第二次大戦で活躍したイギリスの戦闘機、スーパーマリン・スピットファイアによる世界一周飛行が2019年8月5日(現地時間)、イギリスのグッドウッド飛行場からスタートしました。日本にも9月中旬から下旬にかけ、全国6か所に立ち寄る予定です。
スイスの時計ブランドIWCがメインスポンサーとなり、イギリス政府も後援する「シルバースピットファイア」の世界一周プロジェクト「The Longest Flight」。ピカピカのシルバークロームに磨き上げられたスピットファイアMk.IX、元イギリス空軍「MJ271」号機が、4万3000km以上の距離を飛行します。
この飛行に使用されるスピットファイアMk.IX・MJ271号機は、自動車メーカーのモーリスが保有するキャッスル・ブロムウィッチ工場(スーパーマリンの工場が空襲被害を受けたため、1940年に生産施設を移転させた秘匿工場。現在はジャガーの工場)で1943年10月24日に完成したシリアルナンバー「CBAF IX 970」。1944年2月にデトリング空軍基地の第118飛行隊で、フランスのV1飛行爆弾基地を攻撃するB-17やB-24といった爆撃機隊の直掩(直接掩護)を務めました。
その後、第132「ボンベイ」飛行隊に配置転換したMJ271は、サセックス州のフォード空軍基地を拠点にフランスの海岸地方を爆撃するB-25やB-26の直掩任務につきます。その任務中、降着装置のトラブルでフォード空軍基地に胴体着陸。機体を損傷してしまいます。
修復されたMJ271は、オランダに駐留するカナダ空軍の所属となり、戦闘爆撃機として活動。第二次世界大戦後はオランダ空軍に供与されて退役しました。そのまま博物館に保存されていたMJ271が動態復元され、再び空へ舞い上がったのは2019年7月8日のことです。
新たに民間機「G-IRTY」として復活したシルバースピットファイアMJ271号機は、イギリス国内で試験飛行とエアショウでの展示飛行を重ねてきました。そして8月5日、イギリスのハンプシャー州にあるグッドウッド飛行場から、長い長い世界一周の旅へと出発したのです。
パイロットを務めるのは、グッドウッドにある世界唯一の「スピットファイアの公式パイロット養成スクール」であるボールトビー・フライト・アカデミーの創設者であるスティーブ・ボールトビー・ブルックスさんと、マット・ジョーンズさん。スピットファイアの飛行教官として豊富な飛行経験を持つ、スピットファイアのエキスパートです。
シルバークロームに輝くスピットファイアの主翼下面にあるラジエータには、IWCのブランドアンバサダーを務める元F1ドライバーのデビッド・クルサードさんらが記念にサインを記しています。
また、出発に際してはイギリス軍が完全協力。音楽隊が祝福に駆けつけたほか、イギリス空軍でスピットファイアやハリケーン戦闘機、ランカスター爆撃機やダコタ(C-47/DC-3)輸送機を動態保存している「バトル・オブ・ブリテン・メモリアル・フライト(BBMF)」のホームベース、コニングスビー空軍基地からやってきた整備担当者が、スピットファイア用のサバイバル装備を取り付けるサービスも行なっています。
さらに上空からは、イギリス陸軍のパラシュート・デモンストレーションチーム「レッド・デビルス」が祝賀降下。イギリスの誇る名戦闘機が始める冒険を祝福します。
いよいよエンジン始動。最初の区間(グッドウッド飛行場〜ロジーマス空軍基地)を担当するマット・ジョーンズさんが乗り込み、スピットファイアの心臓であるロールスロイス・マーリンを目覚めさせます。
大勢の人が見守る中、シルバースピットファイアはスムーズに離陸。4万3000km、およそ4か月に渡る冒険の始まりです。
これに続いてイギリス空軍バトル・オブ・ブリテン・メモリアル・フライト(BBMF)のスピットファイア3機が離陸し、シルバースピットファイアを先頭にダイヤモンド編隊を組んでエスコート。
スピットファイア最大の欠点は、航続距離が極端に短いこと。これは基本的にドイツ軍の爆撃機や直掩戦闘機を迎撃するために設計されたからで、長距離や長時間の哨戒飛行が求められていなかったのが理由です。このため、燃料補給のために中継地が多くなりますが、逆にパイロットが長時間飛行を強いられることなく、適度に休憩や交代ができるというメリットでもあります。
現在のところ、発表されている中継地は終着点のグッドウッド飛行場を含む87か所。日本では丘珠空港(北海道札幌市)、仙台空港(宮城県)、龍ヶ崎飛行場(茨城県)、県営名古屋空港(愛知県)、鹿児島空港(鹿児島県)、那覇空港(沖縄県)の6か所が予定されています。それぞれの到着予定は以下の通り。
丘珠空港……9月18日
仙台空港……9月19日
龍ヶ崎飛行場……9月20日
県営名古屋空港……9月25日
鹿児島空港……9月25日
那覇空港……9月26日
茨城県の龍ヶ崎飛行場では機体整備のため、5日間の滞在が予定されていますが、周囲は民間の農地(収穫時期の水田)のため、決して立ち入らないようにしてください。また、周辺道路も幅の狭い農道なので、路上駐車は厳禁です。
フライトの最新情報は、シルバースピットファイア公式サイトのほか、公式Twitter(@LongestFlight)、公式Facebook(thesilverspitfire)、公式Instagram(thesilverspitfire)で発信予定。日本到着が待ち遠しいですね。無事のフライトを祈りたいと思います。
<出典・引用>
IWC プレスリリース
シルバースピットファイア 公式サイト
Image:IWC/RAF Crown Copyright 2019
(咲村珠樹)