おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

事故と感染症。野生動物とヒト。両方守るために覚えておきたいただ一つの事

 愛知県知多半島地域でエキノコックス感染症が発生し、このほど愛知県が注意喚起を発表。一方、北海道では野生動物への餌付けが問題となっています。

  •  愛知県内でエキノコックスが確認されたのは、知多半島で捕獲された犬から。県発表によると「平成26年4月4日付けで1例(捕獲場所:阿久比町)、平成30年3月27日付けで3例(捕獲場所:阿久比町、南知多町、及び知多市)、『「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づき」犬の獣医師によるエキノコックス症を診断した旨の届出がありました』(原文ママ)という事です。

     エキノコックスは野ネズミなどの中間宿主を通しイヌ科動物にもヒトにも感染する感染症で、寄生虫の一種。このエキノコックスは寄生した動物の腸内で産み付けた虫卵をイヌ科動物やヒトが口を通して感染する「経口感染」が主なルート。エキノコックスの虫卵は腸内でふ化し、その幼虫は腸壁から血液やリンパ液に乗って体内の各所に流れ着き臓器に定着します。

     その間の潜伏期間は約10年。無症状であるため10年もの間感染している事に気が付かないまま過ごす事も稀ではなく、主に肝臓に出る病変がはっきりと分かる状態になった時には感染から10年以上経過し、症状も進行している場合も多くあります。

     このエキノコックスはヒトからヒト、イヌ科以外の動物からヒトに直接感染する事はないのできちんと予防をすれば発生を広げる事はありません。しかし、今回愛知県の野生の犬で感染が確認されたという事は知多半島地域にエキノコックスが定着している可能性も否定できないという事になります。

    エキノコック感染ルート(愛知県HPより)


     一方、このエキノコックスは主に北海道でよく感染が確認されている感染症で道民なら学校の授業でも習うくらいには感染予防の知識が身についている人が多いのですが、他の地域ではあまり馴染みがない為か知られていない事もあります。

     そして野生のキツネにエキノコックスが常在しているというのも道民なら常識の範囲内かと思いますが、他の地域では知られていない事も。その為かキツネの可愛さにつられてつい餌をやってしまう人もいるようです。

     先日、その野生のキツネが人間から餌をもらえる事を覚えてしまった事に危惧感を持った人がこんな投稿をSNSにしていました。

    「ココまで近づいて『エサ下さい』のポーズ。こうやって車に轢かれ命を落とします。野生動物を守るためにも絶対にエサを与えないで下さいね。知床公園線(道道93号)より」

     この投稿はツイッターで北海道の流氷の様子を紹介している「流氷なび」さんのツイート。
    アスファルトで整備されている車道で、人のすぐ近くまで近づいて餌をもらおうと待ち構えている様子の写真とともに注意喚起を行っています。

     確かに可愛いし、つい餌をあげてモフりたくもなるのは分かります。しかし、人間の知識のなさや「ちょっとくらい」という気持ち、「自分だけなら」「だって可愛いから」という気持ちはキツネには悪影響なのです。一度餌をもらえると覚えたキツネは人間に近づいていくようになります。そして、車が走っているところに飛び出していき不幸な結果を招く事もしばしばあるようです。

     観光客の安易な気持ちによる餌付けは、キツネに不幸をもたらします。そして、野生動物の生息地に入る事がエキノコックスを広める原因にもなります。この二つの不幸を防止するためには、「キツネの生息地にむやみに入って餌をあげない」この一言に尽きると思います。

     知床への観光客は、ヒグマにも安易に餌をやってしまう事があるようです。また、食べ残しのゴミを路上に放置した結果ヒグマが人の近くまで近づき、攻撃する事も。民家にヒグマが近づき人を襲ったり畑を荒らすなどの被害も深刻です。
     この為知床一体の知床斜里町観光協会・斜里町・知床羅臼町観光協会・羅臼町などが「えさ禁企画実行委員会」を結成、注意を呼び掛けています。

     これから北海道も雪が解けて本格的な観光シーズンを迎えます。同時にエキノコックスが発生・蔓延しやすい時期にもなります。もし野生動物の生息地に足を踏み入れてしまった場合、アスファルトに出て靴底の泥をしっかりと落としてから車に乗ってください。エキノコックスの虫卵をその場で落として、手も清潔に。泥が手についたり服についた場合はしっかりと洗い流す事で感染は防げます。経口感染は手についた病原体を口に持っていく事で入り込み感染が成立するので口元を触ったり清潔にしないまま食べ物や飲み物を摂る事が一番危険です。

