先日Twitter上で「自衛官に敬礼された時、一般人はどう返すか。」という話題が注目されていました。さて、ここでいう「敬礼された時の返し」。この行為は、「答礼」と言います。そして「敬礼」は相手に敬意を表す行為。一般には上官や賓客など、目上の人に対して行うもの。
この敬礼は自衛隊には様々な形式やルールがあるのです。せっかく話題になっているので本稿では広く知られざる自衛隊の敬礼について紹介してみたいと思います。
■敬礼は各自衛隊で定められた「礼式」によって規定
敬礼は敬意を表する挨拶なので、様々な場面で行われますが、艦艇や建物の中では一部の例外を除いて省略することができます。また、民間人に対しても省略できます。
相手が自衛隊員であっても、私服でプライベートであると場面、食事中や入浴中の場合も同様。これらの方式については、各自衛隊で定められた「礼式」によって規定されています。陸自隊員が空自や海自に出向くなど、それぞれの自衛隊員が他の自衛隊を訪れた際は、訪問先の礼式に従って敬礼を行うことになります。
一般によく見られるのは「挙手の敬礼」。帽子、ヘルメットをしてる際に行うもので、右手の指を伸ばして揃え、肘を曲げて指先が額のあたりになるようにします。これは武器を扱う右手を開き、「武器を持っていない(あなたに危害を加えない)」ということを表明するものです。
■帽子やヘルメットをしていない時は、基本的に「お辞儀」
基本的な形はありますが、肘を上げる角度など、比較的自由なものです。両手に物を持っているなど、右手を上げられない場合は、代わりにお辞儀(脱帽時の敬礼)をします。
帽子やヘルメットをしていない時も、基本的に「お辞儀」となります。相手の階級等に応じて、会釈に当たる15度、一般的な敬礼となる30度、深々と頭を下げる最敬礼の45度と分かれています。最敬礼の45度は、お尻から太ももの裏が張ってキツイですよ……。
ちなみに日本では、普段民間人が敬礼を行う場面がありませんが、海外では右手を左胸に当て「帰属します」という意を表する敬礼が行われます。
大リーグやボクシングの世界タイトルマッチで、試合開始前に国歌が流れる時、選手たちが国旗に向け右手を左胸に当てて敬礼している姿を目にすることができますね。
また、戦場などで、敵のスナイパーが狙っているかもしれない状況では、敬礼をすると「あれが重要人物か」と狙撃対象を敵に教えてしまうので、敬礼することを禁じられています。
自衛隊では、まだそういう状況で活動したことがない為、まだそのような規定はありません。
■観閲式はさながら敬礼のカタログ
様々な敬礼が見られるのが、観閲式。観閲官(総理大臣や防衛大臣など、民間人)に対する栄誉礼や観閲行進は、さながら敬礼のカタログのようです。
まずは儀仗隊が行う栄誉礼。両手で銃を縦にして保持する「捧げ銃(つつ)」を行います。最敬礼の形態は、銃剣を装着した「着剣捧げ銃(つつ)」。
観閲行進では、隊旗を水平にし、銃を持っていない隊員は挙手の敬礼、銃を持って行進する隊員は観閲官のいる方向(右・左)へ45度の角度で顔を向ける「頭(かしら)右・左」を行います。
戦車など、複数の人が乗っている車両の場合、挙手の敬礼を行うのは車長のみ。ドライバー、砲手や銃手など、その他の乗員は正面を見据えたままで通過することになっています。これはF-4EJ改など複座機でも同様で、敬礼を行うのは前席のパイロットのみで、後席のパイロットは敬礼を行いません。車両に凹凸があるなど、隊旗を水平にするのが難しい場合は、まっすぐ上へ掲げます。
さて、それに対する観閲官(総理大臣や防衛大臣など、民間人)はどのように答礼するのか。実はこれも「答礼要領」で規定されています。
■答礼も「答礼要領」で規定されている
航空自衛隊の「観閲式における観閲官(防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官等)の答礼要領に関する通達」によれば、栄誉礼では
答礼は、指揮官の「捧げ銃」の号令があり、指揮官自らも敬礼したのち、帽子を左胸にあてて行ない、音楽「栄光」の終了直後(「立て銃」の号令の直前)もとの姿勢に復する。
とあります。答礼を始めるタイミングや、終了するタイミングも定められてるんですね。観閲官が整列した部隊を見て回る巡閲や、観閲行進では答礼を終わらせるタイミングが掴みづらいので、ここでは「適宜(あまり長くならないように)もとの姿勢に復する」と書いてあります。
帽子を左胸に当てる、というのが観閲官の答礼のスタイルで、各自衛隊や各国軍で共通のものです。
ちなみに、観閲飛行の場合はというと、飛んでいる部隊を見上げて行います。まぶしそう……。
海上自衛隊の艦船では、タラップを登った入り口(舷門)で敬礼を行います。
艦船の入出港時や観艦式では、その時運用に携わっていない乗組員が舷側に整列する「登舷礼」というものを行います。これは挙手の敬礼と同じく「攻撃の意思なし」という意味です。
時と場合に応じて様々な敬礼を使い分ける自衛隊。覚えておくと自慢できるかもしれません。そして一般人の答礼については、公式の場でない限りは胸に手をあてようが、帽子をしていない時のお辞儀であろうがどちらでも良いと思います。どちらにせよすることで相手に「敬意」を伝えることには変わりはないのですから。
ただし公式の場の場合には、きちんとしたマナーをもって行う必要があるでしょう。そういう場合には、大概にして主催者側からどういう作法で行うのか説明があるので、あまり固くは考えなくても大丈夫ですよ。
(文:咲村珠樹)