おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】242回 ジョジョの詩/倉多江美

update:

 2015年も「うちの本棚」をよろしくお願いいたします。

 今回は、倉多江美の『ジョジョの詩』を取り上げます。ファンタジーというよりは童話といった方がしっくり来る、倉多ワールドを代表するシリーズです。

  • 【関連:241回 ありがとう涙クン!/塩森恵子】

    倉田江美/ジョジョの詩

     倉多江美の最初の単行本…のはず。初出に関しては各作品最終ページに記載されているデータに拠ったが、当時「ちゃお」は「少コミ」の増刊枠で発行されていたようだ。

     シニカルで乾いた笑いが倉多江美の特徴といっていいと思うのだが、この「ジョジョとカーキー姫」のシリーズはそんな倉多江美の本領が発揮された作品だとも言えるだろう。
     小学館の「フラワーコミックス」から出された単行本には「第一巻」の表記があるものの、2巻は刊行されることなく、後にサンリオからシリーズ全作品を収録した『倉多江美傑作集/ジョジョとカーキー姫(1978年6月30日初版発行)』が刊行されている。こちらには小学館版で未収録だった『大地の林檎』『フラッパー・ボーイ』『展覧会の絵』『G線上のアリア』に描き下ろし作品『太ったカイブツ』が収められ、シリーズ全作品を読むことができる。

    「ジョジョとカーキー姫」のシリーズはファンタジーというよりは童話といった方が近いような気がする。だいたい第一作で、主人公のジョジョが水や空に絵を描いてしまうのだからこれは童話でしょう。その後、SF的なアイデアやシュールなイメージが強まっていく。2作目では時空間のパラドックスを扱い、9作目では宇宙人まで登場してしまう。わかっているとニヤリとしてしまうようなアイデアやエピソードを散りばめつつ、わかっていなくても楽しく読めるというところは倉多江美の漫画家としての才能なのだろう。

     個人的に倉多江美は好きな作家の一人である。とはいえ、ビジュアル的には上手いといえる漫画家ではなかった。特に初期は。この「ジョジョとカーキー姫」のシリーズも回を重ねる毎に絵が上達していくのがわかる。漫画において絵が上手くなるというのは表現の巾が広がるということでもあるので、小さな町の話だったシリーズが、宇宙にまで広がっていったのも頷けるところだ。

    『エスの解放』や『かくの如き!!』といったシリアスな作品に惹かれてファンになったのではあるが、改めて「ジョジョとカーキー姫」シリーズを読んでみて、このシリーズが倉多江美の代表作のひとつであることを確信した。というのも倉多のコメディ作品とシリアス作品のいいところをこのシリーズは内包しているように思えるからだ。
     すでに第1作が発表されてから40年が経ってしまった。若い読者には馴染のない作品になってしまっているだろうが、機会があればぜひ読んでいただきたい。けして古くさい作品ではありませんから。

    初出:黄楊(つげ)の木/小学館「別冊少女コミック」昭和50年10月号、パコの家/小学館「別冊少女コミック」昭和51年2月号、ルー/小学館「別冊少女コミック」昭和51年7月号、秋の入り日/小学館「別冊少女コミック」昭和51年9月号、カーキー姫の午後/小学館「別冊少女コミック」昭和51年12月号、新青春/小学館「週刊少女コミック」昭和50年6月12日号増刊「ちゃお」、最高の一日/小学館「別冊少女コミック」昭和50年8月号増刊「ちゃお」、Fくんについて/小学館「別冊少女コミック昭和51年増刊「ちゃお」

    書 名/ジョジョの詩
    著者名/倉多江美
    出版元/小学館
    判 型/新書判
    定 価/320円
    シリーズ名/フラワーコミックス
    初版発行日/昭和52年3月5日
    収録作品/黄楊(つげ)の木、パコの家、ルー、秋の入り日、カーキー姫の午後、新青春、最高の一日、Fくんについて

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】254回 一万十秒物語/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】253回 上を見れば雲下を見れば霧/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】251回 私漫画が収録された倉多江美の『バンク・パムプキン』

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】249回 原形質/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】248回 エスの解放/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】247回 樹の実草の実/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】246回 宇宙を作るオトコ/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】245回 ドーバー越えて/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】244回 栗の木のある家/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】243回 ぼさつ日記/倉多江美

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. “すっぱいペヤング”が爆誕!?超大盛りハーフ&ハーフシリーズ最新作を実食

      “すっぱいペヤング”が爆誕!?超大盛りハーフ&ハーフシリーズ最新作を実食

      まるか食品は11月4日、「tabete だし麺×ペヤング超大盛やきそばハーフ&ハーフすっぱゆず」を発…
    2. カプコンが「二次創作ガイドライン」を公開 寛大なるルール制定の一方、戸惑いの声も

      カプコンが「二次創作ガイドライン」を公開 寛大なるルール制定の一方、戸惑いの声も

      ゲームソフト大手の株式会社カプコンは11月4日、「カプコン二次創作ガイドライン」を公式サイトで公開し…
    3. 仕事をする妻が武器商人にしか見えない?とあるXユーザーの自宅の“秘密”が最高だった

      仕事をする妻が武器商人にしか見えない?とあるXユーザーの自宅の“秘密”が最高だった

      数え切れないほどの銃や剣が並ぶ部屋の中で、ノートパソコンに向かう1人の女性。クライム系映画の1シーン…

    編集部おすすめ

    1. ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

      ヤマト運輸、「当日配送サービス」開始 同一都道府県内運賃も新設

      ヤマト運輸株式会社は、11月10日から「宅急便当日配送サービス」の提供を開始し、併せて新たに「同一都道府県内運賃」を導入すると発表した。午前…
    2. 1回1万円の「大人のセボンスター」カプセルトイ登場 女児ゴコロときめく本格宝石入り

      1回1万円の「大人のセボンスター」カプセルトイ登場 女児ゴコロときめく本格宝石入り

      株式会社KARATZが、カバヤ食品の玩具菓子「セボンスター」45周年を記念したジュエリー企画「大人のセボンスター」第3弾を発表。11月5日に…
    3. 嵐・四宮社長が偽アカウント多発に注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定もなし」

      嵐・四宮社長が偽アカウント多発で注意喚起 「来年のツアー用新アカウントの予定も現時点なし」

      人気グループ「嵐」の公式SNSをめぐり、偽アカウントの出現が相次いでいることを受け、所属する株式会社嵐の四宮隆史社長が11月4日、自身のX(…
    4. ヒャダイン氏おすすめ 「ブロッコリー×ごはんですよ×ねぎ油」レシピ作ってみた

      ヒャダイン氏おすすめ 「ブロッコリー×ごはんですよ×ねぎ油」レシピ作ってみた

      音楽クリエイターのヒャダイン(前山田健一)さんが、Xで紹介した超手軽レシピ。それは「ブロッコリーを桃屋『ごはんですよ』と『ねぎ油』で和えたら…
    5. カレーシチューに、フレンチサラダ、本当にまずかった脱脂粉乳他(2300円)

      昭和の“たのしい給食”が期間限定で復活 脱脂粉乳まで再現した「絶滅危惧食フェア」

      昭和50年代までの学校給食を忠実に再現した「絶滅危惧食フェア」が、11月7日~9日までの3日間、東京都八王子市にある「給食のおばさんカフェテ…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト