アメリカ国防総省宇宙開発庁(SDA)のデレク・トーニア(Derek Tournear)長官は2022年1月12日(現地時間)、極超音速滑空兵器を飛行中に探知・追跡できる人工衛星網の構築計画を明らかにしました。

 これは、オンラインで開かれた宇宙戦略に関するフォーラムにおいて言及されたもので、地球規模で極超音速滑空兵器の探知・追跡をする衛星を複数配置するとのことです。

 各国で開発が進む極超音速滑空兵器。現在はロケットで宇宙空間に打ち上げ、マッハ5以上の極超音速で滑空しながら姿勢を制御し、進路変更が可能な弾頭(突入体)が実験段階に入っています。

 現在のシステムでは迎撃が困難だという極超音速滑空兵器。しかし極超音速で降下する前、発射から宇宙空間にある時点ならば速度も遅く、迎撃のチャンスがあります。アメリカの計画は、その段階で探知・追跡する人工衛星網を構築しようというものです。

アメリカ宇宙軍ケープカナベラル基地から打ち上げられるファルコン9ロケット(画像:USSF)

 トーニア長官の発言によれば、探知・追跡用の人工衛星は、国際宇宙ステーションの周回軌道(高度約400km)より少し高い高度1000km~1200kmの低軌道(LEO)に、GPS(全地球測位衛星)と同じく複数配置されます。特定の場所を継続的に監視するならば静止軌道の方が優れていますが、低軌道ではより小規模なロケット発射時の熱源を精密に探知することが可能。

アメリカ国防総省宇宙開発庁のトーニア長官(画像:DoD)

 そしてGPSと同じく、複数の衛星からの探知・追跡情報を照合することで、より正確な発射地点を特定でき、また予想軌道も精密に測定可能。ミサイルなどで迎撃しやすくなるという訳です。

 次の段階としてトーニア長官は、衛星網からの情報をほぼリアルタイムで迎撃システムの発射管制へと転送する仕組みが必要になると発言。大量のデータを瞬時に転送できる、レーザー通信衛星網の構築が必要だと語りました。

衛星通信アンテナを展開するアメリカ陸軍(画像:U.S.Army)

 計画では、2024年9月に第1陣として144機のデータ中継衛星を打ち上げはじめ、衛星通信網の初度戦闘適用段階を達成するとのこと。そして2024年または2025年に、探知・追跡衛星を28機打ち上げ、地球規模での監視網を構築するとしています。

アメリカ宇宙軍ケープカナベラル基地から打ち上げられたファルコン9ロケット(画像:USSF)

 小型の衛星を多数打ち上げることについて、トーニア長官は「敵対勢力が衛星破壊兵器で攻撃してきても、機能が維持される冗長性を確保するため」と理由を説明しています。インターネット網と同じように、どこかで障害が起きても別のルートで機能維持が可能であるならば、攻撃による無力化はより困難になることでしょう。

 宇宙開発庁は国防総省のもと、2019年3月に設立されたアメリカの将来宇宙戦略を担う組織。2022年10月には、アメリカ宇宙軍にその役割を移譲する予定である、ということもトーニア長官は述べています。

<出典・引用>
アメリカ国防総省 ニュースリリース
画像:DoD/USSF/U.S.Army/USMC

(咲村珠樹)