おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

花火の軌跡が描く「火の鳥」写真家長瀬正太の作品が群馬とニューヨークで展示

 夜空に開く打ち上げ花火。その時カメラを動かすと、幻想的な「火の鳥」が舞っていた……。Twitterでも人気の写真家長瀬正太さんが手がける、花火から生まれる「火の鳥」写真の展示が2020年2月から4月にかけ、群馬県前橋市とニューヨークで行われます。

  •  通常、打ち上げ花火の写真撮影をする場合、カメラを三脚などに固定し、花火が開くタイミングを見計らって2~5秒程度の長時間露光を行います。これにより、花火の「星」と呼ばれる火の粒が大きく広がる軌跡を写し込むのです。

     長瀬正太さんが手がける「火の鳥」写真は、打ち上げ花火を撮影する長時間露光の間にカメラを動かし、星の軌跡で絵を描く感覚で生まれるもの。カメラの動きのほか、風によって花火が流されるため、2つとして同じものはなく、撮影を終えるまでどのような姿になるか分かりません。


     花火が描く「火の鳥」と長瀬さんとの出会いは、2015年の前橋花火大会(群馬県)でした。前橋花火大会では花火の煙が滞留し、見にくくなってしまうことを防ぐため、花火師さんは打ち上げ場所を2つに分けて交互に打ち上げる方式をとっています。

     最初はカメラを三脚に据え、通常の手法で撮影していた長瀬さん。打ち上げ場所が変わるたびにカメラの向きを直していたのですが、途中から三脚から外し、手持ちの状態で撮るようになりました。

     もちろん、三脚に固定していないので数秒間の露光中、どうしても手ブレが発生します。長瀬さんは、どうせなら手ブレを味として「露光中にピント位置をずらし、意図的にアウトフォーカス状態を作ると、花火がまるでイソギンチャクの触手のようになる」という作画法を試してみることに。

     そのうち、ピント以外にずらして撮影できるものはないかと考え、装着していたズームレンズの焦点距離も露光中にずらす「ズーミング(露光間ズーム)」も重ねてみました。そこから誕生したのが、作品のプロトタイプとなる「火の鳥#0」です。

     長瀬さんはさらに試行錯誤を重ね、打ち上げ花火の露光中にカメラを意図的に動かし、前衛写真の「ライトペインティング(Light Painting。ライトドローイングとも)」のような手法で撮影するように。こうして生み出されたのが、打ち上げ花火の「火の鳥」作品群です。現在まで発表されたのは10数点。このほかに30点以上の作品が発表を控えているといいます。


     これまで活動拠点である群馬県を中心に、関東甲信越で開催される花火大会に足を運び、作品を作ってきた長瀬さん。撮影の上で好みの花火を伺うと、花火が開いたのち、散った星からさらに小さな星に分かれるもの(花火師用語で「星散」)や、星の色が変化していくもの(花火師用語で「変化菊」「変化牡丹」)、そして色違いの星が同心円状に広がる「八重芯(二重芯)」や多重芯の大玉(一般に「尺玉」とも言われる10号玉以上を指す)を挙げてくれました。

     色の面では、黒色火薬本来の橙色をした「和火」に、古から伝わる時間のようなものを感じるとのこと。また「火の鳥のイメージとしては、やはり赤(主にストロンチウム化合物の炎色反応を使用する)も好み」と話してくれました。

     長瀬さんの「火の鳥」作品は、まず2020年2月8日から3月15日まで、群馬県前橋市のアーツ前橋(前橋市千代田町5-1-16)で開催される特集展「前橋の美術2020-トナリのビジュツ-」に3点を展示。3月7日の14時30分~16時には、長瀬さんが来場してのギャラリートークも開催される予定です。

     アーツ前橋での特集展に連動した長瀬さんの個展「火の鳥展」も、群馬県前橋市のギャラリーあーとかん(前橋市上新田町680-12)で3月7日~15日に開催予定。こちらでは17点の作品が展示され、初日の3月7日はアーツ前橋でのギャラリートーク終了後、そのほかの会期中は長瀬さんご本人が在廊する予定とのことで、作品についての質問や、感想を直接伝えることもできます。

     また、アメリカのPIER94(711 12th Ave.)で2020年4月23日~26日に開催される「ARTEXPO NEW YORK」にも、告知フライヤーにもなっている「火の鳥#5」が1点(このほか別紙カタログにて13点)展示されます。

     ARTEXPO NEW YORKは、今回で42年の歴史を誇るアートイベントで、かつてはアンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、ロバート・ラウシェンバーグ、リロイ・ニーマンといった現代アートの巨匠も参加。世界中からバイヤーが集まり、その場で作品の買い付けも行われるという世界最大規模のアート・トレードショウです。

