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ゆるキャラ界に一石を投じた兵庫県福崎町の「ガジロウ」がさらにパワーアップしていた件

 海水浴や花火や旅行など、夏休みならではのイベントが多いのが8月。一方で、8月といえば怪談話も風物詩のひとつとして定着していることでも有名。様々な妖怪の怪談話に身体が震えて夜のトイレに行けなくなった経験のある方も多いのでは。

  •  そんな妖怪をゆるキャラに採用して、町おこしに活用している自治体があります。ゆるキャラというのは、その名の通り少しゆるさを感じるような愛らしい見た目のキャラクターが多いのですが、兵庫県神崎郡福崎町のゆるキャラ「ガジロウ」は、違ったベクトルでのゆるさを発揮して人気になったゆるキャラ。

     2014年2月に福崎町辻川にある辻川山公園にその姿を現して以来、従来のゆるキャラとは一線を画した奇抜さが話題となり、地元関西の報道番組を皮切りに様々な番組にて取り上げられ、今では日本を代表するゆるキャラとなりました。

     そんなガジロウなんですが、先日筆者はたまたま福崎町の玄関口であるJR福崎駅付近を車で横切っていたところ、謎のモニュメントが駅前にポツンと設置されてたんです。

     「あれ?こんなの前にあったかなあ?何だろう?」と気になったので、近くの駐車場に車を止めて見に行ってみると、誰もいない水槽から突然ガジロウが「ようこそふくさき江(へ)」というカンペつきで浮かび上がってくるのです。ちなみにこれ、その後もじっくり観察してたんですが、どうやら約15分おきに浮かび上がる仕組みみたいです。

     元々ガジロウは、先ほどご紹介した辻川山公園にあるため池にて、「15分おきで池からガジロウが浮かび上がっている」という作りが話題になり、様々なメディアに取り上げられた結果、それまで1日に30人程度だった公園の来園者数が、多い時でなんと1000人を超え一躍有名になったゆるキャラ。

     それがとうとう駅のモニュメントまでに進出とは!実は弊社は以前一度ガジロウについて取り上げたことがあったのですが、現在の動向について改めて調査するため今回福崎町役場まで足を運びました。(※筆者は兵庫県在住です)

     今回お話を伺ったのは、福崎町地域振興課に所属する小川知男さん。まずはご挨拶を……と名刺交換をしたのですが、いただいた名刺は真っ黒なデザインに、ガジロウがデカデカと記載されるという非常に個性的なもの。「あれ?今日は役場の方に話を聞きに行ったんだよな……?」と一瞬混乱してしまいましたが、小川さんはれっきとした現役の公務員です。

     さっそく小川さんに今回の事の経緯を伺ったのですが、実は福崎駅のモニュメントの実装は2019年10月にされたそう。

     実は設置計画そのものが持ち上がったのは2016年で、足掛け3年かかったプロジェクトだったそうです。なぜ駅にというと、実は先述した辻川山公園は、地理上では福崎町の東側に位置しています。ガジロウが全国的に有名になったので、町の西側にも何かしらの観光スポットを……と考えていたところ、ちょうどそのタイミングで福崎町の表玄関であるJR福崎駅の改修話が立ち上がったそう。その中で役場側との交渉の結果、福崎駅にガジロウのモニュメントを設置することになったそうです。

     そんな経緯で設置されたモニュメント。私も取材後に直接目にしましたが、小さな子供たちに人気で、家族連れで浮かび上がってくるガジロウを見計らって記念撮影される姿が散見され、すっかり町の人気スポットに。しかしながら、なぜこのようなモニュメントにしたんでしょうか?

