食糧やお酒、水などの備蓄に用いられる壺。それとは別に鑑賞用としても様々な種類のものがありますが、この壺は他とは違う異彩を放っていました。アート作品として壺の枠組みをはるかに超えた桝本佳子さんの作品がTwitterで話題になっています。

 飯島モトハさんが投稿したツイートでは「私の好きな壺作家の桝本さんが超進化を遂げて凄まじいことになっていた。読み込みエラーを起こした三次元画像のよう。景色だ。」と、かなり興奮している様子が伺えます。リプライでも「常識の壁を一つ超越した作品」「壺の体と一体化している……」「バグったような…」「修正アップデ(アップデート)必要」という声が寄せられていました。

 そこで作者である壺作家の桝本佳子さんに話をきいてみました。すると、江戸初期の釜師、大西浄清の作った「鶴ノ釜」が制作のヒントになったとのこと。「大きな鶴が、釜に覆いかぶさるように造形されていて、翼の先はより立体的に釜からたちあがっています。この作品を見た時、もうこれはほとんど鶴だと思いました。装飾というのはあくまで主体である器の付属物ですが、この作品はその関係性を壊しているように見えました。ここで、装飾物の鶴は、過激な色遣いやリアリティで存在を主張するのではなく、鉄で作られたひとつの造形として自然に存在していました。自然に、激しく主張していました。この作品の鶴を更に激しく主張させたらどうなるか、面白くなるに違いないと思ったのです。」と、桝本さんもまた大西浄清さんの作品に衝撃を受け、それが原点となり今の作風に繋がっているようです。

――壺から動物などが生えているこちらの作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

絵やレリーフで器の紋様として施された動物や風物等のモチーフを、もっと存在感やボリュームを増していくことで、飾りという範疇を超えた面白いものができるのではないかと考えました。

――Twitterで話題になった4つの作品は、どのような技法で作られたものですか?

■毛ガニ/赤絵壷
いっちんという、泥をスポイトで盛り上げて模様をつける技法があるのですが、その応用で毛ガニの毛を成形しています。伝統的な赤い絵の具で壷全体を塗って、カニのところには濃淡が出るように薄めに塗っています。

■ヘビ/灰釉鉢
器の並んだ棚を見ていて、この器をヘビで貫いたら面白いかなあと思って製作しました。器とヘビの釉薬は同じなのですが、鱗は墨弾きという技法で釉薬をはじいて表現しています。

■オオバコ/壷
いくつかの雑草をモチーフにして、小さい壷や鉢と組み合わせた「雑草/器」という作品群の内のひとつです。
無事に焼けても運搬中に壊れるので、茎の部分は針金です。

■鹿/壷
飛鉋という技法で、壷全体に模様をつけています。その模様と、毛皮の鹿の子模様をリンクさせています。壷と鹿は同じ土ですが、透明釉をかけるとグレー、なにもかけないと茶色に発色します。

――因みに、カニをモチーフにした作品は考案から完成まで制作期間はどのぐらいかかったのですか?

1か月程度です。

――作品を作る際にこだわったところや、難しいと感じたことなどあれば教えてください。

器を作ってから外側のモチーフをくっ付けていくのですが、粘土の乾き具合を合わせないと割れてしまうので、そこが難しいです。発想の段階では、くだらない面白さを大事にしているのですが、煮詰まってくるとつい真面目になりすぎてしまうので気をつけています。

――海外でも個展を開かれていますが、海外の方の反響はどうですか?

東アジアの陶磁器はコレクターも多いので、それらに親しみがある上で、見たことがなくて面白いという反応でした。すごく売れそうと皆に言われますがあまり売れません。

――これから、どのような作品を作っていきたいですか?

染付(青と白の器)で大型のインスタレーション(表現手法の一つで、場所や空間をひとつの作品として鑑賞者に体験させる芸術)をしたいです。

<取材協力>
桝本佳子さん(HP:http://keikomasumoto.main.jp

<記事化協力>
飯島モトハさん(@mochiunagi)

(黒田芽以)