サイボーグや機械の体って、SFやメカニカル好きな人にとって憧れのひとつで未来の物という印象が強いかもしれません。しかし今の時代、既に体の一部をサイボーグ化しサバイバルゲーム(サバゲ―)にも参戦できる義足が登場しており、昔描かれた未来がどんどん近づいています。そんな超高性能の義足の持ち主にお話を聞きました。

 この高性能な義足を身に着けているのは、生粋のサバゲーマーである大塚一明さん。ある日SNSに義足の写真を投稿したところ、「カッコいい!」「これでサバゲとかすごい」「未来感半端ない」と反響が大きく、多くの好意的な反響が寄せられています。

■片足を取るか、命を取るか

 今でこそサイボーグの様な義足でサバゲ―を楽しむ事が出来ている大塚さんですが、ここまでに至るまでの間、大きな葛藤と苦しみがありました。

 大塚さんが足を切断する選択を迫られることになったのは、1995年に左足の膝に骨肉腫瘍を発症した事によるもの。当時大塚さんは24歳。サバゲ―は発症する前からの趣味でした。

 骨肉腫は若い人に発症率が高い筋骨格系のガン。他のガンと同様、放置したら全身に転移して死に至る病気です。日本での年間発生は200人から300人と言われており、「希少ガン」に類されています。主な治療は抗がん剤と手術でのがん組織の切除。

 大塚さんは足を切除しないと命にかかわると再三主治医から説得され続けていましたが、やはり片足を失う事は大きな恐怖。これまで同様の生活ができない、片足を失う事の恐怖は計り知れないものです。まだ年齢も若く今後の事も考えると足を失いたくない、そんな思いを主治医は受け止め、最初の手術はがん組織を含む部分をできるだけ取りつつ、足を残す為膝に人工関節を入れるという手術でした。

 人工関節置換術という手術は一度は成功したものの、ガン組織のある膝から下の筋肉をごっそりと取らざるを得なくなった事で足を動かす事がほとんどできない状態に。歩く事も儘らないため寝たきりの状態が続いたといいます。

 その手術から4か月後……膝部分の皮膚が溶け出してしまうという状態に。原因は不明。一度は膝から下を失う事なく手術に成功したものの、この皮膚が溶けるという状態が起こった事で大塚さんは膝の上部分から下を切除する事を決意し、義足となったのでした。

■片足を失ってから自由を手に入れるまで

 自分の体の一部を失うという事がどれほどの苦しみであるか想像がつかない人も多いかもしれません。当たり前にある腕や足がない状態。イメージがわかないでしょうしその状態でどう生活したらいいのかさえ見当も付かないのではないかと思います。

 大塚さんもやはり同様に体の一部を失う事への恐怖がとてつもなかったのですが、膝から下を温存しても筋肉を切除して寝たきり状態となった事から、「足が1本無くても自由に動けるなら、その方が幸せかな」と、気持ちに変化が出たそうです。

 そうした気持ちの変化と皮膚が溶けて保存的な治療が困難な状態となった事から、膝上部分から下を切断し、片足がない状態になる事を受け入れる事ができたのでした。そして失った片足の代わりとなるのが、義足。

 骨肉腫を発症した2年後、1997年に最初の義足に出会い、理学療法士や装具士と自身の運動量を相談して初号機を装着。ナブテスコ社製のインテリジェント膝継手というもので、膝関節部分をマイコンで制御して足の動きをより自然なものに近づけ使う人にあった歩行を補助するというもの。一昔前までは義足は海外製のものが大半でしたが、このマイコン制御型の空圧シリンダーを用いた義足は日本で最初に開発されたものなのだそう。


