NATOの共同演習「ジョイント・ウォリアー」に参加している、イギリス海軍の空母クイーン・エリザベス。艦載機のF-35Bが、初めて精密誘導爆弾を使用した地上攻撃訓練を実施しました。また空母クイーン・エリザベスも、友軍機を相手に防空訓練を実施しています。
イギリス海軍の空母クイーン・エリザベスは、2021年に予定されている初めての任務航海に向け、空母打撃群としての戦闘能力を錬成する最終段階を迎えています。9月末に母港ポーツマスを後にしたクイーン・エリザベスは、艦載機に第617飛行隊「ダムバスターズ」と、アメリカ海兵隊VMFA-211「ウェークアイランド・アベンジャーズ」のF-35Bを迎えました。
スコットランド沖の北海で開催されるNATO共同訓練「ジョイント・ウォリアー」は、NATOの海上訓練では最大規模のもの。2020年はホスト国のイギリスのほか、アメリカ、エストニア、オランダ、カナダ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フランス、ベルギー、リトアニア、ラトビアから28隻の水上艦艇と2隻の潜水艦、81機の航空機が参加し、人員は合計6000人以上となります。
今回、アメリカ海軍の駆逐艦ザ・サリヴァンズ(DDG-68)は、イギリス海軍のクイーン・エリザベス空母打撃群の一員として参加。ほかにオランダ海軍のフリゲート、エヴェルトセン(F805)もクイーン・エリザベス空母打撃群に入り、NATO同盟国間の相互運用性を高めます。
空母クイーン・エリザベスでは、すでに豊富な経験を持つアメリカ海兵隊から、F-35Bの空母運用ノウハウを吸収中。昼夜や雨といった様々な条件での発着艦のほか、飛行甲板で実施する兵装の手順など、パイロットや整備員、乗組員がそれぞれの持ち場で訓練しています。
その中で、海上に設定された射爆場において、精密誘導爆弾を使用した地上攻撃訓練が3日間にわたって実施されました。イギリス海軍の航空部隊司令官、ジェームス・ブラックモア大佐は「英米の部隊が共同で実弾を使用する訓練を実施するというのは、私たちイギリス海軍にとって新たな経験であり、完全作戦能力獲得へ向け、次のステップとなります」と語っています。
訓練で使用されたのは、GPS/INS誘導とレーザー誘導という2種類のモードで誘導可能なペイブウェイIV。弾体は500ポンド爆弾のMk.82です。
イギリスの第617飛行隊長、マーク・スパロー中佐は「空母クイーン・エリザベスにおいて、初めて実弾を航空機に装着して実施する今回の訓練は、次の段階へ進む出発点です。実弾を用意して装着し、ターゲットへ投弾するまでを実際に行い、船と飛行隊双方における全てのシステムをテストすることができました」と訓練についてコメントしています。
また、実際の戦闘では攻撃だけでなく、相手の攻撃から身を守ることが必要です。イギリス海軍の仮想敵飛行隊、第736海軍飛行隊(カルドローズ海軍航空基地)のホークT.1を相手として、クイーン・エリザベスの個艦防空訓練も実施されました。
第736飛行隊長のジェイソン・フリンタム少佐は「私たちの任務は敵役――いわゆる悪者を演じる訳ですが、任務は簡単ではありません。高速で飛来する脅威への対応能力を向上させるため、持てる技術を尽くして飛行します。ある時には、イギリス空軍のタイフーン11機を相手に、11機の敵機を演じるため4機のホークを飛ばし、合計22機の飛行機が空域に入り乱れるような状況を作ったこともあります」と、仮想敵飛行隊のテクニックを駆使した訓練の一例を挙げています。
今回の訓練について、フリンタム少佐は「このような大規模の訓練は、イギリスの空母打撃群錬成の鍵となるものです。私たち第736飛行隊も、私たちの艦船が世界中で任務を遂行する体制を整える、その最前線にいます」と語り、その意義と自らの果たす役割に言及しました。
共同訓練「ジョイント・ウォリアー」は、このほかにも対潜水艦戦闘(ASW)訓練や対水上艦戦闘など、海洋安全保障に関する様々なシナリオが用意されています。その中には、現代のネットワーク化された戦闘システムで発生しうるサイバー攻撃に対応するものも含まれています。
<出典・引用>
イギリス海軍 ニュースリリース
アメリカ海軍 ニュースリリース
Image:Crown Copyright/USMC
(咲村珠樹)