「売れる仕組みを作ること」を生業とするマーケティング。その仕事に携わっている方たちを「マーケター(マーケッター)」と呼ぶんですが、実は筆者も現役のマーケター。
「いかにお客様が興味を惹かれる商品やブランドにしていくか」ということについて、日夜頭を悩ませているのですが、そんな中で飛び交うのが様々な「マーケティング用語」。専門用語といえば聞こえは良いのですが、お客様はもちろんのこと、社内の他部署でも「???」と首をかしげたくなるような「カタカナ語」が、近ごろ特に蔓延しています。
この妙な「カタカナ語」多用のマーケティング用語、私も一応マーケターなんですが、公用語は日本語だからか、そんな奇々怪々のカタカナ語を駆使されて説明を受けても頭の上に「???」が浮かび上がり、「それってどういう意味なんですか?」と聞き返してしまうこともしばしば。ネットスラング的に申しますと、「日本語でおk」の心境でございます。
「え?分かるでしょ?」的なノリで話されて困惑している方って、年代問わず意外と多いのではないでしょうか。「覚えたての単語を使いたがる」という子供の頃から持つ好奇心を否定するつもりはありませんし、かくいう私も流行りに弱いミーハーな人間。
かと言って、その好奇心をビジネスの場で全面に出し、「分かる人には分かる」という姿勢でお話をされても、申し訳ございませんがそれは話し手の自己満足。仕事も相手の気持ちに立ってやっていかないと、上手くいくものも上手くいきません。これに疑義を持つ方は、外国語を一切覚えずに海外生活を送っていくことをイメージしてみたら良いでしょう。
そんなマーケティング界隈で日々飛び交う「マーケ語」なんですが、とりわけ救いようがない……おっと失礼。困惑するのが、ただ違いを見せることに着眼点を置き、従来の単語を置き換えたかのような横文字を使用する「カタカナマーケ語」。このカタカナマーケ語、一見それっぽいことを言っているように錯覚するのですが、よくよく考えたら本来の意味を履き違えている場合が多々あり、結果的に「コレジャナイ感」を余計に醸し出しています。そんな「日本語でおk」と感じざるを得なかった“ジャナイマーケ語”の中でも、とりわけ目につく……強く感じた単語たちについて、私が独断と偏見で厳選したものを自戒の念も込めてご紹介したいと思います。
1:セッション(Session)
セミナーなどに出席したときに、初っ端で見かけることも多い「本日のセッション」という表記。複数人で実施する講演のような形式ですと「トーク・セッション(討論会)」という表現で別段差し支えないのですが、そうでない場合もとりあえずセッションと記載されていることもしばしば。
しかしセッションというのは本来の意味は、開会や集会という意味もしくは演奏の時の音合わせに使用する単語です。つまり「本日のセッション」というのは、「本日の集会」もしくは「本日の音合わせ」といったところでしょうか。一体いつからセミナーは、近所の寄り合いもしくはバンドのレコーディング会場になったんでしょう?
2:アジェンダ(Agenda)
意味としては「議題・課題・行動計画」。ただしこの単語は、政治や重要な会議で使用するため、近ごろ話題の某倍返しドラマにも出てくる取締役会ならまだしも、セミナーや商談のような場面で使用する単語としては少々大袈裟な表現です。
ひょっとしたらマーケティングというものに神聖感を出したいのかもしれませんが、私を含めたマーケターもごくごく普通の人間。ここは大人しく「テーマ」もしくは古今東西で使用している「お題」などで十分かと思います。
3:レジュメ(Resume)
元はフランス語が語源のこの言葉。「こちらのレジュメですが……」と資料の代用語のごとく使用されますが、レジュメの本来の意味は「要約・概略」。なので、配布するものによっては必ずしもそうとは限りません。
例えば、提案書や企画書などを作成する際は「要約」に繋がるまでの背景のデータや、商品規格の詳細など多岐に渡る内容が記載されており、おおよそ「要約」とは言い難いもの。いくらレジュメという響きがカッコいいとはいえ、このような場合は“資料”と言っておけば何も問題はございません。
4:ジャストアイデア(JustIdea)
最近よく目にするこちらの単語。メンバー内でブレーンストーミングという名のアイデア出しをする際に、良い案だったときに誉め言葉のように使っている方を見かけます。野球などで使われる和製英語「ジャストミート」から派生したと思われる表現です。
しかし、ジャストというのは「単に」や「ただの」といった意味合い。「その案、実にジャストアイデアだね!」と言う方もおられますが、これは直訳すると「その案、実にただの案だね!」という意味になります。この意味を知った上で、ジャストアイデアと言われて気分を良くする方が日本にどれくらいいるのか、私純粋に興味がございます。
5:コンセンサス(Consensus)
これも最近よく見るようになりました。
「上司にコンセンサスを取ります」と、こちらが何かしらの依頼等をしたときに返ってくる単語。確かにコンセンサスは、「許可」や「了承」と言った意味合いを持った単語ですが、実は「複数の」という前置きがある言葉です。つまり「複数ある意見を集約する」手続きが本来の意味。
