日常生活で触れる機会があっても、詳細について知らないというのは往々にしてある話です。

 例えば「弁当箱に入っている魚の形をした容器といえば?」と聞かれると、「醤油やソース入っているやつね!」のように返せる方が多いかと思いますが、「それの『名前』は?」の問いには、回答に窮する方が多いのではないでしょうか。

 実はこれには「ランチャーム」という名前があり、大阪府にある株式会社旭創業が製造しています。今回は「魚の形をした容器」の代表名称として、雑学的に語られることも多い「ランチャーム」について、旭創業の担当者に話をうかがいました。

「ランチをチャーミングに」生み出された魚型たれビン「ランチャーム」。製造メーカー「旭創業」に話を聞いてきた。

■ 「ランチをチャーミングに」から誕生して60年超

 「ランチャーム」が世に登場したのは、今から60年以上前。旭創業の創業者である渡辺輝夫氏が、1954年頃に新聞記事から着想を得て自ら研究開発。1956年に初期型のランチャームを完成させました。本格的に製造販売しだしたのは、旭創業の創立年でもある1957年からだそうです。

 当時の弁当には、ガラスないし陶器に入った容器が同封され、そこに調味料が入っていました。そのため、安全性に加えてコスト面でも問題を抱えていたそうです。

 約3年の時をかけて生み出されたのが、「ランチをチャーミングにする」の理念から生まれた「ランチャーム」。当初はチューブ型の形状でした。

最初はチューブ型で登場したランチャーム。

 実はランチャームは、一般的な認知度の高い「魚」の他にも、豚やひょうたんなどの形状が存在します。弁当に入る料理や、販売価格に合わせて使い分けているんだそう。近年登場したのかと思いきや、両者とも30年以上前には発売された“古株”なのです。

 そしてもう一つのトリビアを。ランチャームの魚のモデルは実は「鯛」なんだそうです。言われたら「そうか……」と気づきますが、あまりに見慣れすぎて気にしなかった人も多いのではないでしょうか。

肉料理には「豚」のランチャーム。

高価格な弁当には「ひょうたん」。

 ところで、「醤油瓶」「魚のやつ」など、様々な“ニックネーム”が存在するのがランチャームですが、これは取引先以外で名前を浸透出来ていなかったことに加え、同形状の容器が他社からも広く製造されているのが理由だそう。

 その中で、トップのシェアを誇り、旭創業により商標登録されているのが「ランチャーム」。つまり他社製品は「ランチャーム」とは呼べません。

 また、「ランチャーム」には、他にはない「目印」があり、それで見分けがつくんだとか。

 それは、魚タイプの尾びれや、チューブタイプの底に丸囲いで記された「旭」の刻印。これが「ランチャーム」であることの“証拠”なんです。

丸囲いで記された「旭」の刻印が「ランチャーム」の目印。

魚には尾びれ、ひょうたんには底に記されています。

■ 認知度を上げるため、色々やっています

 「1度は見たことある」層が多いため、定期的に話題になるのがランチャーム。海外においても、「寿司ブーム」の影響で、ヨーロッパとオーストラリアでの使用頻度は高いそうです。

 一方で、製造元としては、「ランチャーム」もとい「旭創業」の認知度を上げていくのが今後の課題と語る担当者。

 そのため、公式ホームページには特設サイトを作って情報発信を強化。さらに、サイトへの「流入」も期待して、公式SNSアカウント(Facebook・Instagram・Twitter)を開設しました。

 独特のフォルムを活かした「ノベルティ展開」にも力を入れていくと語る担当者。先のTwitterでは、インデックス部分をランチャームに置き換えた「壁掛け時計」を、「中の人」が“開発”し、プレゼントキャンペーンも開催しました。

Twitter担当者が「開発」したオリジナル壁掛け時計。

 以前はオリジナルストラップも存在し、現在でも少数ながら取り扱いがあるそうです。なお、ランチャームの「空容器」そのものを販売することに関しては、品質保証の観点から行っていないとのこと。

 今後は、「SDGs」にも意識した施策を行っていきたいという旭創業。開発から70年を迎えようとするタイミングで、社を挙げたリブランディングが行われています。

<取材協力>
株式会社旭創業

(向山純平)