3月は卒業や転勤など、お別れの機会が多くなる時期。軍隊のパイロットの場合、部隊を離れる際の儀式として水を掛ける伝統が知られていますが、アメリカ海軍の空母には、転出者のブーツをカタパルトで射出する「ブーツシュート」という面白い儀式があります。
空母の飛行甲板では、様々な職種の人が働いていますが、航空機運用に関わる黄色いベストを着たスタッフのうち、最終的にカタパルト発艦の指示を出すのが「シューター」。パイロットに対し、発艦に備えてエンジン全開にするよう指示を出し、最終的な安全確認の後、パイロットとカタパルト操作員(こちらも別の「シューター」が務めます)にカタパルト発艦のサインを出します。
このシューターが、乗務している空母から転出する際、実施されるのが「ブーツシュート」というお別れの儀式です。読んで字のごとく、転出で空母を離れるシューターの履いているブーツをカタパルトで海に射出(シュート)するもの。
これは、いつも航空機を送り出しているシューターが、逆に空母から送り出される立場になるため、残る乗組員たちがシューター本人の代わりに、ブーツをカタパルトで射出して「発艦」させてあげようという粋な伝統です。送り出されるシューターだけでなく、普段はカタパルトで発艦しているパイロットや飛行長(エアボス)、別のセクション担当の兵士たちがみんなでカタパルト発艦のサインを出します。
まずは射出の力に耐えられるよう、靴ひもをしっかり結んで両方のブーツを連結します。そして、通常は飛行機の首脚にあるランチバーを引っ掛けるカタパルトのシャトルに装着。
あとはみんなでカウントダウンして、シュート!何トンもある飛行機と違って、低い蒸気圧でも勢いよくブーツは飛行甲板から海へと射出されます。
空母によっては、シューターだけでなく、パイロットやほかの乗組員に対しても「ブーツシュート」が行われます。中には飛行長(エアボス)といったお偉いさんが、楽しんでブーツをカタパルトで飛ばす光景も。
ブーツの「カタパルト発艦」が終わると、靴下のまま飛行甲板の先端まで行き、飛んで行ったブーツの行方を確認します。平均飛距離はどれくらいあるんでしょうね。
普段の航空機運用では送り出す存在を、空母ならではの方法で送り出すアメリカ海軍。こういう遊び心が、長い航海生活には必要なのかもしれませんね。
Image:U.S.Navy
(咲村珠樹)