     すべての感染症は、正しい知識の元に予防する事で発生を防げます。野生動物に安易に手を出さない事はヒトを守る事にもつながるのです。是非覚えておいてください。

    <参考>
    犬におけるエキノコックス症の発生に伴う注意喚起について – 愛知県
    エキノコックス症とは|国立感染症研究所
    知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン

    <記事化協力>
    流氷なびさん(@ryuhyonavi)

    (梓川みいな / 正看護師)

    あわせて読みたい関連記事
  • 「犬も猫吸いをする」ほっこり瞬間 仲良しコンビの日常写真が注目
    インターネット, おもしろ

    「犬も猫吸いをする」ほっこり瞬間 仲良しコンビの日常写真が注目

  • 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい
    インターネット, おもしろ

    床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

  • 最新の犬型ロボット!?頭が隠れたワンちゃん、思わず二度見
    インターネット, おもしろ

    最新の犬型ロボット!?頭が隠れたワンちゃん、思わず二度見

  • ふんばる犬たちのカプセルトイに新犬種登場 「ふんばり~ぬ2」10月下旬発売
    商品・物販, 経済

    ふんばる犬たちのカプセルトイに新犬種登場 「ふんばり~ぬ2」10月下旬発売

  • 「撫でたい人」と「撫でられたい犬」をつなぐ ふれあいマッチングアプリ「nadete」登場
    インターネット, サービス・テクノロジー

    「撫でたい人」と「撫でられたい犬」をつなぐ ふれあいマッチングアプリ「nadet…

  • 毛布ロールに寄りかかったまま眠るポメプー かわいすぎる寝姿にほっこり
    インターネット, おもしろ

    毛布ロールに寄りかかったまま眠るポメプー かわいすぎる寝姿にほっこり

  • プロライダーも顔負け?転びそうで転ばない、華麗なコーナリング技術を見せたワンコ
    インターネット, おもしろ

    プロライダーも顔負け?転びそうで転ばない、華麗なコーナリング技術を見せたワンコ

  • 「食べ方がヘタすぎる」ご飯をこぼしてどこか気まずそうな柴ワンコ
    インターネット, おもしろ

    「食べ方がヘタすぎる」ご飯をこぼしてどこか気まずそうな柴ワンコ

  • 猫を撮ろうとしたら……犬がドーン!思わず笑ってしまう主役交代(?)の瞬間
    インターネット, おもしろ

    猫を撮ろうとしたら……犬がドーン!思わず笑ってしまう主役交代(?)の瞬間

  • わんわんボクシング界に新星?強烈な「右フック」を繰り出すワンコ
    インターネット, おもしろ

    わんわんボクシング界に新星?強烈な「右フック」を繰り出すワンコ

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分けが装置爆誕
    インターネット, おもしろ

    エクストリーム! 全自動マーブルチョコの色分け装置が爆誕

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理

      「シテの花」作者が続報投稿 前担当の不備めぐり編集部と協議、認識を整理

      小学館「週刊少年サンデー」で連載中の漫画「シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-」の作者・壱原ちぐささんが11月18日18時、新たな投稿を…
    2. 松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み

      松山ケンイチ「誰も傷つけない悪口選手権」を開始 SNS時代に投げかける新たな試み

      俳優の松山ケンイチさんが11月17日、自身のXアカウント「松山ケンイチ(@K_Matsuyama2023)」でユーモア企画「誰も傷つけない悪…
    3. 悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ

      悔しさと葛藤を語った「シテの花」作者 掲載順問題が大きな反響呼ぶ

      小学館「週刊少年サンデー」で連載中の漫画「シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-」の作者・壱原ちぐささんが11月17日、作品の掲載順に関す…
    4. 今年もやってきた“本番環境の事故録” Qiitaの「やらかしアドベントカレンダー2025」開幕

      本番環境などでの失敗談が集結 Qiitaの「やらかしアドベントカレンダー2025」開幕

      稼働中のサーバーでの作業ミスによるトラブルの顛末をつづる「本番環境などでやらかしちゃった人 Advent Calendar 2025」が12…
    5. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト