日本赤十字社が運営している、全国各地の献血ルーム。最近あるポスターが話題になって以降、献血に興味を持つ人が出始めてきました。そんな中、一人の献血者のエピソードが話題となりました。

 このエピソードを漫画にまとめたのは、漫画家のオキ エイコさん。オキさんのご両親はよく献血に協力しており、お二人とも100回献血をした記念品ももらっているほど。そんな中、約20年前にオキさんのお母様あてに1本の電話が。

 電話の相手は日本赤十字社の人「手術に必要な血が欲しい状態だが、白血球の型が、(お母様)さんの他に一致する人がいないので協力してください」という旨の内容でした。なんと、お母様の白血球の型(HLA)が日本中どこを探しても合う人がおらず、オキさんのお母様に白羽の矢が立ったのでした。

 そしてその患者さんの手術当日の朝、お母様はいつもの献血ルームにて採血、そしてその血液は待機していたヘリですぐさま患者さんの元へと運ばれていったのです。

 まだ幼かったオキさんは、そんな母親を誇りに思っていましたが、お母様は「もし母さんが手術手術する側だったら、その人に助けてもらったんやで何でも助け合い」と、当たり前のように話していました。そんな母の姿を見てきたオキさんも、16歳から献血に行くように。

 そんなオキさんに対し、「偽善者ぶって、そういうしてる自分が好きなだけでしょ」などという人も、必ず中にはいるのですが……。

 オキさんの場合、正直にいってそういうとこあるね、と否定ナシ。「献血ってイージーに人の役に立ってるっ!!て思うこともあるし、そこに酔っているような自分もいる」。

 でも、「それでいいと思う!!」偽善でもなんでも、献血によって救われる人はいるし、オキさん自身も幼かりし頃の娘さんが入院した時のことを思い出すと胸が熱くなる、と。

 偽善だのなんだのと笑ったり批判したりする人も確かにいます。しかし、どんな理由であれ献血をするということ自体が誰かを助けることに繋がっているということは忘れないで欲しい、と締めくくっています。

 このエピソードに、「献血に行きたいけど行ったら比重が足りなくてできなかった」「同じく血圧で引っ掛かってダメだった」「服薬の都合で・難病で無理だった」と、献血したくてもできない人たちや、初めて献血に行った時のことを思い出した人、逆に献血のおかげで命が救われた、という人など、様々な立場の人から多数のリプライが届いています。

■ 白血球の型って?

 オキさんの漫画の中にも出てきた、白血球の型(以下HLA)というのは、赤血球のA、B、O、AB型に相当する白血球の血液型で、A座、B座、C座、DR座という4座(8抗原)があります。

 現在は骨髄バンク提供による造血幹細胞移植をする際に、患者とドナーのHLAが合致する時にドナーが複数候補に挙げられ、その中からよりドナー側の都合が付く人に造血幹細胞の提供をお願いする、という形でしたが、20年前はまだ造血幹細胞移植は完全に確立されていなかった時代。そのため、白血病の治療でHLAの型が合う人の血液はとても貴重でした。

 HLAは赤血球よりも複雑な組み合わせでできており、両親から受け継ぐHLAの型はそれぞれ各座半分ずつで、兄弟姉妹の間ではHLA型が完全にあったドナーが4分の1の確率で見つかりますが、多くの患者さんは家族内に同型のHLAを持つ人が非常に少なく、非血縁者間では、数百から数万分の1の確率でしか一致しません。

 そのため、献血と一緒に骨髄バンクの登録も呼びかけられています。

■ 「やらない善よりやる偽善」

 この言葉、時々聞こえてきます。「偽善者ぶって」という人は、批判している自分に酔っているところがあっても、実際に善行へと行動を移さない人が殆どでしょう。そんな人たちは置いておいて、とりあえず行動を起こすことが第一歩になります。きっかけは何でもいいんです。

 筆者も、学生時代は成分献血を2週間ごとに繰り返していた献血ジャンキーな状態でした。回数を稼いで記念品をもらいたかったのと、学生ボランティアの子と喋る、そしてお菓子とドリンクを飲みながら粗品ももらえる居心地の良さもあって、「趣味:献血」みたいになっていました。血液の細胞を壊さないように、採血する針は病院などの血液検査で使われる針よりも2回り程太いのですが(16G)、慣れれば案外何てことなかったりします。

 20年以上前までは、500円分のテレホンカードももらえたりすることがあったので、それ目当てだったということもこの際正直に告白します。今では法改正でお金に相当する商品券類は扱えなくなりましたが……。しかしこれがきっかけで、献血にハマっていき、社会人になっても子どもが生まれるまではたびたび献血ルームでのんびりとDVDなど見ながら成分献血に通っていました。

■ 献血の現状

 献血のポスターが問題視されているところもありますが、各地の赤十字社血液センターでは様々なコラボ企画などで献血してくれる人を増やそうを頑張っています。乃木坂46や、鉄拳さんのパラパラ漫画、各血液センターで行われるイベント等も行われていますが、各地方のブロックごとに献血者数を見てみると、各地とも前年度を下回っています。

 特に、400ml献血と成分献血は常に不足している状態。200ml献血は男女とも16歳から行えますが、200mlの血液から使える血液製剤に分けると非常に少ない量となってしまいます。しかし、400ml献血では量が多い分、赤血球のみ、血漿、血小板などの血液製剤を造りやすくなっています。

 また、成分献血は血漿と血小板に分けて製剤できる上、体内で出来上がるまでに時間がかかる赤血球を体内に戻してくれるため、体への負担も少なく、貧血状態にもなりにくいという利点もあります。

 400ml献血は、男性では12週間の間隔、女性では16週間の間隔をあけてまた献血ができますが、成分献血では男女とも2週間の間隔をあけるだけで次の成分献血が行えます。しかし、体重の下限やヘモグロビン濃度の下限など、基準が細かく決められているので、献血の前に行う採血で献血不可となってしまう人も、全体の10%強いる状態です(成分献血は体重に応じて採血できる量が決められています)。

 さらに、内服薬によって献血ができる人、できない人がいます。この辺は最寄りの血液センターのサイトで確認してみましょう。それでも分からない、という人は、血液センターに問い合わせると献血の可否を教えてもらえます。

■ 今必要なのは若い血液!

 10代から30代の献血者は年々減っているのが現状で、特に20代~30代の献血者が特に減ってきています。仕事でなかなか時間が取れない、外回りのついでに献血という程時間が取れない、土日は疲れて外に出るのもしんどい……いろいろあると思います。

 しかし、今後少子高齢化が進んでこのまま献血ができない年の人が増えてしまったら、必要な血液の供給量も減り、助かる命も助けられない可能性も出てきています。

 最近は人工血液の研究も盛んに進められていますが、まだ人体に使えるまでは相当の時間を要するでしょう。また、血液分画製剤自体も保存期限が限られており、赤血球製剤は21日間、冷凍保存の血漿は冷凍しても変性しないため冷凍から1年は持ちますが、白血病などに必要な血小板は、冷凍すると血小板が使い物にならないので3日の命(採血から4日ですが病院まで運ばれる時間をカウントすると実質3日)。常に400mlと成分献血が不足するのは、この期限の短さに加えて必要とする人が多い、というのもあります。

 ちなみに、血液をそれぞれに分離しない、全血を輸血するというのは今では滅多にありません。全血は赤血球と同じく21日間保存できますが、病状などに応じて使い分ける必要があるため、今ではほぼ使われない、製造自体もほぼないのでかなり減っています。

■ 医療者として血液を扱った感想

 筆者は看護師として10年近く病棟に勤務していましたが、その間も度々手術の際などに輸血は必要な人に医師の指示を受けて点滴に血液製剤を繋げて輸血を行ったことが何度もあります。

 赤血球製剤は、型が合っていれば使えるので、患者さんの血液型と取り寄せた製剤が間違いなく使えるか、事前にテストを行い、問題なければ輸血となりますが、冷凍血漿は解凍時に慎重に解凍しないと熱変性を起こすので、その辺りはかなり気を使っていました。

 また、血小板製剤は置きっぱなしにすると血小板が凝固してしまうので、常温(20~24度前後)でゆらゆらと振とうさせる必要があります。そのため、血小板が届くとオーダーがあったら、専用の機械でゆらゆらさせながら医師が使うタイミングを待っていたこともあります。

■ 健康な人はレッツ献血!!

 こんな感じで、たとえ偽善だの下心があるだのと言っても、結局は人からしか作れない血液は、血液が必要な誰かに回っているのです。血液内のヘモグロビンの比重や体重、持病、過去の輸血歴、服薬など特に何もない人の血液は誰かの命をつなぐ大事な宝物なんです。

 ノベルティ目当てでもよし、暇つぶしでドリンク飲み放題目当てでも良し、とにかく健康な人は献血に行ってみて下さい。どこの献血ルームも、親しみやすくてキレイ、都心部などでは託児サービスもあるところもありますよ。

<引用・参考>
HLAとは?  造血幹細胞移植情報サービスより

献血方法別の献血基準 
平成30年3月分 全国血液センター献血者数速報(PDF)
平成30年度 血液事業年度報(PDF)
以上、日本赤十字社より

<記事化協力>
オキ エイコさん(@oki_soroe)

(梓川みいな/正看護師)