太陽に約590万kmの距離まで接近し、外部コロナの観測を行うNASAの探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が2018年8月12日午前3時31分(アメリカ東部時間)、フロリダ州ケープ・カナベラルのアメリカ空軍ケープ・カナベラル基地37番発射施設から、ULA(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)のデルタIVヘビーロケットで打ち上げられました。太陽にここまで接近して観測を行う探査機は世界初です。
パーカー・ソーラー・プローブは、太陽の周囲(表面から約500km〜)にある高温のガス層である外部コロナを観測するために、NASAゴダード宇宙センターとジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所によって計画された宇宙探査機。太陽表面から590万kmの距離まで最接近し、至近距離で観測することで、これまで60年以上にわたって多くの研究者たちが追い求めてきた、太陽コロナや、太陽から吹き出している高温のプラズマ「太陽風」の仕組みなどの謎を明らかにすることが期待されています。
探査機の名称は、太陽コロナや太陽風の研究で世界的に著名なアメリカの宇宙物理学者、ユージン・ニューマン・パーカー博士にちなんだもの。1958年にパーカー博士によって提起された太陽コロナと太陽風に関する疑問とその研究が、この計画の端緒となっているためです。NASAの探査機に存命の人物の名前がつけられるのは、これが初めてのこと。未明の打ち上げには、現在91歳のパーカー博士も招待され、ロケットエンジンの大音響とともに空へ消えていくロケットを見守りました。
太陽表面から590万kmというと、まだまだ距離があるように思えますが、この距離でも太陽の光が持つエネルギーは地球表面の500倍以上。温度にすると最高で摂氏1400度近くに達する灼熱の環境です。ほとんどの金属が溶けてしまい、原形を保つことができません。このため、観測機器と探査機本体を守るため、太陽に向けられる側には特殊な耐熱シールドが装備されています。炭素繊維強化炭素複合材(カーボンカーボン)の断熱材でできた厚さ11.43cmの耐熱シールドは、片側からガスバーナーで熱しても、反対側に熱をほとんど伝えません。さらに表面は熱を反射しやすいよう、白くされています。この裏側に、観測機器や近接時に用いる太陽電池など主要な機器が配置される構造です。
パーカー・ソーラー・プローブには、パーカー博士のメッセージとともに、NASAが「あなたも太陽に触れてみませんか?」というテーマで一般から募集した、110万人分の名前が収録されたメモリーカードが取り付けられています。
太陽への道筋は、一旦金星に接近して、金星の引力を利用して軌道と接近速度を調節する「スイングバイ」を計7回行います。こうして太陽に何度か接近する周回軌道に乗せ、観測を行います。太陽周回軌道に入った時の速度は、太陽を基準として最高で時速約70万km。これまで人類が製作した物体の中で最速となります。現在は太陽電池バネルの展開を終え、各機器が問題なく作動するかの確認作業が進められており、順調であれば10月初めに最初の金星スイングバイ、12月に最初の観測を行い、2024年に最後となる7回目の金星スイングバイを行う予定です。
打ち上げを担当したULAにとって、今回の打ち上げが2018年における6回目のロケット打ち上げ。2006年の会社設立以来、これで129回連続で打ち上げを成功させました。次回の打ち上げ予定は9月15日、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地における、デルタIIロケット最終号機による極地の氷床と海氷を観測するNASAの地球観測衛星、ICESat-2の打ち上げとなっています。
Image:NASA
(咲村珠樹)