『三文世界の家庭訪問』表紙こんにちは!東京では桜の開花宣言がされたと思えばもう散ってしまっているという……。

春をまったく満喫できてない今日この頃です。


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春は出会いと別れの季節。

当店でも学生アルバイトが無事卒業を果たし、春から社会人としての第一歩を踏み出すということで、当店の仕事も卒業となってしまいました。

入社までの間はここを手伝ってくれるということで、この春休みの時期には大変ありがたいことだったんですが、

この間髪の毛が金髪の下段(?)に青色という、ものっそ奇抜なヘアスタイルになっていました。

若いアルバイトの間では「かわいい かわいい」と評判だったのですが、年のせいか僕は」ちょっと度肝が抜かれてしまいました。

「君、それで会社行くの?」

「まさか。来月には真っ黒にしますよ。」

「だよねえぇ……。」

たぶんそのなりで出社したら、放課後絶対呼び出されるレベルだな、と思いつつ新しい門出を祝うのでした。

 
その後当人の送別会の時に、その子から

「最初社会に出るのが怖かったんですけど、ここで働いてる店長を見て『あぁ、社会に出ても何とかなるもんだなぁ』と思い今は楽しみです!」

と言われました。

んん?喜んでいいのか?

 
そんな今日この頃、今回ご紹介するのはこちら!

――庄司創(しょうじはじめ)「三文社会の家庭訪問」です!

個人的にも注目をしているアフターヌーンの新人さんです。

四季賞という、アフターヌーンが主催する漫画新人賞で大賞を受賞したこの作者。

注目しないわけにはいきません!

四季賞といえば古くは新井英樹や五十嵐大介、少し前だと市川春子も受賞しており、入賞した漫画家を含めたら、だいたいのヴィレッジヴァンガードのコミックの棚を埋め尽くせるぐらいの実力派たちが必ずくぐるといってもいい登竜門なのです。

著作も、デビュー作でありその四季賞を受賞した表題作「三文世界の家庭訪問」で如何なくそのセンスオブワンダーを見せつけております。

その発想たるや、斬新でありながら非常によく練られています。

近未来ボーイミーツガール+ジェンダー風味の「三文世界の家庭訪問」。

人生の絶望とその先を描いたヒューマンドラマ「辺獄にて」。

なんと古代生物を擬人化して大河ドラマに仕立て上げた「パンサラッサ連れ行く」。

どれも基本SF的な世界観を見せながら、そこに人間社会のシステムや人対人の対話から生じる問題点や機微を鋭く抉りだし、読み手に突き付ける。

こんな世界が待っていたら、あなたはどうするのか、と。

登場人物たちはその社会の中で、さまざまな問題にや矛盾にときには立ち向かい、ときには絶望し、ときにはすべてを受け入れて、日々を生活している。

3編ともどこか達観した描写で展開されて、個人的には手塚治虫作品と似通った雰囲気を感じました。

多少(というか結構)哲学や宗教・社会学などの考察も混ざり、とっつきにくいところがあると思いますが、何度も何度も読み込んで、噛み砕いて理解していくと、物語の本質に触れることができるはずです。

その時、あなたの世界は今以上に広がることでしょう。

新しい価値観を見出すかもしれません。

マンガでこんな体験をしたのは本当に久しぶりです!

今作で著者に興味を持った方は是非新作「勇者ヴォグ・ランバ」も読んでみてください。

伊藤計劃を読んでいるのであれば尚良しです。

物語の終盤で「グロ→萌え」という離れ業な変革をやってのけた名作です。

機会があったらこの作品も是非語らせてください!

出会いと別れの季節、別れは寂しいものですが、こういった出会い(2次元)もあるのがこの時期ならではではないでしょうか。

……うまい事言おうとして、逆になんかふわっとした不思議空間となってしまったことを認識しながら、また次回!

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■文:ヴィレッジヴァンガード・渋谷パルコ店・大岩店長(通称:マンガ番長)
■記事提供協力:ヴィレッジヴァンガードマガジン / http://vv-magazine.com/