おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】228回 砂糖ぬきのコーヒー一杯/奥友志津子

砂糖ぬきのコーヒー一杯 「うちの本棚」、今回は奥友志津子の隠れた人気シリーズ「星子シリーズ」2編を収録した『砂糖ぬきのコーヒー一杯』をご紹介します。
このシリーズ、読めば読むほど味わいのあるものなんですが…。

  • 【関連:227回 遠い雷鳴の中/奥友志津子】

    砂糖ぬきのコーヒー一杯

     本書は奥友志津子の2冊目の単行本。初出に関しては本書の扉ページに「ひとみ・ひとみデラックス掲載」との記載があるだけで、各作品に関してのデータはない(ネット上で確認できるものもあったが、信用に足らないため割愛した)。

     表題作である『砂糖ぬきのコーヒー一杯』および『きみらよ反旗をひるがえせ』の2作は、最初の単行本『遠い雷鳴の中』に収録された『3月はブルースにかこまれて』の続編。主人公の星子は作者も予想外の人気があったらしい。このあたりも清原なつのの「花岡ちゃん」に共通しているように感じたりもする。
    『きみらよ反旗をひるがえせ』は秋田書店「ひとみ」昭和54年12月号に掲載されたようだ。大学受験を目前にした星子と腐れ縁の京介を中心に描かれる日常だが、星子のいとことして登場する女子大生、久美子の存在が、また清原なつのの「花岡ちゃん」に登場する笹川華子女史に似ていたりする。さらに言えば星子が思うところの人生や生きる意味ということ自体が「花岡ちゃん」でも語られているようなことだったりするのではあるが…。もっとも思春期にはありがちな思考であって、共感する読者が多かったからこその人気だったのだと思う。

     タイトルのイメージだとクラスや校内で教師や学校に対して反対運動でも始めるのかと思ってしまうが、凡庸として生きているように見える人々の心の中にも、何かしら生きる目的なり「反旗」があるのだという内面を意味したものだった。
    『砂糖ぬきのコーヒー一杯』は大学生になった星子のエピソード。ネット上では秋田書店「ひとみ」昭和54年9月号との記載が確認できるが、55年の間違いであろう。

     大学に入ってみると、期待していた生活とは違っていて目標や目的を見失いつつある星子。その彼女の前に内藤 笙という学内でも有名な才女が現れる。迷っていた星子に答えのヒントを与えるような存在で、彼女のいる演劇部に関わることになっていくのだが…。今回のエピソードではいままで恋愛経験のなかった星子が恋をするというのが一番のテーマ。そのため連作の中ではもっとも少女漫画的な内容になっているといっても言い。

     読んでいて思ったのは、「花岡ちゃん」もそうなのだが、内田善美の『空の色に似ている』にも印象が近いシリーズだったということ。この星子のシリーズが「花岡ちゃん」シリーズや『空の色に似ている』ほど話題にならないのはずいぶんと残念なことだと思う。やはり発表媒体の問題だったのだろうか。

     これは余談のようなものなのだが『砂糖ぬきのコーヒー一杯』には星子の飼い猫が登場する。最初のシーンでは「ロン」と呼ばれ、2回目に登場したときには「ポン」と呼ばれていて、おかしいなと思ったら「ロン」は三毛猫で「ポン」はトラ猫。どうやら2匹の猫がいたらしい。また浪人せずに大学に入っているので、まだ未成年のはずの星子と京介が平気で酒タバコっていうのはまずかったんじゃないの? と(笑)。
    『九月終章』は、両親を亡くし、育てられていた祖母にも死なれた遠い親戚の少女を引き取り、姉弟として暮らすようになった主人公によって語られる、美しすぎる姉の物語。
    『幻想庭園』はファンタジーホラーという印象の作品。こういうミステリアスな作品に奥友らしさを感じてしまうのは、SF作品の印象が強いからかもしれない。

     今回、本書を改めて読んでみて思ったのは、星子のシリーズを中心にした作品集などが再刊行されてもいいのではないかということ。そろそろ奥友志津子の再評価を始める時期に来ているのではないだろうか。

    書 名/砂糖ぬきのコーヒー一杯
    著者名/奥友志津子
    出版元/秋田書店
    判 型/新書判
    定 価/370円
    シリーズ名/HITOMI COMICS
    初版発行日/昭和56年7月15日
    収録作品/きみらよ反旗をひるがえせ、砂糖ぬきのコーヒー一杯、九月終章、幻想庭園

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】230回 ラストシーンはまだはやい/奥友志津子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】229回 シルバー・ムーン/奥友志津子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】227回 遠い雷鳴の中/奥友志津子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. インターネットの最深部を疑似体験できるダークウェブ体験シミュレーター「Welcome to Underground」

      ダークウェブを疑似体験できるサイト登場 「Welcome to Underground」に背筋ひんやり

      数々のホラーコンテンツを手掛けてきた「株式会社闇」。同社のAIプロジェクト「YAMI AI」が、イン…
    2. 火も包丁も使わない ヒガシマル公式「丸ごとソーセージの炊き込みご飯」が背徳的なおいしさ

      火も包丁も使わない ヒガシマル公式「丸ごとソーセージの炊き込みご飯」が背徳的なおいしさ

      ヒガシマル醤油のロングセラー商品「うどんスープ」。うどんだけでなく様々な料理に使える万能調味料として…
    3. 「遊☆戯☆王」公式、ホワイトハウス投稿動画に声明 無許諾使用を指摘

      「遊☆戯☆王」公式、ホワイトハウス投稿動画に声明 無許諾使用を指摘

      米政権のホワイトハウス公式Xアカウント「@WhiteHouse」が3月6日に投稿した動画をめぐり、ア…

    編集部おすすめ

    1. 静岡県アニメモデル地マップ

      静岡県、アニメモデル地マップを配布 4作品17か所を掲載

      静岡県は、県内各地を舞台とするアニメのモデル地をまとめた「静岡県アニメモデル地マップ」を作成し、3月10日より県内各所で配布しています。対象…
    2. 「貴姫さまの憂鬱~あやかし探偵事件簿~」キービジュアル

      いのまたむつみキャラ原案、氷栗優作画「貴姫さまの憂鬱」連載へ 楊貴妃が現代京都で“あやかし探偵”

      Gakkenは、Webサイト「コミックノーラ」にて新作コミック「貴姫さまの憂鬱~あやかし探偵事件簿~」の連載を、3月26日10時から開始する…
    3. 「ウルトラエッグカツ丼」は税込979円(券売機店舗は税込980円)

      かつや「ウルトラエッグカツ」登場 「こういうのでいいんだよ」なおかずを全部のせ

      とんかつ専門店「かつや」が、期間限定メニュー「ウルトラエッグカツ定食」と「ウルトラエッグカツ丼」を、3月13日から販売すると発表しました。ロ…
    4. 「涼宮ハルヒの憂鬱」再放送 2006年と同じエピソード順で全14話

      「涼宮ハルヒの憂鬱」再放送 2006年と同じエピソード順で全14話

      テレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」が、放送開始20周年を記念して再放送されることが3月9日に発表されました。TOKYO MXとBS11での放送…
    5. 自衛官の足の悩みから生まれた「自衛隊向け靴下」 反響を受けラインナップ拡充

      自衛官の足の悩みから生まれた「自衛隊向け靴下」 反響を受けラインナップ拡充

      陸上自衛隊員の足トラブルを前提に設計された、タクティカルソックス「IMPACT LOCK FORCE」に、新サイズ27~29cmと総丈19c…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト
    支援