おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

コロナ禍で浮き彫りになった「ろう・難聴者の情報取得の困難さ」有志がサイト立ち上げ

 新型コロナウイルス感染症が徐々に落ち着きつつあり、緊急事態宣言が全国で解除となった事から、自粛も緩やかになってきました。しかし、今後へのウイルス対策については引き続き様々な課題を残しており、その一つにあげられるのが「障害者の情報取得や相談先へアクセスする事の困難さ」。

 これに対応すべく、今後予想される第2波以降に備えるためにも、ろう・難聴者が主体となって、「【メール&FAX連絡先】新型コロナに感染したかも?と思ったら」という情報共有サイトを立ち上げました。サイトを立ち上げたのは、先天性の聴覚障害を持つ“ねこ(耳をお空に置いてきた)”さん(以下ねこさん)、ほか有志のメンバーの計6名。

  •  今は耳が聞こえない人でもスマホを使う事で各情報サイトにその場でアクセスする事ができたり、LINEやメールなどを使う事でいつでも気軽に連絡がとりやすくなりました。しかし、情報機器に対して苦手意識がある人、電話の代わりにFAXを使って情報伝達をしているろう・難聴者も、高齢者をはじめとして少なくありません。

     さらに、ろう・難聴者たちは「視覚からの情報が唯一」なものの、緊急速報のアラート音や、電車内でのトラブルによる車内アナウンスは聞こえないため、緊急時即座に何がおきたか情報を取得するのが困難な状態。情報に取り残されてしまいがちなのです。また、テレビでの会見時や生放送時などでも手話通訳、字幕が付いていない放送となっている時もあり、目で字幕を追えない状態は多くの聴覚障害者にとっての困りごととなっています。

     特に今回のコロナ禍では多くの情報が一気に溢れてしまい、ろう・難聴者にとって必要な情報が「得にくい」「(情報が埋もれてしまい)必要情報を探しにくい」状態が生まれました。

     そこで、ねこさんの呼びかけに応じた有志の皆さんは、メールやFAXで相談できる全国の相談窓口を調べ、一つのサイトに集約。北海道・東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄の6地方に分け、各都道府県および保健所政令市以上の都市等にある相談窓口をまとめました。

     ほかにも、実際に相談したい場合にどのような内容をどう書けばよいか、メールやFAXを使って相談する時に使えるテンプレートも用意。PDF形式で配布されているので、自宅でFAXを使う人は印刷して自宅FAXから送信する事ができます。メールの人も、テンプレートの内容をコピーしてメール本文に貼り付ける、参考にするなど直接入力してメールで相談する事もできます。

     こうした取り組みについて、主宰のねこさんに話を聞きました。

     難聴者であるねこさんは、このコロナ禍で気が付いた、「全国都道府県でメールやFAXなどの連絡先がバラバラなこと、かつ、ひどい時は県によっては『厚労省のサイトを見てください』『ろうあ連盟のサイトを見てください』しかなかったりして探すのも労力がいるという現状を解決するため」に、サイトの立ち上げを思いついたそうです。

     ねこさん自身、問い合わせ先に電話番号しか書かれていない情報を目にした時に、メールやFAXといった「耳が聞こえなくても情報の送受信」ができない事に対してとても寂しい思いをしたとのこと。「聞こえない人は直接問い合わせすらできない」という状態についての悲しい思いは、多くのろう・難聴者が感じている事ではないでしょうか。

     普段からこのような「障害者という括りのマイノリティーな存在は(いざという時)忘れられがち」というのを感じているだけに、コロナ禍で浮き彫りになった情報アクセスや相談先へのアクセスの困難さは、大きな危機感となっているようです。

     この度立ち上げたサイトは、厚生労働省が発表した「新しい生活様式」と言われている、感染予防や人との距離の取り方などの実践を各自行っていくとともに、今後はろう・難聴者にとって有意義な情報源とすべく、

    ・ろう者難聴者が救急を呼ぶ方法
    ・万が一感染した場合手話通訳などはどうなるのか
    ・入院時の情報保障は?
    ・海外で暮らしているろう者難聴者はどうやっているのか

     といった内容を充実させていく予定とのことです。

    <記事化協力>
    ねこ(耳をお空に置いてきた)さん(@catfoodmami)
    【メール&FAX連絡先】新型コロナに感染したかも?と思ったら

    (梓川みいな)

    あわせて読みたい関連記事
  • ワクチン誤情報で命が失われた? 東京大学などが明らかにした「もしも」の世界(画像:PhotoAC)
    社会, 雑学

    ワクチン誤情報で命が失われた? 東京大学などが明らかにした「もしも」の世界

  • 無事戻ってきた補聴器
    インターネット, 感動・ほのぼの

    「補聴器なくしました……」Xへの投稿が大拡散→多くの協力者があらわれ発見へ 投稿…

  • 「マスクは顔の一部」中学生の娘が水色のマスクにこだわる理由とは
    インターネット, びっくり・驚き

    「マスクは顔の一部」中学生の娘が水色のマスクにこだわる理由とは?

  • 補聴器を拾ったら警察へ!シリアル番号で持ち主が特定できるようになっていた
    インターネット, 雑学・コラム

    補聴器を拾ったら警察へ!シリアル番号で持ち主が特定できるようになっていた

  • ライフ, 雑学

    「ヤブかもしれない」医療関係アカウントの見分け方 トンデモ治療法より正しい知識で…

  • askenが「コロナ禍以降のダイエット意識と生活習慣実態」を調査
    社会, 経済

    約9割が夏に向けて「これからダイエットをしたい」 askenの調査「コロナ禍以降…

  • 付属のスロープで、バリアフリーのごっこ遊び
    商品・物販, 経済

    車いすに乗った「バービー」が新発売 付属のスロープでバリアフリーも

  • 叩いた音が「見える」マンガ太鼓 二次元と三次元が融合したユニーク作品に注目
    インターネット, おもしろ

    叩いた音が「見える」マンガ太鼓 二次元と三次元が融合したユニーク作品に注目

  • ところでこれは我が家のコロナ家庭内感染を抑えたヒーローアイテムのひとつ、トイペ芯です
    ライフ, 雑学

    コロナ禍ならではの使い方!トイレットペーパーの芯を活用したライフハック

  • 「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス」コラボ企画プレス説明会の登壇者
    イベント・キャンペーン, 経済

    音声と手話でスムーズに通話「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス…

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分けが装置爆誕
    インターネット, おもしろ

    エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分け装置が爆誕

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト