10月1日に「おたくま経済新聞」の地元(!?)にある、海上自衛隊下総航空基地(以下、下総基地)で第52回開設記念行事(航空祭)が開催されました。今回はそのイベントの様子をご紹介しましょう。
下総基地は、千葉県柏市と鎌ヶ谷市にまたがる海上自衛隊の航空基地です。
こちらでは対潜哨戒機P-3Cの搭乗員を養成する最終課程にあたる「下総教育航空群」、そして航空機整備員などを養成する「第3術科学校」などが設置されており、海上自衛隊における航空教育課程の拠点となっています。
オープニングを飾ったのは、基地所属の下総教育航空群・第203教育航空隊のP-3C、3機編隊(5037号機、5048号機、5049号機)による祝賀(航過)飛行。これは木曜日(9月29日)の午前中に練習を行っていましたね。
通常なら、このあとP-3Cを紹介する展示飛行に移るのですが、今回は東日本大震災の影響でキャンセルされ、1度の航過飛行のみと簡素化された形になりました。
続いて、同じ千葉県の習志野駐屯地に所属する陸上自衛隊第1空挺団による空挺降下展示。
今回は陸上自衛隊のCH-47J輸送ヘリコプターから降下しましたが、空挺降下は様々なシチュエーションで実施することが想定される為、航空自衛隊のC-1輸送機を使用することもあります。そんな際、習志野駐屯地には滑走路がないので、最寄りの飛行場であるこの下総基地までやってきて、飛行機に乗り込むようになっています。そういった意味では、ここは第1空挺団にとってもなじみ深い基地と言えるでしょうね。
さて、飛行展示がほとんど無くなってしまったので、今度は地上展示機をご紹介しましょう。海上自衛隊で使用しているほとんどの航空機が、全国各地の基地からやってきています。
まずは岩国基地(山口県)の第71航空隊所属のUS-1A救難飛行艇(9388号機)です。第71航空隊は岩国基地の他、東日本地区での救難活動に従事する為、一週間交替で救難飛行艇1機を神奈川県の厚木基地に常駐させており、この機体も厚木基地から飛来しました。他の展示機と違って救難待機中なので、要請があればすぐ出動できるような体制を維持したまま、こちらにやってきています。9388号機は9月8日にも、硫黄島から羽田空港へ急患を輸送していました。
後継機であるUS-2の配備が進み、US-1Aは退役が進んで残り3機(9388号機、9389号機、9390号機)となりました。この9388号機も12月の退役が決まっており、このように展示されるのはこれが最後ではないか……とのこと。機首の色あせたオレンジ塗装が、よりいっそうベテランの味を醸し出していますね。
参考までに、こちらが後継機のUS-2(試作1号機)。一見、代わり映えしないように見えますが、実はほとんどの部分が新設計されています。
現在第71航空隊の救難飛行艇は7機体制で運用されています。救難飛行艇というのは世界で唯一と言っていい存在なので、飛行場の少ない島国などでニーズがありそうな気がする(実際に海外の航空ショーでの予備調査では好感触を得ている)のですが、武器輸出三原則に抵触するので、US-2も輸出することはできません。世界に誇れる性能を持つ飛行艇なのですが、国内専用で最大7機しか見られないというのは、ちょっともったいない気がしますね。
続いて、地元下総の第203教育航空隊所属のP-3C(5047号機)。
これらと向かい合わせになるように、海上自衛隊の小型機が展示されていました。海上自衛隊のパイロットが最初に触れる飛行機、T-5(6329号機)。山口県下関市にある小月航空基地の第201教育航空隊に所属しています。さすがに小型機なので一気にやってくる訳にはいかず、いったん徳島基地に立ち寄って給油してからの道のりでした。
小月航空基地と言えば、10月23日に開催予定の基地祭「スウェルフェスタ2011」で、協力イベントとして「コスプレピクニック」というコスプレイベントが開催される……というので、おたく業界では話題になりましたね。基地内でもこのイベントを楽しみにしている隊員がいるとか。航空ファンからすれば、小月基地には教官パイロットが操縦するT-5の4機編隊による海上自衛隊唯一のデモンストレーション(アクロバット)チーム「ルーキーフライト」が存在し、基地祭でのみ展示飛行が行われるので、そちらも注目して欲しいものです。ちょうどそのメンバーが今回、T-5に乗ってやってきていました。下の写真はその「ルーキーフライト」メンバーの胸に輝くパッチ。
そして、徳島基地(徳島阿波おどり空港と共用)の第202教育航空隊に所属するTC-90(6840号機)。徳島基地は10月8日に航空祭があり、基地が公開される予定です。
下写真は岩国基地(山口県)からやって来た、第91航空隊所属の多用途機U-36A(9201号機)。
ヘリコプターは、同じ千葉県の館山基地から第21航空隊の対潜哨戒ヘリコプターSH-60K(8274号機・左写真)、第73航空隊の救難ヘリコプターUH-60J(8973号機・右写真)が。UH-60Jは機内見学もできるようになっていました。
