「うちの本棚」、前回ご紹介した『海辺のカイン』に続いて樹村みのりの『母親の娘たち』をご紹介いたします。

 全く別の作品ではありますが、その内容は『海辺のカイン』の続編とも受け取れるもので、ぜひセットでお読みいただきたい作品です。

【関連:235回 海辺のカイン/樹村みのり】

母親の娘たち

 作者は「あとがき」で、本作を描いた83年の2、3年前ごろから母娘関係に関心を持っていたと語っている。『海辺のカイン』が描かれたのが80年なので、この頃からということになるのだろう。また同時期の『悪い子』も少し系統は違うが同じテーマから発想されたと考えていいだろう。

 『海辺のカイン』でも母娘関係についてはメインとも言えるテーマになっていたが、本作で樹村みのりは正面から母娘関係に取り組んでいる。と同時に83年当時、あまり母娘関係について言及されることがないのは、男性視点からであり、女性の発言が増えることによって母娘関係についての言及も増えるだろうと「あとがき」で述べており、女性である樹村みのりが母娘関係をテーマに作品を描くということは、二重の意味があったのだと思う。とはいえ、作品の内容とは別に、この作品が成功したかというと、残念ながらそうではなかったようだ。というのも連載終了後、本作が単行本として刊行されるまでには6年が経っているからだ。「あとがき」を読む限り河出書房新社でも本作を単行本化しようと初めから企画していたのではなく、「樹村みのりの単行本を出そう」ということのようだったらしく、『母親の娘たち』に決まったのは作者のチョイスのようだ。長編作品の少ない樹村みのりのもっとも長い作品でもあり、テーマへのこだわりから言っても代表作といえる本作が、ある意味、偶然単行本化されたというのは興味深い事実ではある。

 中学時代に同級生だったふたりの女性が再会する。ひとりは結婚しふたりの子供を持つ上野舞子。もうひとりは独身でイラストレーターの水島麻子。中学時代のエピソードは、かつて樹村みのりが描いた短編などを彷彿とさせ、それらのキャラクターたちの成長した姿のようにも思える。そして水島麻子は『海辺のカイン』の展子の分身のようだ。樹村みのりはこのとき、自身の作品の集大成のような作業をしていたのかもしれない。

 ここで描かれた母娘関係は上野舞子のもので、『海辺のカイン』で描かれた展子のものとは対照的だ。はっきりと描かれてはいないが水島麻子は展子のような母娘関係を経験していたのだろう。その対比から何かを描き出そうとしていたのだと思えるが、樹村みのりは別の方向へと話を展開してしまう。サブタイトル「新たな展開」がまさにそうなのだ。

 水島麻子は『海辺のカイン』の展子と同じような経験をするが、数年を経て上野舞子とまた会ったときに、ふたりの会話によって『海辺のカイン』が最終的に完結したような印象を受けた。つまりは本作は『海辺のカイン』とセットで初めてその本質に迫るという構造といえるのではないかと思う。

 未読の方はぜひ本作の前に『海辺のカイン』をお読みください。

初出:秋田書店「Bonita Eve」1984年1~6月号

書 名/母親の娘たち
著者名/樹村みのり
出版元/河出書房新社
判 型/A5判
定 価/980円
シリーズ名/カワデ・パーソナル・コミックス(24)
初版発行日/1990年3月31日
収録作品/母親の娘たち(1・上野舞子、2・水島麻子、3・グレート・マザー(太母)、4・母なるものを求めて、5・新たな展開、6・パンドラの箱)、あとがき

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/