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サイバーパンクなチャイナタウンを描く「チャイナパンク」アーティスト パンズーの作品世界

 エキゾチックでいて、どこかレトロさも感じさせるチャイナタウン。原色を多用した派手な看板やネオンサインが彩る夜景は、多くの人々にイマジネーションのきっかけを与えてきました。

 架空のチャイナスラム街「奸智街(かんちがい)」を舞台にしたビジュアル作品を発表している、アーティストのパンズーさんも、そうした独特の雰囲気に魅せられた1人。自ら「チャイナパンク」と呼ぶ、その作品世界をご紹介します。

 元々はデザイン会社のグラフィックデザイナーとして、様々なポスターなどの広告ビジュアルや、お店の空間デザインを手掛けてきたパンズーさん。2021年9月より、作家活動に入りました。

  •  現在展開している「チャイナパンク」の源流についてうかがってみると、中学・高校時代にお父様からの影響でダークファンタジー系ゲームの「PINK GEAR」や「RIVENシリーズ」をプレイしたことに始まり、大学時代には楳図かずおさんや古屋兎丸さん、丸尾末広さんの漫画作品に触れ、感性が磨かれていったのだとか。

     そこに決定的なイメージを与えてくれたのが、廃墟化した九龍城砦(九龍寨城)をイメージして作られたゲームセンター「ウェアハウス川崎 電脳九龍城(2019年11月閉店)」への訪問経験だったといいます。

     パンズーさんはその衝撃を「瞬く真っ赤なネオン看板、乱雑に貼られたポスター、店内に作られた薄暗い九龍の街並みといった、自分が探し続けていた世界が広がっていました」と語ってくれました。この時抱いた「いつかこんな街を作りたい」という思いが、チャイナパンクの世界観へと繋がっていったそうです。

     現在までに発表されてきたチャイナパンク作品のモチーフは、架空のチャイナスラム街「奸智街(かんちがい)」にある商店や施設だとのこと。このため、基本的にはお店のネオンサインや、お店のイメージをビジュアル化しているそうですが、さらにひとひねり加えられています。

     「パッと見で何屋か分かってしまうと面白みが半減し、かといってかけ離れたモチーフでは見る側を置き去りにしてしまう。2つのバランスのちょうど良いところを探し、かつ『なぜこれがここに?』と一瞬疑問の浮かぶモチーフを全体のバランスを見ながら探し、使うよう心がけています」

     歯医者さんをモチーフにした「奸牙科所」の作品では、歯が上下に配されているほか「無痛治療」を意味する言葉とともに、鎮痛剤として使われるモルヒネの材料であるケシの花と実が描かれています。ケシと一緒に描かれているシダは、中国で根を歯科用消炎鎮痛薬の原料にしている種類があることから。

    歯医者をモチーフにした作品(パンズーさん提供)

     作品制作に使っているのは、主にAdobe Illustrator。全体の構成と作り込みをした後にはAdobe After Effectsでモーション(動き)をつけているそうで、作品によっては間にPhotoshopでの加工も入るのだとか。

     例として「大人がいない街」という作品ができるまでを見せてもらいました。まずは大まかな画面構成と背景のトーン(グラデーション)を決め、要素を作り込んで配置していきます。

    まずは背景のトーンと画面構成のラフ(パンズーさん提供)

     左右に並ぶごちゃついた建物は、まるで永遠に続く魔境のような雰囲気。このほかにも、張り出した雑多な看板が、エフェクト加工をほどこしながら加えられていきます。

    建物が加わる(パンズーさん提供)

    看板が加わる(パンズーさん提供)

     手前の人物が見下ろす街はモヤに包まれ、ネオンの光によって所々色を変えて広がっています。画面の中央にあって視線を誘導する、大きな目をモチーフにした看板は、黒目(虹彩)の部分が大きさを変えつつ動く仕様。

    「大人のいない街」完成(パンズーさん提供)

     作品によって異なりはするものの、完成までの作業時間は「グラフィック作成に6時間~16時間、モーション作業に2時間~4時間ほどかかっています」とパンズーさん。様々な要素を選び、作り込むのに神経を使っていることが分かります。

     また、チャイナパンクのデザインセンスは、中国モチーフから離れてもポップな印象に一役買っています。2022年の正月に発表された作品では初詣をモチーフに、神社での参拝作法(2拝2拍手1拝)をリズムゲーム風に表現。

    初詣をモチーフにした作品(パンズーさん提供)

     パンズーさんの作品はTwitterで見られるほか、デザインフェスタに参加して展示即売されることもあります。2022年11月19日・20日に東京ビッグサイトにて開催予定の「デザインフェスタvol.56」にはクリエイター仲間と共同出展する予定とのこと。

     2023年は色々と予定があるそうで、5月開催予定の「デザインフェスタvol.57」には、妹でイラストレーターのさび助さんと一緒に出展予定。これ以外にも2月~3月頃にクリエイター仲間との3人展(詳細未定)も開催が予定されています。

     展覧会については、会期や会場など詳細が決まり次第、Twitterで告知するとのこと。またオンラインショップも開設を予定してるとのことで、公式サイトとあわせてチェックしておくとよさそうです。

    <記事化協力>
    パンズーさん(@OhPanzoo)

    (咲村珠樹)

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