おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

海軍艦艇向け誘導砲弾「エクスカリバーN5」実射試験を完了

 2019年5月6日(現地時間)、アメリカ海軍とレイセオンはアリゾナ州の試験場で実施していた誘導砲弾「エクスカリバーN5」の実射試験を終え、満足いく結果が得られたと発表しました。エクスカリバーN5は、野砲(155mm榴弾砲)用として使用されている誘導砲弾「エクスカリバー」の海軍版で、艦艇の主砲として用いられている5インチ(127mm)砲に作られたもの。「N5」は「for Naval 5-inch Gun(海軍5インチ砲用)」を意味しています。

  •  エクスカリバーは、風の影響などで弾道がそれ、なかなか初弾から命中させるのは難しい火砲に対し、ミサイル並みの精度をもたらす誘導砲弾です。弾体には安定翼がついており、ロックオンされた目標へ向け、GPS誘導で飛翔します。155mm榴弾砲用では、39口径長で40km、52口径長で50km以上の射程距離で、誤差は半径2m以内。従来の無誘導の弾体では、これだけの精度を初弾から出すのはほぼ不可能です。現在まで1400発以上が実戦で使用されています。

     このエクスカリバーを海軍艦艇の主砲である5インチ砲(Mk.45)用に設計し直したものが、エクスカリバーN5です。155mm榴弾砲用と約7割が共通化されていますが、口径が127mmと小さくなるため、誘導装置をコンパクトにまとめると同時に、動かない地面で使う野砲と違い、波で動揺する艦砲という違いも開発の課題でした。

     アリゾナ州ユマ試験場での発射試験は2015年に始まり、様々なシチュエーションや距離、そして目標に対して試験が実施されてきました。レイセオンの地上戦闘システム担当副社長のサム・デニーク氏は、実写試験を振り返り「エクスカリバーN5は、海軍の艦砲用誘導砲弾の要求に応えてくれました。N5は従来の艦砲のおよそ倍となる射程距離を持ち、野砲用と同じだけの命中精度を実現しています」とコメントしています。

     艦艇には対艦ミサイルや巡航ミサイルもありますが、発射するVLS(垂直発射システム)は対空ミサイルや魚雷のアスロックと共用している上、セルの数にも限りがあります。しかも撃ち尽くした場合、セルごと交換する必要があるために一旦施設のある港まで帰らなければなりません。艦砲の砲弾なら、コンパクトなので数も多く搭載できますし、途中の補給も洋上で可能です。1発あたりの単価もミサイルに比べれば安価ですし、命中精度に差がなければ攻撃力(弾薬の投射能力)は桁違いのものとなります。

     レイセオンでは現在「エクスカリバー」シリーズとして、GPSの電波妨害に左右されないセミアクティブレーザー誘導の「エクスカリバーS」や、目標への最終到達時の軌道を変化させる「エクスカリバーSCT(Shaped Charged Trajectory)」なども開発中。より「ムダ弾」を少なくした一発必中の砲撃を実現させる考えです。

    Image:RaytheonU.S.Navy

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 弾道ミサイル対処訓練を行う護衛艦あたごの乗組員(画像:海上自衛隊)
    宇宙・航空

    弾道ミサイルに対処する日米共同訓練「レジリエント・シールド2023」

  • 横浜の「動くガンダム」前で再入隊の宣誓をするラビーチ2等兵曹(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    ガンダムの前で服務の宣誓!意外と自由なアメリカ海軍の再入隊式

  • LR-PGKの飛翔イメージ(画像:BAEシステムズ)
    宇宙・航空

    射程距離は「大和」主砲の1.6倍 BAEシステムズ長射程精密誘導砲弾キット実射試…

  • ずらりと並んだF/A-18E/FとEA-18G(78式組長さん提供)
    インターネット, おもしろ

    増えも増えたり50機あまり スーパーホーネットとグラウラーのプラモ飛行隊

  • 並走するフランス・イタリア・アメリカの空母(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ・フランス・イタリアの空母部隊 地中海で共同訓練

  • 開会式の記念写真右から3人目が海上自衛隊の野口1佐(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    日本を含む60か国が参加 中東で最大規模の海軍共同訓練始まる

  • トンガとの友情を見せるラグビーボールを示す航空自衛官(画像:Commonwealth of Australia)
    宇宙・航空

    火山災害のトンガ 自衛隊や各国軍による救援活動が進む

  • チュニジア海軍と訓練中の空母ハリー・S・トルーマン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    NATO艦隊が地中海で共同演習を開始 冷戦後初めてアメリカ空母も参加

  • サンディエゴを出港する空母エイブラハム・リンカーン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    空母エイブラハム・リンカーン 東太平洋地域へ展開

  • 空母ジョージ・H・W・ブッシュ艦上のMQ-25(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ海軍の無人空中給油機MQ-25 初めての空母運用試験終了

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

  • 「3色の鳥・ゆうちょバス 年金受取口座」篇
    エンタメ, 芸能人

    岡田将生さんが再び“謎の男性”に ゆうちょ銀行「ゆうちょバス」CM第2弾が放送へ…

  • 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾
    アニメ/マンガ, 放送・配信

    「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT …

  • 宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」公演、25日の東京公演が急きょ中止
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」、25日の東京公演が急きょ中止

  • 住まいを選ぶ際の考慮
    社会, 経済

    「春と秋、こんなに短かったっけ?」約9割が実感する“二季化”と住まい選びに与える…

  • テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダウンロード導線に不正改変か
    インターネット, サービス・テクノロジー

    テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダ…

  • トピックス

    1. 絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      どんな人間にもいつかはやってくる老眼。なんだか手元が見えづらいな……という状態を体験できるトランプが…
    2. 「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマホゲーム「特級呪術師」が配信され、SNSで物議を醸しました。公式…
    3. 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      東映は12月25日、11月に発表していた新番組「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」について、202…

    編集部おすすめ

    1. 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚歌劇団は12月26日、宙組が東京宝塚劇場で上演している公演について、主要な出演者の体調不良により公演の実施が困難な状況が続いているとして…
    2. シートタイプのWebMoney

      WebMoney、事業をビットキャッシュへ承継 一部サービスは終了へ

      オンラインゲームの課金手段として知られる「WebMoney」が事業の節目を迎えます。auペイメントは2026年3月31日付でWebMoney…
    3. 「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      育児などを理由に在宅で働きたいと求人サイトを利用した人が、結果的に高額な契約を結ばされるケースが相次いでいます。「完全在宅」「未経験OK」と…
    4. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    5. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト