「うちの本棚」、今回取り上げるのは、倉多江美の『原形質』です。オールカラーの画文集で、他の倉多作品とはちょっと違った雰囲気を味わえる一冊です。
チェリッシュ ブックはオールカラーの画文集(絵本といった方がわかりやすいか)のシリーズで、萩尾望都や竹宮恵子など十数冊が刊行された。ほとんどはメルヘン風のものだったように記憶するが、ここでも倉多江美は独特の世界を展開していた。
テーマは「人間」であり、生物の根本であるDNAを手がかりに物語が進められている。
当時はまだゲノムの解析もできていなかったし、遺伝情報という広大な海を前にして生命の神秘に戸惑っていた状態だったと思うのだが、倉多は幻想的に、哲学的にその神秘に立ち向かっている。
ある部分では『新世紀エヴァンゲリオン』に通じるようなところもあって、なかなか興味深い一冊だ。
このチェリッシュ ブック、すべてが単発の描き下ろしであり、ハードカバー・函入りという装丁でもあり、復刻・復刊の機会がない。倉多の『原形質』も埋もれた一冊と言っていいだろう。古書店などで見つけたら、ぜひ手に取ってみてください。
書 名/原形質
著者名/倉多江美
出版元/白泉社
判 型/新書判・函入り
定 価/780円
シリーズ名/チェリッシュ ブック
初版発行日/昭和52年11月25日
収録作品/原形質、あとがき
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)