航空自衛隊からは、愛知県の小牧基地(県営名古屋空港と共用)から第401飛行隊のC-130H(05-1084号機)が飛来。
陸上自衛隊からは、茨城県の航空学校霞ヶ浦分校から対戦車ヘリコプターAH-64D(74508号機・左写真奥)、千葉県・木更津駐屯地の第4対戦車ヘリコプター隊からAH-1S(73476号機・左写真中)、東京都・立川基地の東部方面航空隊からUH-1J(41901号機・左写真手前)。そして空挺降下で飛行した、木更津駐屯地の第1ヘリコプター団第106飛行隊のCH-47J(52933・右写真)も降下展示終了後に展示されました。
第4対戦車ヘリコプター隊は、翌日に行われた木更津駐屯地航空祭・創立記念行事で、『魔法少女まどか☆マギカ』のほむらをパイロット姿で描いた特別塗装のAH-1Sを登場させ、来場者の度肝を抜いたようですが……。こちらではもちろん、通常塗装です。
第106飛行隊では、オリジナルグッズを販売していました。現在、航空自衛隊ではオリジナルグッズ販売を自粛しており、オリジナルグッズを入手できるのは、陸上自衛隊と海上自衛隊のみです。
東日本大震災にも派遣された(福島第一原発に放水したのは、この106飛行隊のCH-47Jです)ので、東日本大震災のチャリティグッズなどもあったのですが、その中でちょっと興味深かったのが右写真のパッチ。CH-47J・52907号機退役記念のパッチです。この機体は映画『ガメラ2 レギオン襲来』で、逃げ遅れた避難民が救出されるシーンで登場しており、それにちなんでガメラ(のようなカメ)が惜別の涙を流している……というデザインになっているとか。
格納庫内には、今年5月で使用機が退役し、解隊した205教育航空隊のYS-11T-Aが残されていました。
エンジンの補修用部品が枯渇したことによって退役したYS-11T-A。右写真の6906号機は、YS-11の最終生産機です。これらは、厚木基地の第61航空隊でまだ運用されている、YS-11M-A補修の為の部品取りに利用されることになっています。
午後になると、海上自衛隊のイベントで特徴的な「体験搭乗」が始まります。これは事前に応募した人の中から抽選で、P-3Cによる体験(遊覧)飛行が楽しめるというもの。例年競争率の高い、人気のイベントです。
誘導員の合図でエンジンを始動させ、出発していくP-3C。
今回の体験搭乗では5036号機の他、オープニングの祝賀飛行に登場した5037号機、5048号機、5049号機の計4機が使用され、ひっきりなしに搭乗者を入れ替えながら離着陸が続きます。
離陸していくP-3Cの下に見える影は東京スカイツリー。意外に大きく見えるんです。
何度も離着陸を繰り返すので、ある意味写真を撮るのには最適です。
飛行展示がほとんどなかった代わりに、地上ではかわいらしいショーが行われました。203教育航空隊有志による、ミニP-3Cショーです。これはP-3Cの任務を判りやすく紹介しながら、第2回の新田原基地航空祭でご紹介した「ブルーインパルスJr.」のように、ミニバイクを改造した「ミニP-3C」などが展示走行を繰り広げるものです。
まずは整列し、実機同様誘導員の合図でエンジン始動。翼についた小さなプロペラがひとつずつ、クルクルと回りだします。同様に、機体上面にある赤い衝突防止灯も点滅を開始。こういう演出はブルーインパルスJr.にはなく、かわいらしさが強調されていい感じです。そして編隊での走行を披露。
そこに悪い潜水艦が登場。民間船(右写真、四角く黄色い物体。ラジコンでちょこまか動きます)を攻撃し、救難要請が。P-3Cが発見して救難キットを投下し、イージス護衛艦「あとらす」が救助に向かいます。
大変です。まだ隠れていた悪い潜水艦が魚雷で「あとらす」を攻撃し、あとらすが窮地に陥ってしまいました。この魚雷もラジコンで動く仕掛けです。SOSを受け、P-3Cが急行します。
P-3Cは持ち前の能力を発揮し、潜水艦を追跡します。そして対潜水艦用の魚雷が命中し、みごとに潜水艦をやっつけました。魚雷には、ちゃんと実際に海上自衛隊が使用する対潜水艦用魚雷である「MK-44」と名前が書いてある点が細かいですね。
……とまぁ、こんな感じでコミカルな要素を交えつつ、P-3Cの任務内容を巧みに紹介する見事なショーです。終了後の機体は、子供用のパイロットスーツや実際のヘルメットをかぶっての撮影会にも供されていました。第203教育航空隊も、このミニP-3Cの横にあるブースでオリジナルグッズを販売。「ATLAS(アトラス)」とは、この203教育航空隊が使用しているコールサイン(無線呼び出し符号)です。
多くの人がやってくる航空自衛隊とは違って、ちょっとマイナーな存在の海上自衛隊の航空祭。しかし独特の魅力にあふれて、空や飛行機への親しみを感じさせるイベントです。もし機会があったら、ぜひ訪れてみてくださいね。
(文・写真:咲村珠樹)