コンセンサスという言葉を使うことで、スムーズな情報伝達をしているというアピールをしたいのかもしれませんが、本来の意味を知っていれば旧来の日本企業のハンコ文化のごとく、「様々な部署確認を取るために返答に時間がかかる」と受け取られて、「新しい会社」どころか「旧態依然とした会社」と自分で言っているようなものになり、伝統をアピールしたい方以外は良く考えて使用した方が良いでしょう。
6:エビデンス(Evidence)
「証拠」や「根拠」という意味合いを持つこの単語。
「これにはエビデンスがある」とRPGゲームの呪文のように発すれば、途端に説得力が増したかのように使われているようになりつつあります。
ただしこのエビデンスですが、元は医療分野で使われていた単語がビジネスシーンに輸血ならぬ輸入されてきたのですが、医療で使われているエビデンスは「科学的」根拠という意味。
舞台を医療からビジネスに変わったからと言って、“とりあえず生ビール”のごとく、“とりあえずエビデンス”的なノリで使用すると言葉の重みを失い、説得力に欠けるのは留意しておきたいですね。余談ですが、私は前世がエビなのでは?と疑ってしまうほどのエビ好きです。
7:タスク
業務内容などを総称するこの言葉。
“タスク管理”や“マルチタスク”という使い方もあるように、職場にて各々の面子が日々やっている仕事を取りまとめる際に便利使いされるようになりました。
ただしタスクというのは、“営業周り”や“データ更新”などといった日々の日常でこなすべきルーティンワークといった、ある単一の目的を持った義務的な仕事を指しますので、プロジェクトやイベント企画といった長期的視野に基づいて取り扱う仕事はタスクには含まれません。それもひっくるめてタスク管理をしてしまうと、寧ろ計画性のない人間という印象を持たれる可能性がありますので注意したいところです。
8:フィックス(Fix)
実は昔から使われているこの言葉。
ビジネスシーンの多くでは「決定」という意味合いで使われるため、「この件はフィックスしました」というと、「あ、この仕事はもう解決済みなんだ」と受け取られがち。
ただし、フィックスには「決定」と同様に、決定に至るまでの「調整」「修正」作業、という意味合いも含まれる単語。なので対外向けに「この件はフィックスしました」と言っても、フィックスという言葉が根付いていない会社ですと、「この案件はまだ社内調整中なんだね」と受け止められる可能性もあり、後々の火種になる可能性すら秘めています。日本語には場面ごとに応じた様々な単語が用意されているため、そちらを使用した方が結果的に良い伝達が行えるのではないでしょうか。
9:パブリッシャー(Publisher)
これは個人的にもっとも訳の分からない言葉です。
主にWeb関係で使われている単語なんですが、「パブリッシャーの皆様は……」といったような言い回しで、何らかのメディアを保有している事業会社(企業)のことを指した表現になります。ちなみにですが、弊社もパブリッシャーに該当します。さらにパブリッシャーというのは「出版社」や「販売元」といった意味合いもあるのですが、わざわざこんな頭上に?が生じる言葉を使わずに、単純明快な「ご担当者様」という言葉を使えば、非常に伝わりやすい気がするのは私だけでしょうか?
10:コンテンツ(?)
最後はこれで〆ましょう。
こちらの意味はずばり「中身」ということもあって、その用途を非常に多岐に渡り、今こうやって書いている記事も立派な“コンテンツ”です。
しかしコンテンツで注意したいのは、実はコンテンツはスペルで書くと、「Contents」と「Content」の2つに分かれます。
Contentsは「内容物」などといった意味で、全体をひっくるめたものになり、かなり広い意味のものになります。なので多くの皆さんが想像したコンテンツ(映画、番組、書籍など)は、全て単一で数えられるものであり後者のContentに含まれます。
言うなれば、今こうやって執筆している記事は「Content」で、この記事を含め、皆様に日々提供している“おたくま経済新聞”という記事の集合体が「Contents」となりますね。
というわけで、今回は私が特に目につく……失礼。気になった単語を10個厳選してみました。
念のため言っておきますが、私は別にマーケティングもマーケターの皆さんを卑下するつもりは毛頭ございません。寧ろマーケティングというとっても面白い仕事をもっともっと世に広めたいという思いが非常に強い人間です。
しかしながら、マーケティングというのは冒頭にも触れましたが、他企業もしく他部署と上手く連携出来てこその仕事。それが出来ないマーケターははっきり言って存在価値が皆無なのです。そのためには相互理解が必要なので、マーケター視点で率直に感じたことに対して、筆ならぬマウスを取らせていただきました。某ドラマを見ても感じたのですが、マーケティングを含めた横の連携がスムーズになる企業が増えることを切に願っております。
(向山純平)