誕生からお葬式まで、日本人にとって人生の節目節目に必ず使われる水引(みずひき)。贈答品や袋(封筒)を飾る飾り紐のことで、その結び方は様々ありますが、普段お目にかかるのは「あわび(あわじ)結び」「花結び(リボン結び・蝶結び)」「結び切り」あたり。その時々の出来事や贈る相手にあわせて、結び方や紐の色が使い分けられています。例えば、慶弔どちらも使えるあわび結びで金銀紐ならば、結婚祝い。など。
昨今では、水引がすでに印刷されたものもありますが、水引が華やかであるほどご祝儀を贈る側の心遣いが感じられ、お祝いされる側も嬉しいもの。そんな人生の節目節目を飾ってきた水引を、アクセサリーとして取り入れた作品が話題を呼んでいます。
特に最近注目されていたのは「ト音記号のピンブローチ」。作ったのは、水引アイテムの製造、販売、ワークショップの開催などを行っている「喜結-kimusubi」の舟木香織さん。2010年に水引アートの梶政華さんに師事し、現在は独立し水引の素晴らしさを広めるべく台湾台北での展示会や、百貨店へPOPUP SHOP出店など精力的に活動をされているようです。身に付ける水引としてアクセサリーを製作された舟木さんに「ト音記号のピンブローチ」が誕生したきっかけを伺いました。
ト音記号のピンブローチ。先日オーダーいただいたのですが、お問い合わせも多かったので、商品化しようかなと思ってます。
何色がいいかなー?🤔#kimusubi #mizuhiki #喜結 #水引 #ト音記号 #音楽 pic.twitter.com/aBkwQGtgvq— 喜結 -kimusubi- (@KaoriMizuhiki) April 5, 2018
―水引をアクセサリーに使おうと思われたきっかけは?
素材が紙ですので軽いうえに、特に和紙は丈夫です。アクセサリーの材料として取り入れることで、ファッションを楽しむ幅が広がります。イヤリングやネックレスは、長時間つけていても重さで疲れたり、痛くなったりしませんし、ブローチは大ぶりなものでも重さで傾いたり、ピンを通した穴が広がってしまうこともありません。
―こだわりの水引紐はありますか?
「喜結」の水引は全国の生産の70%を占める長野県飯田市の水引を使用しています。最近では100円ショップでも中国産などの水引が手に入るようになりましたが、本場の水引は「ハリ」と「しなやかさ」のバランスが全く違い、仕上がりの美しさに大きな違いが出てきます。また現在では、水引業者さんが様々な種類の水引を生産していますので、表情豊かな作品が作れます。
―ト音記号のピンブローチの作品は販売予定とのことですが…。
販売価格は未定ですが、3000円前後を予定しています。
―こちらの制作期間はどのぐらいかかりましたか?
慣れてしまえばそれほど時間はかかりませんが、長く使っていただくために防水加工をしています。作る時はまとめて一気に工程ごとに分けて作業していきますが、1個あたりでいうと、水引パーツ製作→コーティング→金属パーツの取り付けで2.5時間程度ですかね。
―作る際は、どのようなことにこだわって作られていますか?
最近は水引アクセサリーを作る方が増えてきましたから、「喜結らしさ」を感じられる技術とポップさを同時に表現できるように意識しています。ト音記号のブローチはもともとご祝儀袋でした。お客様からのオーダーで、「海外のお友達へのプレゼントに」とのお話をいただき製作しました。喜結も元々ご祝儀袋屋さんからスタートしましたが、やはりご祝儀袋は差し上げてしまうと手元に残りませんので、お客様から、「自分用に楽しめる水引アイテムを作って欲しい」とのご要望からアクセサリーも製作するようになりました。
―今までで一番難しかった作品は何ですか?
やはり大きな作品は時間がかかるという意味では大変ですね。昨年末にA1サイズの鳳凰を製作しましたが、同じ作業の繰り返しで腱鞘炎になりました。パーツごとに製作したものを一つのアートとしてまとめる作業が大変です。アート作品は一つとして同じものがないので、仕上げが一番難しいです。
―ご祝儀袋や、箸おき、アクセサリーなどありとあらゆるものに水引紐が違和感なく馴染んでいるように見えるのですが、結い方など特別工夫していることがあれば教えてください。
水引自体は、言ってしまえばただの90cmの紙の紐です。それをどう活かすかがセンスだと思います。特性をよく知り、歴史的背景やしきたりを知った上でアートへ昇華していくことで、伝統工芸という枠を超えて広く世界中の人に水引の美しさ、素材としての素晴らしさを伝えていけると思っています。
「水引を世界中の人に知ってもらいたい! 世界各地でセミナーや展示会、ワークショップを開催したいです。「結ぶ」という文化は世界中にあるので、水引を使って文化交流していきたいと思っています」と舟木さん。
最後に、これから製作してみたいものは? と伺ったところ「ヘッドドレスにチャレンジしようと思っています。和装のウェディングスタイルにも合うようなヘッドドレスを作ってみたいですね」と水引の新たな可能性を見出しているようでした。
<取材協力>
「喜結-kimusubi」舟木香織さん(Facebook:喜結kimusubi、Instagram:@_kimusubi_、Twitter:@KaoriMizuhiki)
(黒田芽以)