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時の概念がテーマのデジタルアート展「ETERNAL ~千秒の静寂」羽田空港で開催

 文化庁が展開する「メディア芸術×文化資源 分散型ミュージアム」の一環で、重要文化財をモチーフに、“時の概念”をテーマとしたデジタルアート展「ETERNAL ~千秒の静寂」が羽田空港で2月1日から始まります。その内覧会に行ってきました。

  •  文化庁では2019年度から、国外からの訪問者が最初に訪れる国際空港において、メディア芸術を通じた日本文化を発信する事業を展開。その一環として、日本が歴史の中で伝えてきた重要文化と、最先端のメディア芸術とを融合させた展覧会を国内の国際空港10か所程度で開催しています。

     羽田空港では2019年9月に続いて2回目の開催。今回は重要文化財をモチーフに、それを伝えてきた“時”と、今という“時”に生み出されるメディア芸術が出会い、いわば“時の概念”を感じさせるようなデジタルアート展となりました。

     所管する文化庁の所昌弘さんは、これまで羽田空港のほか、新千歳空港、高松空港、新潟空港で開催した展覧会の概要について紹介。日本を訪れる人々に、古くからの美と新しい美、2つの美のありようを通じて、日本文化の奥深さを感じてもらいたいと語りました。

     今回の「ETERNAL ~千秒の静寂」でクリエイティブ・プロデュースを担当したMUTEK.JPの竹川潤一さんは、キーワードとして茶道の心得の1つである「和敬清寂(主人と客人が互いに敬いの心をもって和し、場を清らかでつつましやかなものとする)」という言葉を挙げます。重要文化財となるものが誕生し、守り伝えて重要文化財に指定されるまでの“時”と、あらたにアーティストが作品を作り出す今という“時”、2つの時が交錯して生み出されるものを楽しんでほしい、と今回の狙いについて語りました。

     展示される作品は、映像作品が3作品とインスタレーションが1作品の計4作品。それぞれの作品は、複数のアーティストがコラボして生み出されたものとなっており、ここでも「和敬清寂」の言葉が想起されるものとなっています。各作品を手掛けたアーティストが登場し、作品について語りました。

     家紋を手掛ける紋章上絵師の波戸場承龍さん、耀次さん親子と、メディアアーティストの瀬賀誠一さんがビジュアルを担当し、Kyokaさんがオーディオを担当した「Moment in Composition」は、東京日本橋を象徴する麒麟の紋をモチーフにした映像が、アンビエントサウンドが展開する作品。


     波戸場承龍さん、耀次さん親子が手掛けた「麒麟紋」は、伝統的な紋章上絵の技法である、数多くの円を組み合わせて生み出されたもの。全部で2582の円で構成されているとのことで、この仕組みを知った瀬賀さんは「自分の知っているグラフィックの手法とは全く違うものだった」と、驚きを口にしていました。



     ビジュアルをTHINK AND SENSEさん、サウンドを大野哲二さんが担当して生み出された「Stillness」は、京都・建仁寺塔頭の両足院をフォトグラメトリー技術により三次元化したデータを、最もミニマルな「点」のランドスケープと「うねり」のサウンドスケープにより、禅の世界観の一端を描写するという作品。

     両足院の建物と庭園が、点によって構成されていき、そして再び点に戻ってうねりの中に消えていく……という動きを繰り返すことで、色即是空空即是色の概念を感じさせます。

     両足院の伊藤東凌副住職の協力を得て、建物と庭園のデータ化や、禅についての話を聞いたというお2人。禅の世界においては「静寂=音がない」ではなく、周りの音がなくなることで、また新たな「音」を感じる、という考えに感じ入ったといいます。

     河合神社(下鴨神社の通称で知られる、賀茂御祖神社の摂社)所蔵の「方丈記」をモチーフに、木下真理子さんの書を山本信一さんがビジュアル化し、Corey Hullerさんがサウンドを合わせた「Fragments(Airport version)」。

     有名な冒頭の一節「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にはあらず……」を揮毫したした書をもとに、山本さんが時間軸を与え、さらにHullerさんが「方丈記」の言葉を分解・再構築したアンビエントサウンドが彩ります。

     伏見稲荷大社の千本鳥居をモチーフに、藤本翔平さんのビジュアルと、國本怜さんのサウンドで構成されたインスタレーション作品「intangible film」は、ヘッドホンを装着して体験する作品となっています。赤いレーザーで形作られた無数のゲート(鳥居)は、徐々に形を変え、無限の時空を思わせます。

     藤本さんは、鳥居は1つならモノだけれど、複数並ぶとそこに“空間”が生まれる、と語り「その空間にあるものは一体何なのか、それを考えながら構成した」といいます。國本さんはサウンドについて「バイノーラル録音で作られているので、音の持つ空間というものも同時に意識してほしい」と語っていました。


     デジタルアート展「ETERNAL ~千秒の静寂」は、羽田空港国際線ターミナル4階のTIAT SKY HALLで、2月1日~2月7日の期間で開催されます。入場は11時~20時、無料となっています。

    取材協力:文化庁

    (取材・撮影:咲村珠樹)

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