「特撮映像館」第63回は、雨宮慶太監督のSF時代劇『タオの月』です。斬新なアイデアも盛り込んだ映像表現に感心しつつ、チャンバラの魅力も楽しめる秀作といえるでしょう。
異星の破壊兵器が戦国時代の日本に…という設定のSF時代劇。マカラガと呼ばれるそれを封印するため、そしてそれを手に入れて革命を起こすため、3人の異星人がやってくる。この異星人は森山裕子の3役となっている。
一方、隕石の形で地上に落ちたマカラガを包んでいた金属で打った、岩をも断ち切り、刃こぼれを刀自らが修復するという、これまで見たこともない刀の存在を知った戦国武将、忠興は、疾風と元軍師の酔狂のふたりに刀の出自を探らせる。しかし酔狂には、その刀を作り出した者が、角行であることがわかっていた。戦国の世を支配しようと企む角行は、マカラガから感じる底知れない力を使おうと野伏を集め周辺の村々を襲い、勢力を拡大していた。
そして酔狂、疾風、異星人が覚醒したマカラガと対決することになる。
平成「ガメラシリーズ」、そして「ゴジラ2000シリーズ」と特撮作品にはそこそこの本数に出演している永島敏行が酔狂を演じているが、ほかの特撮作品に比べて役にピッタリというイメージがして好感が持てた。逆に阿部 寛はもうひとつキレが悪く、このあとの活躍の助走という印象か。
酔狂と角行の対決シーンでは、精神的な戦いを、左右に酔狂、角行を配し、中央でシルエットとして、イメージの格闘を映し出すというアイデアに感心した。
その一方で、クリーチャーとしてのマカラガはどこか新鮮味に欠ける印象がある。雨宮作品にしては人間型でないところが逆に新鮮といえなくもないが、造形自体はどこかで見たような…という印象は否めない。特に目の表現は平成ギャオスのそれに近い。まあ、監督や制作会社が違っても、特撮の現場、特に造形に関わるスタッフはほとんど同じということもあるのでいたしかたないのかもしれない。
『未来忍者』に比べて殺陣がしっかりしているところはよかった(機忍の殺陣はどうしても人形的だったからね)。
3役をこなした森山裕子は、それぞれ印象のちがうキャラクターになっているので違いがハッキリしていたが、逆に違いがわからない方が、地球人から見た異星人という意味でリアリティがあったのではないかとも思う。ただそれをやると演出的に面倒かもしれないけれど。
監督/雨宮慶太
キャスト/永島敏行、阿部 寛、吉野紗香、森山裕子、榎本孝明、谷 啓(特別出演)、ほか。
1997年/96分/日本
(文:猫目ユウ)