「うちの本棚」、今回は倉多江美の最初の長編作品『エスの解放』を取り上げます。精神世界をテーマにした「異色」の作品であり、倉多江美の代表作のひとつでもあります。
それまでにも『かくの如き…!!!』や『パラノイア』といった作品で精神の世界に迫っていた倉多が、最初の長編で取り上げたのも精神世界だった。
ヴィジュアル的にも内容に合せた独特の雰囲気を作りだしていて、自身の精神状態に不安を感じる樫山めいの心情をよく表現している。正直言って絵のうまい作家ではないと思うが、表現力という点では絵的にも内容的にもかなりのセンスを感じる。
ひとりの女子生徒の投身自殺に始まるストーリーは、ミステリー的な要素をからめながら人の意識の奥へと踏み込んでいき、オカルト的な雰囲気もかもしだしつつ、謎の確信へと迫っていく。
この作品が発表されたころには、山岸涼子が『天人唐草』を発表したり、人の精神をテーマにした作品が目立ち始めたころだった。雑誌「ぱふ」でも『天人唐草』とこの『エスの解放』を比較するように取り上げた記事があったように記憶する。
もっともその後も精神世界をテーマに作品を展開していった山岸とは対照的に、倉多は『一万十秒物語』や『閑人クラブ』といったギャグ作品を描くようになっていったのだけれど…。
『エムの解放』は自作パロディといった感じの短い作品。重苦しい『エスの解放』を読んだ後でこの『エムの解放』を読むとほっとする(笑)。
初出:エスの解放/白泉社「ララ」昭和53年9月号~昭和54年2月号、エムの解放/描き下ろし
書 名/エスの解放
著者名/倉多江美
出版元/白泉社
判 型/新書判
定 価/340円
シリーズ名/花とゆめCOMICS
初版発行日/1979年3月20日
収録作品/エスの解放、エムの解放
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)