黄色い文字が入ったものが初代インテリジェント。階段を降りる際交互に足を出す事は出来ない


この部分からマイコンに制御プログラムを送ったりデータをやり取りできる

 大塚さんが現在使っている義足は4本目か5本目(本人談)で、インテリジェント膝継手の後継機に当たる、「ハイブリッドニー」というもの。こちらもマイコン制御で自然な動きが実現され、健足の動きと装着している断端部分の動きから義足の動きを健足に自然に合うようにプログラムされています。この義足は断端部にソケットという足を固定する部分をはめ込み、吸盤の様に空気を抜いて装着するので足にぴったりとはまります。自然な動きとなるようソケットに付いたセンサーがマイコン部分と繋がっています。




マイコン制御された関節部分は階段を降りる際交互に足を出す事が可能

 このマイコン制御に使用されているバッテリーは現在大塚さんが使用している義肢であれば2年間持つそうで、マイコン制御のない型の義足でも軽スポーツを楽しむ事ができる人もいます。

このサイズの電源が組み込まれている。2年間持続。

 現在義肢を扱っている会社は日本中に幾つもあり、日々、より自然な動きに近づくよう各社とも医療機関と連携を重ねながら研究を重ねていっています。大塚さんが使っている義足の様にメカニカルな見た目の物から元あった手足に極力近い見た目の物まで、その種類も様々。その義肢と体がうまくかみ合う為には装具士が違和感のないようにソケットを作る必要があり、そして理学療法士によるリハビリも不可欠。

 大塚さんが義足を使いこなせるようになったのも、サバゲ―への復活という目標があったからこそという事です。91年から本格的に始めたというサバゲー、健常者であった時はフィールドを走り回るスタイルが多かったそうですが、義足を装着した現在は歩いたり・匍匐したりというスタイル。

 「義足をつけはじめの頃は体を上手く動かせず、すぐに疲れたり、義足が擦れて皮膚から出血することが多かったですが、今では、起伏の激しい森林フィールドで丸一日プレイしても負担無く楽しんでいます」とプレイスタイルを変えながらも自由な動きを楽しむ事が出来ているようです。

1997年当時の大塚さん。

■失った代わりに得たものと、それを上手く楽しむために

 病気や事故で体の一部を失うという事を受け入れるまでにとても大きな壁を乗り越える作業が必要です。自分の両足で立ったり座ったり、生まれてから当たり前に出来ていたことを人工の足に置き換えるのは想像がつかない人が大半であるかと思います。

 しかし、生きていればその失ったものをカバーする事ができるものを代わりに身につける事も出来ます。例えば、農作業中に農機具に足を巻き込んでしまい膝から下を失った人が義足で再び農業に専念できるようになったり、プレス機で作業している人が腕を巻き込んで肩から先を失っても見た目義手とは分からない義肢を身に付けて事務仕事に転換したり。片手だけでもできる作業はあるし義足でも歩ければ日常生活に大きな支障が出ない人も大勢います。

 大塚さんも片足を失った代わりに、誰が見ても「かっこいい」と思う義足に出会い、このカッコよさをもっと多くの人に知ってもらいたい、義肢はファッション性の一部にもなり得るという事をたくさんの人に知ってもらいたいという気持ちがあります。

膝を曲げた状態。メカ感がカッコいい

 元あった手足と同じ見た目にもできる、しかもサイボーグの様にカッコよくもできる、スタイリッシュにも華やかにもできる。技術の革新により実用的にも、生活の質の向上にもなりえるという事を伝えたい、大塚さんの思いは筆者も同じで意図せず障害を負ってしまってもそれに対して不必要にマイナスに考える必要もなければ隠す必要もない、そう思います。

 「私、片腕ないんだよねー」とさらっとサイボーグの様な腕を見せる女子校生とか妄想すると萌えの世界寄りになってしまいそうですが、現実世界もそれくらいの自由さと偏見のなさがあるといいな、と思います。そんな意味でも大塚さんのサイボーグみたいな義足はもっと多くの人に見てもらいたいと思いますし、体の一部の欠損にネガティブさや偏見を感じさせない世の中になるといいな、と思います。

<記事化協力>
 大塚一明さん

(梓川みいな / 正看護師)