     長瀬さんは展覧会を前にした心境を「私の火の鳥は、夜空を大きな紙とし、花火をインクとし、カメラを筆として使って描いた写真です。そこには私の想像通りに描けたものは1枚もなく、全てが私の想像の外側から飛び込んできたイメージです。そんなイメージが観てくださる方の頭の中に何を生み出し、どのような世界へと広がっていくのか?それが今から楽しみで仕方ありません」と語ってくれました。

     夜空に舞う幻想的な「火の鳥」の数々。観た人々のイマジネーションの世界で、どのように羽ばたくのか楽しみです。

    <記事化協力>
    長瀬正太さん(@syouta0002)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」
    インターネット, おもしろ

    見える見える……木目に現れた“ひろゆき”に本人も反応「気付いてしまいましたか」

  • 「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク
    インターネット, おもしろ

    「見ざる・言わざる・聞かざる」を物理的に再現!1人で3猿をこなせるマスク

  • 「原作35周年記念 スレイヤーズ展 ~ごぅずおん~」キービジュアル
    アニメ/マンガ, イベント・キャンペーン

    「スレイヤーズ」原作35周年記念展 キービジュアル&チケット情報を解禁

  • もしも「食べられるガラス」があったら? アクリル製のリアルな“試作品”
    インターネット, びっくり・驚き

    もしも「食べられるガラス」があったら? リアルな“試作品”を美大生が製作

  • 数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題
    インターネット, おもしろ

    数式を組むとシーラカンスが浮かび上がる?実在しない「シーラ関数」が話題

  • わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現
    インターネット, おもしろ

    わーおしゃれなTシャツ……かと思いきや?夫が繰り出した斜め上の愛情表現

  • アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」
    インターネット, おもしろ

    アスキーアートは手打ちで作れる!?まさかの方法で生み出される「モナー」

  • ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード
    インターネット, おもしろ

    ジュラシックなフタ押さえ!モササウルスが割り箸をくわえてカップ麺をガード

  • 傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」
    インターネット, びっくり・驚き

    傘立てから伸びる黒い手の正体は傘 「一瞬でどこにあるか分かる」

  • 雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち
    インターネット, おもしろ

    雪の上を歩いて描いた地上絵、現れたのは巨大な海の生き物たち

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく
    社会, 経済

    雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

  • 声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声を守り多言語展開へ
    アニメ/マンガ, 声優

    声優とAIの共存を模索 81プロデュースとイレブンラボが業務提携、オリジナルの声…

  • Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行
    インターネット, サービス・テクノロジー

    Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

  • 駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開
    社会, 経済

    駅ホームでの“撮り・録り”が危険に? JR東日本が注意喚起ポスターと動画を展開

  • イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)
    エンタメ, 映画

    仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

  • アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation
    ゲーム, ホビー・グッズ

    あの起動音が再び 「アクリルロゴディスプレイSounds PlayStation…

  • トピックス

    1. Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Google、ダークウェブレポートを終了 実用的な対処支援へ重点移行

      Googleは12月16日、個人情報がダークウェブ上に流出していないかを確認できる「ダークウェブ レ…
    2. Gmailを受診している画面

      Gmailの仕様変更でPOP受信が終了 自分は対象?POP利用チェック

      Gmailの仕様変更により、外部メールを取り込むPOP受信機能が2026年1月より利用できなくなりま…
    3. イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」(清水駅前銀座商店街)

      仲村トオルが清水に凱旋 映画「ビー・バップ・ハイスクール」40周年イベント開催

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年)の劇場公開40周年を記念したイベント「清水 ビー・バ…

    編集部おすすめ

    1. 雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      雨や洪水の警報が変わる 新・防災気象情報、警戒レベル表示で行動判断しやすく

      国土交通省と気象庁は12月16日、雨や洪水などの危険を伝える「防災気象情報」について、2026年(令和8年)の大雨シーズンから新たな運用を始…
    2. コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      コミケの名物現象がまさかのグッズ化 「食べられるコミケ雲(わたあめ)」爆誕

      夏コミ名物、会場の熱気と参加者の汗が昇華して天井付近に発生するという伝説の現象「コミケ雲」。まさかそれを口にできる日が来るとは、誰が想像した…
    3. Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      Reactに「CVSS 10.0(最高)」の脆弱性 IPAが注意喚起

      情報処理推進機構(IPA)は12月10日、多くのウェブサービスで使われている開発技術に重大な問題が見つかり、国内でも悪用したとみられる攻撃が…
    4. ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライバー事務所4社に公取委が注意 「移籍しづらい」契約に懸念

      ライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で活動するライバーをサポートしている事務所4社が、所属ライバーの“退所後の活動”を不当にしばっ…
    5. パラマウントのプレスリリース

      まるで三角関係?Netflixと“婚約発表”したワーナーにパラマウントが求婚 関係を分かりやすく解説

      アメリカの映画製作・配給会社であるパラマウントが12月8日、同じくアメリカのメディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を1株…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト