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【無所可用】鉄道に憑依する妖怪たちのおはなし

update:

43615e9f不定期連載の「エドガーの無所可用、安所困苦哉」。エッセイの様なコラムの様な読み物です。第六回目の今回は・・・妖怪のおはなし。。
とは言っても、そんな怖い妖怪じゃないですよ。あくまで「鉄道」に憑依するどれも鉄道ファンには愛着のある愛すべき妖怪たちのお話です。

  • 「ひれいぼう」

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    妖怪「ひれいぼう」は、漢字で書くと「非冷坊」である。この妖怪は鉄道車輛に憑依し、乗客を暑さで苦しめる。
    その傾向から、夏場しか出てこない妖怪であると考えられていたが、実は「ひれいぼう」に憑依された車輛は冬でもそのままで、日本の冬は暑苦しくないため、それと気づかないということが最近徐々に知られてきた。
    夏が近づけば、「ああ、ひれいぼうか」と、人々に気づかれる。
    ひれいぼうの除霊は、ここ数年でかなり進んだ。
    いまでは「そもそも、ひれいぼうの存在意義があやうい」と言われている北海道北部・東部あたりへ行かないと出会えないような存在になってしまっている。

    しかも、「存在意義のあやうい地域」であるわけだから、憑依されていることを人が身をもって感じることが難しいという難題も彼らは抱えている。
    かつては「夏の風物詩」と言われたひれいぼうであるが、最近の鉄道車両が風情を欠くというのは、このあたりから発生しているとする説もある。

    だが、除霊されたひれいぼうたちが、ときとして集団をなして襲いかかる現象が、ここへ来て散見されはじめた。彼らは、除霊され浮遊していたのだと推測されているのだが、どこかに特異点が発生すると、いっせいにそこに集まり、たちまちのうちに人々を苦しめるのである。

    かつての鉄道車両やバス車輛は、ひれいぼうは憑依してしまうものだ、という自然の法則にもとづいて製造されていたため、ひれいぼうが憑依した場合の対策は乗客の判断で行えた。簡単に言えば、窓が開くようにされていたのである。

    江ノ電356しかし、ひれいぼうの除霊技術の進歩により、その必要がなくなると、「窓を開くように作ると高くつく」などの理由で、窓の開かない車輛が作られ始めた。
    近年、特異点におけるひれいぼうの被害の大きさが問題になっているが、これはひれいぼうが決していなくなったのではなく、「憑依しにくくなった」だけのことであり、それゆえその備えを怠ったがために強烈なしっぺ返しを受けた、と言えるだろう。

    本格的に暑くなる前に、たまに電車の窓を開け、ひれいぼうに「きてもいいぞ、今なら」という余裕をみせておく必要が、あるのではないだろうかと考えらはじめた。
    よい傾向と言えるだろう。
    しかし、単なる懐古趣味にならないように、気をつけていく必要があることは、言うまでもない。

    「ときのかみふだ」

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    ときのかみふだは、漢字で書くと「時の紙札」である。この妖怪は、鉄道車両そのものに憑依することはない。
    ではどこに憑依するのかというと、鉄道を利用する我々の財布、パスケースなどに憑依するのである。

    特に春先は憑依される率がかなり上昇する。これは、わが国では春は門出の季節であり、多くの「新たなる鉄道利用者」が発生することによるとされている。
    これら新たなる鉄道利用者は鉄道を常用するには初心者であり、かなり列車本数の多い路線を利用していても、つい、列車の時刻が気になってしまう。

    ときのかみふだは、この、人の不安感を利用して憑依する。
    また、昨今では、春にあわせて鉄道のダイヤ改正が行われる場合が多い。それも、新たなる利用者が発生する少し前に行われることが多くなっている。
    このとき、かなり鉄道に慣れているものでも、「いつもの電車がいつもの時間に来なくなってしまうのではないか」という漠然とした不安にかられる。

    一説によれば、この漠然とした不安は、前年憑依したときのかみふだがかもしだすのだ、と考えられている。というのも、ときのかみふだは、一定の時期を過ぎると、憑依を終え、憑依していたパスケースや財布から出て行くのである。
    そして、あらたなときのかみふだが、あいた場所に憑依する。

    そう、ときのかみふだは、このようにして、「代謝していく妖怪」なのである。
    ときのかみふだに憑依されていると、人はなんとなく安心すると言われている。次の電車が心配になったら、この妖怪を呼び出せばいい。終電が心配なときも、ときのかみふだなら終電を知っている。人々はなぜかそのようなことを無意識に行っており、ほとんど気づくことは無い。

    時代が進歩し、ネットで詳細な移動ルートの検索ができるようになった今でも、ときのかみふだに憑依されている人は大勢存在している。
    これは、「普段のらない路線は検索するが、毎日乗る路線はそうしない」という、不思議な使い分けからくるものである。

    最近の研究では、ときのかみふだが自らの妖怪としての系統を絶やさぬようにするために、このような「使い分け」を操作しているという説がささやかれている。すでに述べたように、我々は、定期券とさほど変わらぬ大きさをしたこの妖怪に憑依されていると、なんとなく安心する。

    それは、ときのかみふだには「いつもの」が記載されている、ということを、信じているせいではないかと言われている。ときのかみふだは、情報化時代を、あえてかみふだという姿を変えないことで乗り切った、現代社会に対応した妖怪と言えるのかもしれない。

    写真:京急500、江ノ電356
    写真:日比谷線秋葉原駅時刻表

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