都市における交通渋滞は深刻化しており、かといってもう新しい道路を作る余裕はありません。このため「空飛ぶクルマ(クルマのように気軽に使えるパーソナル航空機)」など、道路以外の場所を使う新たな交通機関が模索されているのですが、かつて交通の主役だった水上を使った新たな「クルマ」が注目を集めています。
ある統計によると、2050年には全世界で40億台ものクルマが走るようになり、特に人が集中する都市部では、慢性的な渋滞が各所で起こることが予測されています。都市部では新しい道路を作ってクルマを受け入れるような土地はなく、都市交通のあり方は未来における大きな問題です。そんな中、かつて都市で使われていた「水運」に注目し、そこに新たな交通インフラを築こうという企業が現れました。
フランスの企業SeaBubbles(シーバブルス)が開発したのは、クルマのような外見の小さな水中翼船「SeaBubbles」。全長およそ5m、全幅2.5mの5人乗り(操縦者含む)で、大型の乗用車と同じくらいのサイズです。
動力源はリチウムイオン電池で、2つのモーターでスクリューを回して進みます。水中翼船(ハイドロフォイル)なので、6ノット(時速13km)を超えると船体が浮上し、まるで宙に浮かんでいるような形で航行します。
巡航速度は12ノット(時速22km)、最高速度は15ノット(時速28km)。1回の充電で航行可能な距離は、約40kmとされています。電気を使うので温室効果ガスを含む排気ガスは発生せず、水中に没したモーターと水との接触面積が極めて小さい水中翼船(全没翼型)のため、騒音レベルも非常に少なくなっています。
2017年に最初のプロトタイプが完成し、すでに川や湖、そして海での航行試験を実施。オープンボディと屋根付きのハードトップの2種類の船体形状が作られています。
船というと波による揺れを心配してしまいますが、船体各所につけられたセンサーで水面との距離を測り、それに応じてコンピュータが水中翼につけられたフラップを操作することで、ほとんど揺れのない乗り心地を実現しています。
SeaBubblesはこのフネを「水上タクシー」として用いるだけでなく、カーシェアリングのように登録した利用者がパーソナルな移動に使えるような仕組みを構想しています。また観光地では、ベネチアのゴンドラのように、水上からの街並み観光ができるような構想も。
フネは発着場所である「ドック」に入っている間に自動的にバッテリーが充電されるようになっており、常に充電されたものが用意される仕組み。SeaBubblesでは5年以内にこのフネを使った交通サービスを始める予定だといいます。
かつて東京(江戸)や大阪、名古屋などの大都市では、運河や掘割を使った水運が盛んに行われていました。現在東京や大阪などで、かつての水辺空間に再度注目し、有効活用しようという各種の取り組みが行われています。日本でこのSeaBubblesの水上タクシーサービスが行われるようになると、また違った都市のあり方が見えてくるかもしれません。
Image:SeaBubbles
(咲村珠樹)