欧州宇宙機関(ESA)とロシア宇宙庁(ロスコスモス)は2020年3月12日(現地時間)声明を発表し、夏に予定していた火星探査機ExoMarsローバーの打ち上げを2022年に延期しました。世界中で感染が拡大している、新型コロナウイルスの影響を理由としています。

 ESAとロスコスモスが共同で行う火星探査計画「ExoMars」は、すでに大気を観測するExoMarsガス・オービターが2018年から火星周回軌道で観測を始めています。当初の予定では、火星表面で地質調査を行い、生命活動の痕跡を探るローバー「ロザリンド・フランクリン」を2020年7月26日~8月11日のうち、条件の良い日程でカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げることになっていました。

 世界中に感染が拡大する新型コロナウイルスの影響で、人や物資の行き来が制限されるようになったことを受け、ESAとロスコスモスは3月11日にトップ会談を行いました。その結果、新型コロナウイルス感染症の収束が見えないため、日程を2年遅らせて2022年8月〜10月の打ち上げを目指すことで合意したとのことです。

 ESAのヤン・ヴェルナー長官は「私たちは100%の成功が見込める状態でのミッションを求めており、わずかな失敗のマージンすら容認できません。安全な飛行と最高の火星探査結果がもたらされるためには、より綿密な検証が必要だと判断しました。これまでほぼ1年の間、24時間体制で働いてくれた全てのスタッフに感謝しています」との談話を発表しています。

 ロスコスモスのディミトリー・ロゴジン長官は「私たちは、2022年までミッション開始を延期するというバランスの取れた決断に至りました。これは主に、ExoMarsのシステム全体における信頼性を最大限担保するということと、現在ヨーロッパ全体で起こっている疫学的な状況(新型コロナウイルスの感染拡大)に起因する不可抗力によるもので、私たちの専門家チームが協力企業へ出張することが事実上不可能になってしまいました。私たちロスコスモスとヨーロッパの同僚が、プロジェクトを成功裏に実施するために講じている全ての措置が、ミッションの実施において非常に前向きな結果をもたらすと確信しています」というコメントを発表しています。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、実際の宇宙計画に影響が出たのはこれが初めてのケース。このまま感染拡大が止まらなければ、ほかの計画、特に有人宇宙計画は大幅なスケジュールの見直しが必要になるでしょう。

 誰も頼るもののいない宇宙空間で、一番致命的なのが伝染病です。特に今回の新型コロナウイルス感染症については確立された治療法がなく、完全な閉鎖空間である宇宙船内で感染拡大を止める手立てはありません。これからの推移を見守りたいと思います。

<出典・引用>
欧州宇宙機関(ESA) ニュースリリース
ロシア宇宙庁(ロスコスモス) ニュースリリース
Image:ESA/Airbus

(咲村珠樹)