過酷な宇宙空間にいる人工衛星。その心臓部にあたるコンピュータは、太陽から届く強烈な電磁波に耐えられる丈夫なものが使われています。未来の人工衛星で使う高性能なコンピュータの技術試験をするため、全長30cmの小さな衛星が12月に打ち上げられます。

 欧州宇宙機関(ESA)が作った技術試験衛星「OPS-SAT」は、太陽電池パネルを除く本体のサイズが30cm×10cm×10cmという小さなもの。超小型衛星「キューブサット(CubeSat)」の規格(縦横高さ10cmずつ)を応用して設計されています。

 小さなサイズですが、この衛星にかけられる期待は大きなもの。太陽からの強烈な電磁波など、過酷な宇宙空間で運用される次世代人工衛星の心臓部となる、コンピュータや通信システムの試作品が搭載されています。

 巨大な核融合炉である太陽からは、様々な電磁波や電荷を帯びた粒子が放射されており、磁気圏に守られた地球表面には届きにくいのですが、軌道上の人工衛星にはまともに襲いかかります。これがコンピュータには大敵。誤作動や回路の破壊につながります。

 このため、宇宙で使われるコンピュータは、電磁波などの影響があっても作動し続けることのできる、丈夫な(冗長性のある)回路を持つものが使われています。これは現在市販されているパソコンよりは、かなり性能の劣るもの。最新のパソコンに使われているプロセッサでは、回路が細かくデリケートすぎて、そのまま宇宙に持ち込むと、あっという間に使い物にならなくなってしまうのです(国際宇宙ステーションで使われるパソコンは、国際宇宙ステーション自体がある程度電磁波を遮蔽しているために使用可能となっています)。

 しかし、人工衛星に求められる性能はどんどん上がっており、それに見合ったコンピュータやデータ通信システムが必要です。それを宇宙空間で試験し、今後の開発につなげるために作られたのが、OPS-SATというわけです。

 2015年に計画がスタートしたOPS-SATに搭載する新技術の募集には、ESAのプログラムに参加する17か国の100を超える企業や研究機関から提案がありました。この中から、衛星のコントロールに必要なデータ通信バスと、コンピュータやセンサー、通信システムに関するものが搭載されています。

 メインとなるコンピュータシステムは、インテルの「アルテラ・Cyclone V SoC」を採用。ARMの32ビット・デュアルコアプロセッサのCortex A9、インテルCyclone V FPGAが使用されています。人工衛星は低消費電力、低発熱も要求されるため、処理能力とのバランスを考えた選択です。

 このほか、GPS受信機やSバンド(2~4GHz帯)送受信機、Xバンド(8~12GHz帯)送信機に、地上からのレーザー信号受信機などの通信システムも搭載。Sバンドは最大で毎秒256キロビットのアップリンクと1メガビットのダウンリンク、Xバンドでは最大毎秒50メガビットのデータ通信が可能です。また、ソフトウェアによる信号補完システムも搭載。将来の通信におけるエラー訂正に用いられるデータも収集します。

 OPS-SATの打ち上げは、2019年12月17日の予定。高度515kmの極軌道に投入され、地球を周回することになっています。

<出典・引用>
欧州宇宙機関 OPS-SAT 紹介ページ
Image:ESA

(咲村珠樹)