     この疑問に小川さんは「たまたまプライベートで京都水族館に行く機会があって、その時にアザラシがチューブを上から下へ動いていく姿が目に付いたんですよ。その時はそれだけだったんですけど、福崎に戻って福崎駅の改修のことを考えてたときに、これ使ってみたら面白いんちゃうんかな?と」

     なるほど、確かにあのアザラシの動きは目を引きますが、それをモニュメントにも取り入れたのはただ感心するばかり。

     結果的に町の東西の観光スポットにガジロウのいる場所ができ、なおかつ人気スポット化にも成功したわけですが「面白いってのはヒトが純粋に求めていること」が信条の小川さんは、それだけに飽き足らずさらに面白い取り組みをされたそう。

     「辻川山公園と福崎駅の道中にある地元の店舗のいくつかに、色々な妖怪が横たわっているベンチを設置したんです。これがあれば、観光客にしても実際に座ってみて記念に撮影する“ストーリー(思い出)”が出来るし、あわよくばそこで買い物をしてくれるかなと(笑)」

     そう笑いながら仰った小川さんですが、この取材の後私も実際に車で福崎を回ってみたところ、夏休みとはいいながらも平日のカンカン照りの暑さの中で、観光客と思わしき方がベンチに座って撮影される様子が見られました。ちなみに「あわよくば」と仰った買い物についても、実際に設置したお店では、来店客と売上がいずれも10%から20%の伸びを記録し、地域振興という面においても確固たる実績も残されています。

     ところで、なぜ福崎に妖怪?と思った読者の皆様も多いかもしれません。

     実は福崎町、「遠野物語」などでも有名な日本を代表する民俗学者でもある柳田國男氏の生誕の地なんです。ガジロウの“拠点”でもある辻川山公園の敷地内には、柳田國男記念館も併設されています。そんな柳田氏が半生を振り返った著書「故郷七十年」に、福崎町では古くから河童を「ガタロ(河太郎)」と呼んでいた……との記載があったそうで、それをモチーフにガタロウをひねった「ガジロウ(河次郎)」が誕生し、さらには福崎町を「妖怪の街」として町おこしをしていくことになったわけなんです。

     そうした経緯で誕生したガジロウは、人気バラエティ番組にも何度も取り上げられるようになり、「全国ご当地キャライベント」に参加した際も、錚々たる面々の中でも「あ!ガジロウだ!」と言われることも多くなったという小川さん。今年で生誕7周年ということですが、これまでの道のりは決して平たんではなかったそう。それでもやり続けたことにはある理由がありました。

     「何がしたいかって気持ちが一番大事だと思ってるんです。このご時世、みんながみんなイイね!になるような施策なんて存在しません。やるからには一石を投じる何かじゃないとダメなんですよ」

     確かに「ガジロウ」という存在は、ゆるキャラの概念を大きく変えましたが、しかしそれ以上に「日本の縮図」とも呼ばれる兵庫県で「神戸ポートタワー」「甲子園球場」「姫路城」「赤穂浪士」「竹田城」「明石海峡大橋」といった全国でも指折りの観光スポットがある中、後発である福崎町発のゆるキャラのガジロウを、足掛け7年でそれらに比肩するくらいの存在にまで押し上げていったプロセスは、並大抵のものではなかったかと推察されます。

     今では全国各地の町おこしの模範となった「ガジロウ」。その仕掛け人である小川さんを目標にしている方は多いのではないでしょうか。

     そんな小川さんですが、次なる一手が気になるところ。せっかくなので、そのアイデアについても少し教えてもらいました。

     「TwitterやYouTubeチャンネルといったSNSを使って何かしら出来ればなって考えています。いかにお金を使わずにやっていくか。民間の方の知恵も借りて、何かおもろいことやれたらですね!」

     余談ですが、JR福崎駅は改修の結果、駐車場がない作りになったために駐車が出来ない構造になり、ガジロウの撮影が出来ないとお困りの方もいるのではないでしょうか。実は近隣(徒歩1分)には、2時間無料の駐車場がありますのでこちらも合わせてご紹介いたしますね。

    <取材協力>
    兵庫県・福崎町地域振興課地域づくり係 小川知男氏
    ガジロウさん(@youkaicon)

    (向山純平)

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