前編最後で、偽仮想通貨取引所の会員登録に挑んだ筆者。身分証を求められ、困り果てたあげく「おもちゃの免許証」で賭けにでたところ……審査に通ってしまったまでが前回。

 本稿は、「漫画家・ぬこー様ちゃんの偽アカが出現 ホイホイついていったら案の定詐欺だった<前編>」に続く、潜入レポート後編です。

■ 既に完全アウトだが、もう少しやり取りしてみる

 おもちゃの免許証で審査を通ってしまったことは伏せ、登録が完了したことを偽ぬこー様ちゃんに報告。すると再度「U○○○○Vアプリ」のダウンロードを勧められました。

「U○○○○Vアプリ」を再度すすめてきた

 どうやらこのアプリ、先述の「TestFlight」上で動かすアプリケーションのようです。これは間違いなく、開発中のアプリだから、ではなく普通の審査を通らないアプリであるためでしょう。

 そこにどんな落とし穴が仕掛けられているかわかりません。今回は編集部で用意した、潜入用のスマホで試していますが、本来このようなTestFlightを介したアプリは、他人の勧めで安易に入れるべきでない、ということはぜひ念頭に置いておいてください。

アプリアイコン

 アプリを入れ終わり、ETHの入金アドレスをbitFlyerと紐づけようと指示してきたところで、いよいよ偽ぬこー様ちゃんに本題を投げかけます。

偽ぬこー様ちゃんに本題を投げかけてみる

 「この取引所の評判、相当悪いみたいなんですけど……信用して良いのでしょうか?」

取引所の評判が悪いと伝えてみた

 事実、ネット上で「U○○○○V」を検索してみると、出金トラブルが相次いで報告されているなど、全くと言って良いうわさがありません。少しでも怪しいな、と感じたら、まずはネットやSNSで検索してみることをおすすめします。

 すると、相手から返ってきたのは「U○○○○V取引所は国際市場投資の取引所で、現在アメリカの財務省に数兆ドルの担保を持っている」「世界40カ国以上で使用されている」という明らかな詭弁。よくもまあこんな嘘を重ねられるものだ……と、ある意味では感心してしまいました。

 ここで、「そんなはずないでしょう。だって、おもちゃの身分証で個人認証できてしまったのですから」と伝え、「ネットメディアの記者である」と身分を伝えると、さすがにマズイと感じたのか、以降相手が言葉を発することはありませんでした。やれやれ……。

偽ぬこー様ちゃん最後の主張

■ 巧妙化しすぎている詐欺の手口 慎重に行動している印象

 今回の事例にて感じたのは、手口が異様なまでに巧妙化している、ということ。

 これまで、いくつもの詐欺に潜入を重ねてきましたが、ここまで遠回しに案内されたのは初めてでした。まるでじっくりと獲物に狙いを定めるかのように。一度本物の取引所を介したのは、やはり「この投資は本当に信用できる」と思わせるためなのかもしれません。

 また、偽の取引所の作りも、実に本物らしく仕立てられています。

 実在の仮想通貨の値動きに連動しているのはもちろんのこと、「ニュース」の欄では実際の金融ニュースが配信(他サイトの転載ではありますが)されていたり、「白書」の欄では、実在の水素エネルギー企業団体である「HySTRA(ハイストラ)」の名を騙ったPDFが公開されています(HySTRA側は自HPにて注意喚起済)。

 もしかすると「仮想通貨投資を少し知っている」という人が、引っかかりやすい詐欺なのかもしれません。今回購入を勧められた仮想通貨CHEは、偽サイト上で毎日のように高値を更新しており、その勢いはまさにうなぎのぼり状態。毎日4~5%ほど価格が上昇しています。

他の仮想通貨との比較

異常に上昇しているCHE

 つまり、仮に100万円分購入したとすれば、毎日5万円の収入、月で150万円ほどの利益が見込めるということ。100万円の原資で、これだけのリターンがあるとなれば、気持ちが揺らぐことも理解できなくはないですが……もしも仮にそんな投資があるならば、SNS上には出回ることはまずありません。

■ SNSの有名人が狙われている?なりすまし対象が変遷した可能性も

 最後にもう一点。なりすましの対象にぬこー様ちゃんさんが選ばれたのは、おそらく堀江貴文氏や前澤勇作氏といった、テレビ等のメディアにも登場するような著名人を騙ることに限界が来たからではないかと推測できます。

 前澤氏に至っては、虚偽広告を載せ続けるMETA社を訴える、とニュースになったばかり。そこで、次の標的になったのがSNS上での有名人なのではないかと思っています。現に、他の著名アカウントからも偽物の出現が次々と上がっている状況です。

 しかし、今回の相手は、ひとつ大きなミスを犯しています。そもそも論、「ぬこー様ちゃんさんが、仮想通貨投資を勧めるはずがない」ということ。

 なんせ、漫画「友人に20万円のウコンを買わされそうになった話」で大バズりし、これまでにも幾度となくネット詐欺をテーマにした漫画を描いてきているのですから。

 ……と、言い切ってしまうのは少し軽率かもしれませんが、それでもかなり可能性は低いように感じます。「この人が本当にそんなことをするだろうか?」という視点で、普段の発信などを見てみるのも、詐欺被害を未然に防ぐ方法と言えるかもしれません。

 なお、偽ぬこー様ちゃんと今回のやり取りが終わった後、しれっとLINEのアカウント名を変えていることも発覚しました。このせいで、初期にたまたま撮っていたスクリーンショット以外の画像は、伏せたアイコンになってしまったというわけです。

 新しいアカウント名は「開○○龍」(○の箇所は編集部で伏せました)。これも実在するXのアカウントです。何を企んでいるのかは現段階では分かりませんが……懲りないやつ……。

最後に呼びかけてみた

<記事化協力>
ぬこー様ちゃんさん(@nukosama

(山口弘剛)