ロシアで恒例の「戦車バイアスロン世界選手権」が開催され、ロシアが2020年も個人・団体の2冠を達成しました。個人戦では設計速度を10kmあまり上回る最高時速81kmで駆け抜けるなど、ロシア代表がワンツーフィニッシュ。第2部ではベトナムが優勝し、2021年大会での第1部昇格を手にしました。
個人戦と団体リレーで争われる「戦車バイアスロン世界選手権」。モスクワ近郊のアラビノ訓練場を舞台に、戦車を速く正確に走行させるドライビングテクニックと、125mm主砲、12.7mm車載対空機銃、7.62mm同軸機銃での正確な射撃能力が争われるミリタリー・モータースポーツです。
出場国は前年の成績を基準に、8チームずつの2部制となっています。トップリーグである第1部にはロシア、中国、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、ベラルーシが、そして下部リーグの第2部には、アブハジア、カタール、コンゴ、タジキスタン、ベトナム、ミャンマー、ラオス、南オセチアがからの代表チームが参加しました。
参加各国はロシアが提供するT-72B3戦車のほか、自国から戦車(マシン)を持ち込んで参加することも可能。今回は地元ロシアを除けば、国産の96式戦車を用意した中国人民解放軍チームのみが自国のマシンでレースに臨みました。
レースは4両ずつで実施され、個人戦は時間差、団体リレーは同時スタート(射撃種目はローテーション制)で走破タイムが競われます。個人戦第1部で優勝したのは、ロシア代表のドミトリー・ボチカレバ曹長(車長)、オレグ・オルロヴァ上級軍曹(砲手)、サンダナ・サンジエバ軍曹(操縦手)組で17分47秒。今大会最速となる最高時速81km(T-72B3の設計上最高速度は時速70km)をマークするなど、競技レベルの高いブリヤート地区(コーチが2018年・2019年世界王者)の名に恥じないレースぶりでした。
第2位もロシア代表で19分37秒。第3位には中国人民解放軍代表が19分44秒で入っています。第2部個人戦優勝は、タジキスタン代表で28分13秒。第2位もタジキスタン代表が29分22秒で入り、31分49秒で走破した南オセチア代表が第3位となりました。第1部と第2部上位との間には、かなりの実力差があることが分かります。
団体戦は各チーム3両ずつのリレーで争われます。まず準決勝レースが実施され、その上位2チームが決勝に進むシステム。決勝に進んだのは開催国のロシアのほか、アゼルバイジャン、ベラルーシ、中国です。枠順抽選の結果、赤い戦車がロシア、青い戦車がベラルーシ、黄色い戦車がアゼルバイジャン、緑の戦車が中国となりました。
レースの前には、各マシン(戦車)の調整も実施されます。エンジンのセッティングや、主砲、機関銃の照準調整は、レースにおいて重要な要素を占めます。
第1部の決勝レースに先立ち、9月4日に第2部の団体リレー決勝が実施され、ベトナムが優勝しました。第2位はラオス、タジキスタンが第3位となり、ベトナムは2021年大会で第1部に昇格して戦うことになります。
9月5日、いよいよ第1部団体リレー決勝が始まります。アラビノ訓練場の観戦スタンドには、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣(陸軍上級大将)をはじめ、参加各国の高級将校が並んでレースを見守ります。
スタートで勢いよく飛び出したのは赤のロシア。そのままスピードで引き離します。出力重量比でT-72B3を上回り、ダッシュ力があるはずの中国96式戦車はクラッチミートに失敗したか、最下位に出遅れてのスタート。
障害では一瞬宙に浮くほどのスピードで駆け抜けるのとは対照的に、慎重な照準が要求される射撃。車載対空機銃・同軸機銃・主砲射撃(2回)は射撃機会が重ならないよう、各チームでローテーションされます。
静止して撃つ個人戦と違い、主砲射撃は動きながら側方の標的を撃つ行進間射撃。より繊細な照準が必要となりますが、命中すると観客から歓声が上がります。
射撃の前には全員が降車し、弾を補給して射撃に移行します。射撃をミスした際も一旦全員降車する「ピットストップ」ペナルティが課せられ、リレーも全員が降車してタッチするので、クルーの機敏な動きもタイム短縮には必要となります。
車内には小型カメラが設置されており、操縦手や砲手の表情も会場のモニターに映し出されます。また、コース上の位置も示され、各チームがどれくらいの差になっているかも確認できるので、通常のモータースポーツと同じような楽しみ方ができるといえるでしょう。
レースは中盤、ロシアと中国が接近した展開となりましたが、ロシア3組目のクルーが素晴らしいスピードを発揮。最終的に1時間28分50秒でロシアが優勝しました。中国はわずかに遅れ、39秒遅れの1時間29分29秒で2位。3位には1時間37分48秒のベラルーシが入り、4位のアゼルバイジャンは1時間54分22秒でゴールしました。
新型コロナウイルス禍のため、出場国が2019年の22か国に対し16か国と減少した2020年の戦車バイアスロン世界選手権。創設以来優勝し続けているロシアが今回も王座を守りましたが、団体リレーでは中国人民解放軍チームが肉薄してきており、ロシアも油断できなくなりました。2021年にはどれだけの国が参加し、熱い戦いを繰り広げるのか、今から楽しみです。
<出典・引用>
ロシア国防省 ニュースリリース
Image:ロシア国防省
(咲村珠樹)