしまう作品のひとつです。
『わらって!姫子』は講談社の「別冊少女フレンド」昭和51年9月号から52年1月号にかけて連載されたホームコメディ作品。また)マリーネの真珠』は同じく「別冊少女フレンド」の昭和51年7月号に掲載された読み切り作品。
文月今日子はデビューが『フリージアの恋』という作品で(昭和49年)、これも「別冊少女フレンド」に掲載されている。
現在も新作を発表している現役漫画家のひとりではあるが、個人的には文月がもっともノッていた時期の作品はこの『わらって!姫子』だったのではないかと思っている。もちろん作家も成長するし劣化もする。読者の感覚と作家自身の手応えが必ずしも一致しないかもしれないが、作画面、ストーリー構成ともに文月作品の中で本作は完成度の高いもののひとつなのは間違いない。
登場人物は主人公の姫子に双子の王三郎、このふたりは性格的には男女が入れ替わっているような感じで、勝気な姫子におとなしい王三郎という設定になっている。長男はおっとりした大学生の金太郎。次男の銀次郎は女子にモテモテのプレイボーイ。父親は短気な大工で母親はテレビドラマで活躍する美人女優。妻のラブシーンに耐えきれず夫婦喧嘩の末、道を一本隔てての別居生活になっている(子供たちは父親と同居)。また第2話から姫子のカレシとして満がレギュラーとなる。
本作はほのぼのとした気分になれる、安心して読める作品といえるのだが、なんといっても季節感を感じられるところが気に入っている。第1話では夏、第2話、第3話では秋、第4話では冬、第5話では正月と春、サクラの並木道と発表月号に合わせてそれぞれの季節が描き込まれているわけだが、その季節を象徴するものの描き方がこちらの感覚と一致するのか、単に物語の設定として季節を説明しているということ以上に皮膚感覚で季節を感じてしまうところがある。ことに第1話の夏の夕暮れなどは非常に印象が強い。
男勝りな女の子が大暴れするという、アバウトな紹介も可能なのだが、類似のキャラクターが登場するコメディ作品とは一味違う文月今日子ならではの魅力がそこにはある。文月の絵柄もそうだろうが、演出面での緩急のつけ方が絶妙なのだと思う。
少女漫画作品は少年漫画よりも復刊の機会に恵まれない状況にあるが、本作は繰り返し刊行してほしい作品のひとつだ。もし自分が少女漫画の全集を企画するのであれば必ずラインナップに入れたい作品でもある。
『マリーネの真珠』はひとりの少女が運命に翻弄されるドラマで、短編作品のお手本といっていい仕上がり。このような作品を読むたびに少女漫画の黄金時代は70年代だったのではないかと思う。
書 名/わらって!姫子
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和52年4月15日
収録作品/わらって!姫子(第1話・家出しちゃったの巻、第2話・恋しちゃったの巻、第3話・プレイボーイ銀次郎の巻、第4話・クリスマスの天使の巻、第5話・恋ふたたびの巻)、マリーネの真珠
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)