おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】233回 雨/樹村みのり

update:

【うちの本棚】233回 雨/樹村みのり 「うちの本棚」、今回ご紹介するのは樹村みのりの初期短編集『雨』です。

 時代を超えて多くの人に読んでもらいたいと思える作品が集められた一冊と言っていい珠玉の作品集です。

  • 【関連:232回 星に住む人びと/樹村みのり】

    【うちの本棚】233回 雨/樹村みのり

     本書は朝日ソノラマの「サンコミックス」における樹村みのり初期短編集で、デビュー作を含めた初期短編集『ピクニック』に続く時期の作品を集めたもの(刊行自体は本書の方が先)。ほぼ発表順に収録されていて樹村みのりの成長をたどれる。

     樹村みのりの作品は文学的な匂いがすると『星に住む人びと』を紹介した際に書いたが、それは初期作品から一貫して感じる印象でもある。デビューからしばらくは「りぼん」に作品を発表していた樹村みのりが「ジュニアコミック」に移るのは、やはり作品の内容による理由が強かったのではないだろうか。つまり樹村みのりにとって漫画を描くということは、ストーリーに込めたテーマを伝える手段であり、画やコマ割りといった演出は、その思いを伝えるためのテクニックなのであって、作品を読んだ読者に何かを感じてほしい、受け取ってほしいという気持ちを強く感じるのだ。
    作家であれば誰でもそういった気持ちは少なからずあると思うが、例えばエンタテイメントなオブラートで包んで表現することも多い。作家の個性といってしまえばそれまでだが、樹村みのりはいたってストレートに表現する作家と言っていいのかもしれない。本書に収録された作品のうち『雨』『トミィ』『風船』『にんじん』はページ数も少なく、そのぶんストレートに描かざるを得なかったのかもしれないが、少女漫画誌に掲載される作品としては異色なものと言ってよかっただろう。ことに『風船』はほとんどセリフを使っておらず、さらにいえばセリフで表現してもよかった場面であえて使わないという演出法を採っている。「あとがき」によれば『雨』執筆時には高校生だったというから『風船』執筆時でも10代だったのではないかと思われる。それを考えると樹村みのりの渋さを改めて感じる。

     漫画も文学作品のように個人全集がもう少し出てもいいのではないかと思うのだが、特に樹村みのりのような作家は個人全集という形で作品をまとめていただきたいと思う。

    初出:雨/集英社「りぼん」1966年12月号、トミィ/集英社「ジュニアコミック」1968年3月号、風船/集英社「ジュニアコミック」1969年8月号、トンネル/集英社「ジュニアコミック」1969年9月号、にんじん/集英社「ジュニアコミック」1969年10月号、まもる君が死んだ/集英社「りぼんコミック」1970年5月号、こうふくな話/虫プロ商事「COM」1971年12月号、翼のない鳥/小学館「別冊少女コミック」1975年4、5月号

    書 名/雨 樹村みのり初期短編集
    著者名/樹村みのり
    出版元/朝日ソノラマ
    判 型/新書判
    定 価/350円
    シリーズ名/サンコミックス(SCM-465)
    初版発行日/昭和52年11月30日
    収録作品/雨、トミィ、風船、トンネル、にんじん、まもる君が死んだ、こうふくな話、翼のない鳥、あとがき

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】239回 菜の花畑のむこうとこちら/樹村みのり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】238回 ジョーン・Bの夏/樹村みのり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】237回 カッコーの娘たち/樹村みのり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】236回 母親の娘たち/樹村みのり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】235回 海辺のカイン/樹村みのり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】234回 悪い子/樹村みのり

  • 星に住む人びと/樹村みのり
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】232回 星に住む人びと/樹村みのり

  • 土井たか子グラフィティ
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】231回 土井たか子グラフィティ/樹村みのり

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 92歳と95歳が本気の“殴り合い” 介護施設入居者たちの「鉄拳8」対戦が国内外で話題

      92歳と95歳が本気の“殴り合い” 介護施設入居者たちの「鉄拳8」対戦が国内外で話題

      一般社団法人ケアeスポーツ協会が11月24日に開催した、大人気格闘ゲーム「鉄拳8」の大会「第12回ケ…
    2. 絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      絵柄がデフォでピンボケな……いつかやってくる未来に備える「老眼トランプ」が登場

      どんな人間にもいつかはやってくる老眼。なんだか手元が見えづらいな……という状態を体験できるトランプが…
    3. 「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマホゲーム「特級呪術師」が配信され、SNSで物議を醸しました。公式…

    編集部おすすめ

    1. 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚歌劇団は12月26日、宙組が東京宝塚劇場で上演している公演について、主要な出演者の体調不良により公演の実施が困難な状況が続いているとして…
    2. シートタイプのWebMoney

      WebMoney、事業をビットキャッシュへ承継 一部サービスは終了へ

      オンラインゲームの課金手段として知られる「WebMoney」が事業の節目を迎えます。auペイメントは2026年3月31日付でWebMoney…
    3. 「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      育児などを理由に在宅で働きたいと求人サイトを利用した人が、結果的に高額な契約を結ばされるケースが相次いでいます。「完全在宅」「未経験OK」と…
    4. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    5. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト