総合化学メーカー「帝人」の公式X(Twitter)では、毎日定時を迎えると「お疲れ様でし炭素繊維」という謎の挨拶が恒例化しています。(たまに「お疲れ様でした炭素繊維」の時もある)

 正直なところ、やや滑っている感はあるのですが、毎日見かけるうちに「そこまで激推しする炭素繊維ってそもそも何?」と気になってしまいました。

 帝人の公式Xの担当者によると、この「お疲れ様でし炭素繊維」という挨拶は、担当者個人が3年以上前から流行らそうとしているものの、「流行る気配がない挨拶」なのだとか。Xでも度々「使ってみてくださいね」と呼び掛けられていますが、いまのところ確かに流行る気配はありません……。

 ちなみに朝の挨拶は、「おは帝人」。時には炭素繊維の画像もつけて投稿していますが、炭素繊維に関心を持ってもらおうと試行錯誤を重ねてきたが、「案が尽きたので朝の挨拶にねじ込みました」と理由をぶっちゃけています。

画像提供:帝人株式会社公式X(@dakejanai_tj)

 そこまでして推したい「炭素繊維」。でもやはり写真や名前を聞いただけでは、一般人には何が優れているのか想像もつきません。気にしている人は少数派かもしれませんが、一フォロワーとして知りたくなったので、今回詳しくきいてみました。 

■ 日常のあちこちに潜んで活躍している「忍者」みたいな繊維

―― いつもX拝見しています。数年前から毎日投稿されている「お疲れ様でし炭素繊維」ですが、挨拶で推す以上、御社にとっては相当力をいれている商品という認識で間違いないでしょうか?推す理由を教えてください。

 はい!もちろん力を入れています。当社では長期ビジョンで掲げる「未来の社会を支える会社」になるため、地球環境に貢献する製品・サービスの開発に注力しています。

 炭素繊維はモビリティの部材に使用することで軽量化につながりCO2の排出削減に貢献できます。

 また、当社ではリサイクル炭素繊維の開発も進めるなど、持続可能な社会の実現に寄与するため、炭素繊維関連の取り組みを積極的に推進しています。

―― ちなみに周囲、主にフォロワーさんのこれまでの反応は?

 フォロワーさんからは「炭素繊維を初めて知りました!」「炭素繊維ってすごいですね!」というコメントをいただいたことがあります(決して多くはないですが……)。

 また、炭素繊維事業の社員からこっそり「この挨拶好きです」と言われたときは嬉しかったです。

 これからも炭素繊維についてご存じない方や特徴をよく知らない方が炭素繊維に興味を持つきっかけとなることを願って、この挨拶を使い続けたいと思っています。

―― ここからは具体的に「炭素繊維」についてうかがっていきます。そもそも炭素繊維は何で出来ているのでしょうか?

 主に使用されるものは、セーターなどの素材としても用いられるアクリル繊維です。

―― アクリル繊維から、どのようにして炭素繊維が作られるのですか?

 アクリル繊維に対して特殊な熱処理工程を行って作られます。

―― なんだかすごい繊維なんですね……。一般人の感想ですみません。次に炭素繊維の特徴について教えてください。

 鉄の10倍の強度を持ちながら重量は鉄の4分の1で、高強度と軽量性の両立を可能にします。耐疲労性や防錆性、耐薬品性など、多様な特性を有する繊維です。

―― 繊維というと一般的な用途は服や寝具などを思い浮かべるのですが、炭素繊維の場合は主にどのような商品に使用されているのでしょうか?

 航空機、自動車、風力発電、バドミントンラケット、ゴルフシャフト、釣り竿、ノートパソコン、カメラなど。これらは炭素繊維が部品の素材として用いられるものの一例です。

―― 幅広い!具体的に航空機や車などのどの部分に炭素繊維が使用されているのかうかがってもいいでしょうか?

 航空機ではドアや客室の床を支える梁であるフロアビーム、エンジンカバーなど。さらに翼に付属していて、飛行速度の減速などの用途で使用されるスポイラーなどです。

 自動車もドアやドア部品はもちろん、ルーフやエンジンフード、バンパーの下にあるフロントスポイラー、他にも衝撃を抑えるクラッシュボックスなどに使用されています。カメラやノートパソコンは、筐体やボディーなどになります。

 炭素繊維は糸状の繊維のまま使用されることは少なく、一方向に並べたものや糸を編んだものに樹脂を含侵させるなど、成形できる状態にしたものが使用されています。

―― 気づいてなかっただけで、絶対に私も使っていますね……驚きました。最後に、炭素繊維に今後期待されていることがあれば教えてください。

 航空機向けの部品の素材として使用される機会が増えることにより、機体の軽量化につながり、排出ガスの低減や燃費の改善などへの貢献が期待されています。

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 平凡な感想ですが、日常のあちこちに潜んで活躍している、まるで「忍者」みたいな繊維だな、という印象を今回話をうかがううちに抱きました。それにしてもここまで様々なものに使われているとは驚きです。しかも軽くて硬い以外に多様な特性を有しているなど、高いポテンシャルを持ちあわせているとは……。

 毎日の滑った挨拶には、優れた商品を知って欲しいという熱意があった。「本日もお疲れ様でし炭素繊維!」を見かけたときの印象が、今後変わったものになっていきそうです。

<記事化協力>
帝人株式会社公式X(@dakejanai_tj

(佐藤圭亮)