「うちの本棚」、今回取り上げるのは、倉多江美の『バンク・パムプキン』です。私漫画ともいえる作者の日常を描いた作品に加え、それまでのものとは一味違う恋愛ものなどが収録された単行本です。
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この『バンク・パムプキン』が、新刊で倉多江美の単行本を買った最後のものになっている。
というのも、こちらが読みたいと思っていたのは『かくの如き…!!!』や『イージー・ゴーイング』などのシリアス系作品だったのだが、当時は『一万十秒物語』などのシニカルなギャグ作品が倉多の主流になっていたからだ。当時の感覚としては「もういいかな?」というのがあって、この単行本以降は追いかけなくなってしまった。またこの単行本自体、サラッと目を通しただけで本棚に並べられ、今回このコラムを書くにあたって初めてキチンと読んだというのが正直な話だ。
数年(十数年?)ぶりに手に取ってみて気がついたのは、表紙のイラストだ。細い三つ編みの女の子と太めのポニーテールの女の子の後ろ姿が描かれている。「え、これって『ぼさつ日記』のふたりなんじゃ?」と思い、表題作『バンク・パムプキン』がぼさつと裾野の成長した姿を描いているのでは…とちょっと期待したりもしたのだが、実際は全く別のキャラクター、別の話で、太めの女の子すら出てこなかった(笑)。表紙のイラストってなんだったんでしょう?(笑) これはこれで内容には関係なく、ぼさつと裾野を描いていたのであったらいいんですけどね。
『バンク・パムプキン』は免許を取ったばかりの女の子ふたりがヨコハマから箱根に小旅行をするというお話。シトロエン2CVという車でスピードも出ず、おっかなびっくり運転して、安い宿を見つけて宿泊し…というロードムービー的な内容で、倉多にしてはいたって普通な作品と言っていいだろう。
『ネコじゃ ネコじゃ』と『恐怖の体験レポート』は私小説ならぬ私漫画(この言葉が使われ始めたのは、本作発表の少しあとだったように思う)。自宅の庭に通ってくるノラネコのエピソードと、自分で車を運転した際の体験を描いたこの2作は、当時の倉多作品を象徴するものかもしれない。
『優子』と『はなび』はシリアス系の作品だが、主人公の女の子の恋愛というごく日常的なテーマを扱っている。とはいえそこは倉田江美、『優子』のラストなどにそれまでの恋愛漫画には見られなかった演出を効かせている。『優子』が発表されたのは80年で、いわゆるマイナーマンガ雑誌などでは「ニューウェーブ特集」が組まれるなど、新しい感覚を持った新人の作品が発表されていたりもしたのだけれど、そこに倉多作品が加わることはなかったと記憶する。すでにベテラン作家だったからだ。しかし倉多作品はわりと初期からニューウェーブといっていい斬新さと新鮮さを持っていて、この『優子』という作品もそんなもののひとつだったと言える。
初出:バンク・パムプキン/主婦の友社「ギャルズ★ライフ」1980年12月号、優子/主婦の友社「ギャルズ★ライフ」1980年2、3月号、ネコじゃ ネコじゃ/主婦の友社「ギャルズコミックDX」1980年秋、冬号、1981年春号、恐怖の体験レポート/主婦の友社「ギャルズコミックDX」1980年冬、夏号、はなび/富士見書房「ポップティーン」1980年11月号
書 名/バンク・パムプキン
著者名/倉多江美
出版元/主婦の友社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/GLコミックス(GL-4)
初版発行日/1981年7月15日
収録作品/バンク・パムプキン、優子、ネコじゃ ネコじゃ、恐怖の体験レポート、はなび
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)