アメリカ海軍恒例の極地活動訓練「ICEX 2020」が、2020年3月4日(現地時間)に北極海で始まりました。この訓練では原子力潜水艦の乗組員たちが、海氷の上に設営したキャンプ地で活動し、極地特有の環境について理解を深め、この地域における作戦能力を高めます。
海面が氷に覆われた北極海は、潜水艦にとって身を隠しやすい環境であると同時に、緊急事態が発生した場合、海氷に阻まれて浮上できなくなる危険と隣り合わせの場所。ほかの海域とは違った対処が必要です。
この極地における環境を実際に体験し、学ぶのがICEX(Ice Exercise)です。2020年は、太平洋艦隊潜水艦部隊(COMSUBPAC)からシーウルフ級攻撃型原潜の2番艦コネティカット(SSN-22)、大西洋艦隊潜水艦部隊(COMSUBLANT)からロサンゼルス級攻撃型原潜の58番艦トレド(SSN-769)の2隻が参加しています。
1年おきに実施されるICEXですが、今回はアメリカのほか、イギリス、カナダ、ノルウェー、そして日本が参加。約100名が海氷上に仮設された「キャンプ・シードラゴン」を拠点に、3週間活動を行います。キャンプの名称は、1960年に潜水艦として初めて北アメリカ大陸北方の北西航路を通過し、北極点で初めて浮上した潜水艦となったシードラゴン(SSN-584)にちなむものです。
海氷の薄いところを狙って、潜水艦トレドが浮上。氷の上から見ていると、まるで下から潜水艦が生えてきたように見えます。
キャンプ・シードラゴンでは、山岳戦闘訓練センターに所属する海兵隊員がスキーを使っての行動訓練も実施します。目標物が何もない見渡す限りの雪氷原。いかに自分たちの位置を把握して行動できるかというだけでなく、摂氏マイナス30度以下という寒さの中で活動することで、極地での作戦行動で何が重要かということを身をもって経験するのです。
キャンプ・シードラゴンへの物資輸送は、潜水艦から運び出すだけでなく、アラスカ州空軍の第212救難飛行隊からも支援を受けます。空軍の極地救難隊にとっても、救難物資投下を含む遭難者救出訓練を行う良い機会なのです。
これらの訓練計画を立案し、監修するのは、カリフォルニア州サンディエゴにある海軍極地潜水艦研究所(Arctic Submarine Laboratory=ASL)。ディレクターのハワード・リース氏は「ASLは経験豊富な北極圏でのスペシャリスト育成計画を立案・実行することにより、潜水艦の極地作戦における中心として機能しています。北極海における知識を蓄え、ここでの潜水艦運用の安全性と効率を高めるため、機器の開発・搭載を行っています」と、ICEXの意義について語っています。
アメリカ海軍では1947年以来、北極海地域における潜水艦運用の経験を積み重ねており、今回のICEXは通算96回目の訓練となります。潜水艦が隠密性の高い行動を維持する際、海氷の多い極地での航海は不可欠。機器の開発だけでなく、運用に携わる乗組員にとっても、極地を経験する意義は大きいといえます。
<出典・引用>
アメリカ海軍 ニュースリリース
Image:U.S.Navy
(咲村珠樹)