「うちの本棚」、今回は白泉社から刊行された竹宮恵子の『夏への扉』をご紹介します。少年の成長を描いた竹宮恵子の代表作のひとつです。
少女漫画の単行本は、集英社の「マーガレットコミックス」や講談社の「KCフレンドコミックス」などが、昭和40年代半ば頃から刊行されていたが、昭和50年には小学館の「フラワーコミックス」、白泉社「花とゆめコミックス」などのシリーズが加わり、さらに朝日ソノラマの「サンコミックス」が少女漫画の刊行に力を入れ始め、少年漫画に比べて単行本化の機会少なかった少女漫画も単行本化されることが普通になり始めていた。ことに昭和51年は、竹宮作品に関していえば、「サンコミックス」「フラワーコミックス」そして本書の「花とゆめコミックス」と立て続けに単行本が刊行された時期だった。
表題作である『夏への扉』は「花とゆめ」に前後編として掲載されたもので、ヨーロッパを舞台にした思春期の少年を描いた作品だ。
少し背伸びをしたような主人公の少年の行動が、仲間たちに支持され、そしてその行動が仲間たちを分裂させていくという展開は竹宮作品にはありがちなもので、竹宮作品ばかりを立て続けに読んでいるとちょっと食傷ぎみになってしまう嫌いはあるのだが…このジャンルの作品の代表作といってもいい完成度であるのは確かだろう。また直接的な表現はないもののセックスに言及している点でも、本作は評価しておきたい。また「あとがき」には、本作に登場する「大人の女性」サラが竹宮の理想の女性と記されている。
SF好きな人にとってはハインラインの同名タイトルの小説を思い出すとは思うが、これは小説のコミカライズではない。その点、ちょっと肩すかしを食ったような、残念な感じがしないわけでもないが、「夏への扉」というタイトルから連想された別の物語という見方はできるのかもしれない。
『ホットミルクはいかが?』は、最悪の出会いをしたふたりが惹かれ合い、結ばれるという少女漫画らしい少女漫画といえる作品。ポイントは音楽を扱っていることで(ヴァイオリニストとチェリストが登場する)、竹宮の音楽好きがここでもうかがえる。
『まほうつかいの弟子』もラブコメ風ファンタジーと言っていい作品。ここでは「まほう」として扱われているが、その後の作品では「超能力」としてSF作品として描かれる表現もあり、当時の少女漫画においてはファンタジーとして仕上げることが無難だったのではないかという気もしてしまう。
『ゆびきり』は、「あとがき」によればこの時点での「唯一の時代劇」。もっとも時代劇とはいえいつの時代なのかは曖昧。かぐや姫をベースにしているところもあり、その時代の設定なのかもしれない。もっとも内容的に時代劇として扱う必然性はあまり感じないし、時代設定が曖昧でも問題のないものではある。ここで描かれるのは少女の成長なのだが、竹宮が一貫してテーマにしていたのは少年や少女の成長であったことも改めて思い起こされる。その意味ではこの初期作品は竹宮作品の原点のひとつなのかもしれない。
本書に収録された作品は表題作を除けば「花とゆめ」以外に掲載された初期作品であり、この時期の竹宮の単行本はそれまで単行本未収録だった作品の収録が多く、ファンには嬉しいものだったろう。
初出:夏への扉/白泉社「花とゆめ」昭和50年19号~20号、ホットミルクはいかが?/小学館「週刊少女コミック」昭和47年5号、まほうつかいの弟子/小学館「週刊少女コミック」昭和48年6号、ゆびきり/講談社「なかよし」昭和41年1月増刊号
書 名/夏への扉
著者名/竹宮恵子
出版元/白泉社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/花とゆめCOMICS
初版発行日/1976年5月20日
収録作品/夏への扉、ホットミルクはいかが?、まほうつかいの弟子、ゆびきり、あとがき
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)