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【うちの本棚】238回 ジョーン・Bの夏/樹村みのり

 「うちの本棚」、樹村みのりの『ジョーン・Bの夏』を、今回はご紹介いたします。

 主人公の内面を掘り下げていく3つの短編と、猫との生活を描いた計4作品を収録した一冊で、作者についても知ることのできるファン必読の書と言えるでしょう。

  • 【関連:237回 カッコーの娘たち/樹村みのり】

    ジョーン・Bの夏

     80年代前半に発表された短編を集めた作品集。刊行当時『水子の祭り』は最新作だった(初出時には未完成)。またアンケート形式の「Q&A」「全調書」で、樹村みのりという人物についても知ることができる一冊となっている。

     『ジョーン・Bの夏』『夜の少年』『水子の祭り』の3作は共に主人公の内面を掘り下げていく作品で、この当時、倉多江美や山岸凉子なども描いていた心理学的なアプローチとも共通するが、樹村みのりの場合は病理的な内容ではなく、過去の自分と向き合うというものが多い。
    前述の3作は共に恋愛に絡んで自分を見つめ直すという点でも共通点があり、80年代前半の樹村みのりのテーマだったように思える。
    『ひとりと一匹の日々』はシナリオライターの女性が主人公の作品で、子猫を拾って飼う話なのだが、半ば作者の話のようでもある。ちょっと重い3作品の後に読むと、ほっとする効果もある…かな?(笑)

     ここしばらく樹村みのり作品を集中して読み返してきて、以前は気づかなかったのだが、案外自分と樹村みのりは思考パターンが似ているのではないかと思った。読んでいてストーリーの展開がわかるわけではないのだけれど、自分でも同じような展開にするのではないかというものがけっこうあったりした。またビジュアル面でも、キラキラふわふわした絵柄でないところは好きな部分だったりする。
    『ジョーン・Bの夏』『水子の祭り』はのちにヘルスワーク協会から刊行された「樹村みのり作品集『海辺のカイン』」に再録された。また『夜の少年』はソノラマ文庫版の『カッコーの娘たち』に、『ひとりと一匹の日々』は猫漫画のアンソロジーに再録されている。

    初出:ジョーン・Bの夏/小学館「プチフラワー」1980年夏の号、夜の少年/小学館「プチフラワー」1981年秋の号、水子の祭り/小学館「プチフラワー」1982年秋の号、ひとりと一匹の日々/新書館「グレープフルーツ」1982年4号(初出時は『一人と一匹の日々』)

    書 名/ジョーン・Bの夏
    著者名/樹村みのり
    出版元/東京三世社
    判 型/A5判・ハードカバー
    定 価/980円
    シリーズ名/MY COMICS
    初版発行日/1983年2月10日
    収録作品/ジョーン・Bの夏、夜の少年、水子の祭り、樹村みのり全調書、ひとりと一匹の日々、ぷろふぇっしょなるQ&A、全作品リスト、作品後記、解説・小沢瑞穂、巻頭にカラーイラスト

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

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