当編集部では昨年の年明けに「おみくじの縁起のよい並び」についてお伝えしましたが、今年は「そもそもの大元である寺社の場合はどうなんだろう」と思い、寺社および神社に問い合わせてみました。
おみくじの原点と考えられているのは『日本おみくじ紀行』(島武史 著・ちくま文庫)によると川越市の喜多院に伝えられている『元三大師百籤和解』(享保19年)など。
これらは天台宗比叡山の第18世座主良源(911-985 没後の通り名が元三大師)という偉い僧が、人間の運勢、吉凶を五言四行の漢詩百首で詠んだものが始まりだと言われています。
■ 並びは後付けのもの
というわけで、おみくじの原点の舞台となった元三大師堂での見解を調べたところ、次が縁起の良い並びであるという記述をインターネット上に発見しました。
「大吉、小吉、吉、半吉、末吉、末小吉、凶」
これが本当に正しいのかどうかを実際に電話で比叡山延暦寺の元三大師堂に問い合わせてみたところ、「大吉や小吉などは後づけされたために、基本的には目安だとお考えください。本当に大事なのは漢詩の部分です。大吉の中にもあまりよくない意味合いのものもあれば凶の中に良い意味を持つものもありますので」という回答。
並びなどあまり気にしちゃだめよ、ということだそうです。
さらに浄土真宗の一派である東本願寺真宗大谷派にもお聞きしたところ、「おみくじを引いて吉凶を占うという行為自体がすべて受け入れるという仏教の考え方にあまりそぐわないために、正月などイベントごとに色を添える楽しい遊びだと考えるのはいいけれど、並び云々以前にそう深く考えず引くことが大事なのでは」とのご回答でした。
■ 「基本的に凶吉のふたつしかなく、大や小などは後付け」
おみくじの原点は仏教でも、現在の日本でおみくじといえばやっぱり神社のイメージが強いものです。
神社だったら厳密に並びが決まっているのではないか、と思い伊勢神宮の分社である高知大神宮にお聞きしてみたところ、「基本的に凶吉のふたつしかなく、大や小などは後付けです。また、おみくじの元は富くじだという説もあり、人の遊び心や経済的な背景から広まったため、それを神様のお告げと繋げることは難しいかもしれません」とのご回答をいただきました。
■ 神道も仏教も原点に近づけば近づくほどおみくじから遠ざかる?
宗教は歴史の中でたくさん分岐してさまざまな人の考えによって変化していくものですが、元来のものに近づけば近づくほどおみくじから遠ざかり縁起の良い並びというものも意味合いが薄いものだという認識なのかもしれない……。と、あきらめかけたころ仁徳天皇を祀っている若宮八幡宮からのご回答がありました。
「一般的には大吉・中吉・小吉・吉・末吉・凶という並びが定着しております。当社のおみくじの内容もだいたいこの順番です。少し順番が入れ替わっているおみくじもあり大吉・吉・中吉・小吉・末吉・凶と、吉の位置が上がっているところもあります。また、半吉や大凶を入れている寺社もありますのでその場合また順番が少し変わります。いずれにせよおみくじを引くことによって、神様からご啓示いただいた教えを戒めとして守り、日々の生活を心豊かに送ることが大事であると思います」とのこと。
一概に大元の考え方=おみくじの並びを重んじない、というわけではないことがわかり、ほっと一安心。
■ そもそも元三大師は弁論達者な人だった
最澄が亡くなって荒れ果てていた横川の地を復興した元三大師は、優秀で弁論達者なカリスマ的存在だったそうです。そんな彼が運勢を詠んだら、争いや病が多い世の中であった当時なら尚更それに頼ってしまいたくなる気持ちがあるのだろうと思います。
あくまで、おみくじには真摯に向き合いつつも、それに惑わされたり一喜一憂したりせず、その結果を踏まえて自分が歩みだす方向性に助言をくれるにすぎない、くらいの気持ちで引いてみてはいかがでしょうか?
(記事化協力)
元三大師堂
東本願寺真宗大谷派
高知大神宮
龍乗院
若宮八幡宮
(文:大路実歩子)