おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】244回 栗の木のある家/倉多江美

update:

 「うちの本棚」、今回取り上げるのは、倉多江美の『栗の木のある家』です。「逸郎クンシリーズ」全4話をまとめたこの単行本は、その後の倉多江美の方向性を滲ませていると感じます。

  • 【関連:243回 ぼさつ日記/倉多江美】

    倉多江美/栗の木のある家_NEW

     本書はフラワーコミックスにおける「倉多江美傑作集」の第3巻にあたる。
    『森の小径』『セブンスター』『初夏』『栗の木のある家』は、「逸郎クンシリーズ」である。それぞれ独立しても読める短編のシリーズ作品ではあるが、統一のタイトルが付いていれば4回連載の長編ということもできたのではないかという気もする。

     掲載誌が「JOTOMO」で、読者対象が「少女コミック」よりも上に設定されていた(と思われる)雑誌なので、倉多のタッチもそれまでのものよりさっぱりした印象だ。内容も思わずニヤリとしてしまうような感じで、「少コミ」に発表する作品とは意識的に変えて描いていたのだと思う(ちなみに「JOTOMO」は「女学生の友」を改題したもの)。

     個人的には、この「逸郎クンシリーズ」で、倉多はそのカラーを固めたのではないかと思っている。
    「逸郎クンシリーズ」は、掲載誌の月号に沿って、主人公・逸郎の高校受験から高校生活を描いたもの。母を亡くし、父親とふたりの姉と暮らしている逸郎の日常を描いたホームドラマと言ってしまえばそれまでだが、倉多江美らしい個性あふれるキャラクターばかりが登場している。クールな長女、稲子は15歳年上の大学教授と恋愛していたり、次女の桃子は逸郎と口げんかが絶えず、逸郎からは「山ざる」と呼ばれている。通学途中にコローの絵画「森の小径」のイメージに似た場所があることで受験し、入学したH高校では、加川という一風変わった友人ができる(この加川、稲子の付き合っている大学教授の親類だったりする)。

     読み返してみると、単独の読み切りシリーズというよりは、やはり一本の長編という印象だった。さらに言えば、まだまだ続きが描ける状況で、逸郎の成長をもう少し見たかった気がしないでもない。
    『受難曲(パッション)』は、主人公が好ましく思っていない友人になつかれ、つきまとわられるというコメディ作品。ここでは主人公は女の子ではあるけれど、構図としては『ぼさつ日記』的な一方通行な友情が描かれる(ラストではその理由も明かされたりするのだが)。倉多らしい作品のひとつといってもいいだろう。
    『ひまわり屋敷のテンプルちゃん』『半月アニスのビスケット』は、テンプルちゃんのシリーズ。『ひまわり屋敷~』は『不思議の国のアリス』を下敷きにしたファンタジーコメディといったところか。『半月アニス~』はラブコメに近い印象だ。

     こうしてみると倉多江美の作品にはシリーズものが多いようだ。はっきりシリーズとしてタイトルの付いていない『新青春』『五月病』も連作シリーズだろう。同じキャラクターや設定で、話が作りやすかったということもあるのだろうが、創造したキャラクターをもっと掘り下げたいという気持ちが作者の中にあったのではないかという気がする。

    初出:森の小径/小学館「JOTOMO」昭和52年1月号、セブンスター/小学館「JOTOMO」昭和52年3月号、初夏/小学館「JOTOMO」昭和52年5月号、栗の木のある家/小学館「JOTOMO」昭和52年7月号、受難曲/小学館「JOTOMO」昭和51年11月号、ひまわり屋敷のテンプルちゃん/小学館「別冊少女コミック」昭和49年7月号、半月アニスのビスケット/小学館「別冊少女コミック」昭和50年8月号

    書 名/栗の木のある家
    著者名/倉多江美
    出版元/小学館
    判 型/新書判
    定 価/320円
    シリーズ名/フラワーコミックス(FC-353)
    初版発行日/昭和53年6月20日
    収録作品/森の小径、セブンスター、初夏、栗の木のある家、受難曲、ひまわり屋敷のテンプルちゃん、半月アニスのビスケット

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】254回 一万十秒物語/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】253回 上を見れば雲下を見れば霧/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】251回 私漫画が収録された倉多江美の『バンク・パムプキン』

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】249回 原形質/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】248回 エスの解放/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】247回 樹の実草の実/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】246回 宇宙を作るオトコ/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】245回 ドーバー越えて/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】243回 ぼさつ日記/倉多江美

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】242回 ジョジョの詩/倉多江美

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 甘いの?しょっぱいの?1日20食限定の「チョコレート味噌ラーメン」が唯一無二の体験だった

      甘いの?しょっぱいの?1日20食限定の「チョコレート味噌ラーメン」が唯一無二の体験だった

      都内に6店舗を構えるラーメン店グループ「ソラノイロ」は、2月11日から「そらのいろ 銀座本店」にて1…
    2. 鳥羽周作シェフおすすめの「ペヤング」アレンジを実践 溶き卵につけるだけで劇的変化が!?

      鳥羽周作シェフおすすめの「ペヤング」アレンジを実践 溶き卵につけるだけで劇的変化が!?

      料理人の鳥羽周作さんが、自身のXで驚きのアレンジを紹介しました。その名も「とんでもなく簡単に最高の飲…
    3. ゲーマー御用達Discord、ちょっと本気を出す ティーン向け安全設定が強めに

      ゲーマー御用達Discord、ちょっと本気を出す ティーン向け安全設定が強めに

      ゲーム好きにはおなじみのコミュニケーションサービス「Discord(ディスコード)」が2月9日、未成…

    編集部おすすめ

    1. 描き下ろし記念ビジュアル

      河内遙「涙雨とセレナーデ」2027年TVアニメ化 描き下ろし記念ビジュアル公開

      河内遙さんの「涙雨とセレナーデ」が、2027年にテレビアニメ化されることが決定しました。単行本最終14巻の発売日にあわせて、2月13日に発表…
    2. 「映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城」メインビジュアル

      映画ドラえもん新作、災害描写の注意喚起 「地震を描くシーンがございます」

      東宝系で2月27日に公開される「映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城」について、映画ドラえもん【公式】Xアカウント(@doraeiga)が…
    3. Dock3離陸

      夜の雪山「捜索できない」常識を覆す ドローンが変えた救助と残る課題

      一般社団法人Japan Innovation Challenge(JIC)は2月10日、北海道富良野スキー場で1月に発生したバックカントリー…
    4. 「手のひらネットワーク機器」第4弾

      カプセルトイなのに本格派 「手のひらネットワーク機器」第4弾が登場

      カプセルトイでありながら本格的すぎると話題を集めている「手のひらネットワーク機器」シリーズから、第4弾が登場します。2026年6月中旬より、…
    5. 新システムは「横丁手形-ヨコパス-」

      クレーンゲーム革命!LINEで即プレイできる「ヨコパス」始動 船橋に誕生する「クレーン横丁 極」からスタート

      両替もカードも不要、LINEひとつで遊びから景品交換まで完結するクレーンゲームの新しい仕組みが、千葉県船橋市の「クレーン横丁 極(きわみ)」…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト