レッドブル・エアレース2019年シーズンの開幕戦、アブダビ大会(UAE)を2月8日(予選)・9日(決勝)に控え、パイロットたちは緊急時に備えた恒例の脱出訓練をオランダのアムステルダムで行いました。あわせて、2019年のレースカレンダーとアブダビ大会のレーストラックレイアウトも発表。今年の最終戦はサウジアラビアとなり、中東で開幕し中東でフィナーレを迎えることになりました。

 2019年シーズンのレッドブル・エアレースも全8戦。2月のアブダビ大会で開幕です。しかし第2戦の日程は、ヨーロッパで開催されることを予定しているものの、日本時間の2019年2月1日現在、場所とスケジュールが確定していません。

2019年のレッドブル・エアレース開催日程(画像:Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool)

 第3戦に予定されているカザン(ロシア連邦タタールスタン共和国)での大会日程が6月15日・16日、第4戦に予定されているブダペスト(ハンガリー)の大会日程が7月13日・14日となっており、例年8月は「ミッドサマー・ブレーク」という夏休みに入るので、日程としては3月~5月のいずれかということになるでしょう。シーズン開幕から間がない第2戦、しかもレース機は2018年最終戦のフォートワース大会終了後に、そのまま2019年開幕戦の地であるアブダビへ輸送されてしまっているので、開幕戦から第2戦までの期間を利用して、レース機へ改良を計画しているチームもあります。早く決まってくれないと、2019年シーズンの戦い方にも影響を及ぼしそうです。

 2019年の千葉大会は、8月のミッドサマー・ブレークを挟んでの9月7日・8日、後半戦の幕開けとなる第5戦に位置付けられました。毎年この時期にはある程度シーズンの流れが固まり、チャンピオンシップ争いをするパイロットたちの顔ぶれが明らかになってくる頃。これまではシーズンの流れを占う前半戦に組み込まれていましたが、今年はより「チャンピオン争い」という部分にも注目して観戦する楽しみが出てくることでしょう。捲土重来を図る室屋義秀選手が、その中にいてくれることを祈るばかりです。

 そして第6戦もアジアでの開催が予告されていますが、こちらも日程が決まっていません。第7戦のインディアナポリス大会(アメリカ)が10月19日・20日になっているため、レース機を輸送する時間も考慮すると、おそらく9月下旬から10月はじめに開催されることになるでしょう。昨年から開催が噂されている中国(香港か上海)か、それともタイ(パタヤ)か、ひょっとしたら毎年大規模な国際エアショウが開催されているマレーシアのランカウイ島かもしれません。

 第7戦はアメリカにおけるモータースポーツの中心地、インディアナポリス・モータースピードウェイでの開催です。3回目の開催となった2018年は、ついに地元アメリカのマイケル・グーリアン選手が優勝し、アメリカのモータースポーツ選手にとって最大の名誉である、スタート・ゴール地点に残された「ブリックヤード」のレンガにキスをする(Kiss the Bricks)ことができました。今年は誰がキスをすることになるでしょうか。そして最終戦は、初めての開催となるサウジアラビア。広い国土のどこで開催されるかは、まだ明らかになっていません。イラク国境地域ではISによる散発的な戦闘、そしてイエメン国境地域ではサウジアラビアが中心となった有志連合国軍がイエメン内戦に干渉しており、都市部のテロなど治安面でも不安のある場所ですが、安全な状態で開催されることを祈るばかりです。

 さてレッドブル・エアレースのパイロットたちは、UAEのアブダビで開催される開幕戦を前にした1月29日(ヨーロッパ中央時間)、オランダのアムステルダムで恒例の緊急時の脱出訓練を行いました。これは「SWET(Shallow Water Egress Training=浅水深脱出訓練)」と呼ばれるもので、飛行機がトラブルで不時着水した際、速やかに脱出する訓練です。

SWETに臨むマイケル・グーリアン選手(画像:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 訓練はレース機のコックピット(MXS-Rに酷似していますが、エッジ540も共通です)を模したユニットに入り、不時着水してコクピットが下になった状態(飛行機が着水時の抵抗でつんのめり、ひっくり返ることが多いため)からキャノピーを開け、水中へと脱出します。コクピットが水没したこの時、パニックになってしまわないことが重要。体を座席に固定しているハーネスを落ち着いて解除(胸の部分にある金具を軽く操作するだけで全て外れる)し、コクピット内にあるレバーなどに干渉しないよう、腕は胸の前で交差させます。

SWETを行うフアン・ベラルデ選手(画像:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)


脱出するベン・マーフィー選手(画像:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 レッドブル・エアレースでは救命ダイバーがすぐ出動できるよう待機しており、着水の瞬間から素早く現場に駆けつけます。コクピットから脱出したパイロットに対し、救命ダイバーは救命用のレギュレーターをくわえさせ、水中での呼吸を確保して水面へと浮上します。

水面へ浮上したピート・マクロード選手(画像:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 世界トップクラスのパイロットたちが集まるレッドブル・エアレースですから、実際に墜落するようなことはまずありません。このSWETが役に立ったのは、2003年にオーストリアのツェルトベク飛行場(F1オーストリアグランプリ初開催の地)で始まってから2018年の最終戦まで、90戦を数える歴史の中で、たった一度だけ。2010年4月15日、第2戦パース大会(オーストラリア)のフリープラクティスでアディウソン・キンドルマン選手(ブラジル)のMXS-Rがスワン川の水面に接触し、逆さまにひっくり返る状態で停止したケースです。この時も事前に脱出訓練を行っていたため、キンドルマン選手は速やかに脱出し、救命ダイバーが着水から1分以内に水面へと運びました。キンドルマン選手は軽い擦り傷を負ったのみで無事でしたが、カーボンモノコック構造のMXS-Rは修復不能となり、その後の参戦をキャンセルしています。

 レースの安全に重要な脱出訓練を終えたパイロットたちは、いよいよ開幕戦のアブダビ大会に臨みます。すでに発表されたトラックレイアウトは、2018年大会とほぼ同じもの。この場所でのレイアウトはこれで固まったといえるでしょう。全体としては常にジワッとしたGがかかり続け、ラインどりに失敗してエネルギー(速度プラス高度)を失うと再度加速して挽回できるセクションがなく、全体のタイムに響くという気の抜けないトラックです。

2019アブダビ大会のレーストラック(画像:Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool)

 スタートゲートを通過してシケイン(ゲート2)に入りますが、特に2本目から3本目にかけてのラインどりが、この後バーティカルターンをするゲート3でエネルギーロスなく入れるかの分かれ目となります。ゲート3に正面から入るか、それとも斜めに入るかも判断が分かれるところ。2018年のグーリアン選手は、一旦態勢を整えてからゲート3へ入っていましたが、これば唯一の攻略法というわけではなく、このあたりは各選手の機体特性にも依存します。斜めに入る際はパイロンヒットに要注意。

 反対側のゲート6~8にかけての大きなターンも、各選手によってラインどりの分かれるところ。ゲート8への入り方次第で次のシケインヘロスなく入れるため、ゲート7へどのような角度で入ってくるのかに注目するといいと思います。厳しい角度で入る形になるので、ゲート7やゲート8でのインコレクトレベルや、ゲート8でパイロンヒットしないように気をつけなければいけません。

 また、2019年シーズンはオーバーGが11Gまで許容され、12G未満までは1秒加算のペナルティに変更されたため、バーティカルターンで攻めてくる選手が多くなると予想されます。しかしあまりGをかけすぎると頂点付近で失速し、結果としてタイムロスに繋がることもあるので注意が必要。Gは空気抵抗によるブレーキでもあるのです。また、ターンを終えて降りてくる時に、空気抵抗が少なくなるよう機体の姿勢を工夫し、いかに加速できるかという操縦テクニックにも注目するといいでしょう。

 いよいよ開幕が近づいてきた2019年のレッドブル・エアレース。はたして9月の千葉大会では、どのような年間順位になっているでしょうか。そしてチャンピオンは誰になるのでしょうか。室屋選手の2度目の戴冠にも期待したいところです。

Image:Red Bull Media House GmbH/Red Bull Content Pool・Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

(咲村珠樹)