おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

南部鉄器を世界に広めた工房の職人が作る「令和急須」が伝統と革新あふれる逸品だった件

update:

 岩手県を代表する伝統工芸品「南部鉄器」。鉄瓶が特に有名で、その独特の模様柄と重厚感のある見た目が特徴で、1000年近い歴史を有する日本を代表する伝統工芸品。令和でもその存在感は健在で、先日もある南部鉄器職人のTwitterにて投稿された急須が大きな話題となりました。

  •  「昨年4月から販売して非常にご支持をいただいた南部鉄器急須。令和と名付けたことも相まって、製造が追いつかないほどでした。従来のカラー急須はヨーロッパ調過ぎたりして、ものすごく違和感を感じていました。自分なりに一石を投じた作品です」

     そうTwitterに投稿したのは菊地海人さん(以下菊地さん)。菊地さんは、ハンドルネームにも記載されている「南部鉄器工房及富(おいとみ)」の南部鉄器製造職人さん。及富は、元禄年間(1688年~1704年)に「雲南堂金屋別家」として創業された後、1848年に現在の名称に改名されたという、300年以上の歴史を持つ南部鉄器メーカー。現代表の及川一郎氏は、菊地さんの叔父にあたる方で、家業として南部鉄器に携わっています。

     ちなみに、南部鉄器は大きく2つの流れがあり、1つは江戸時代に盛岡藩領主であった南部氏が、茶の湯釜を作る際に京都から釜師を呼び寄せたことで広まった「盛岡南部鉄器」。そしてもう1つは、岩手県水沢地方(現在の奥州市周辺)で作られていた「水沢南部鉄器」があり、こちらは平安時代末期、当時この地を治めていた藤原泰衡(奥州藤原氏第4代にして最後の当主)が、近江国(現在の滋賀県)の鋳物師を招いて武具を作らせたことがはじまりとされ、世界遺産でもある平泉文化の一翼を担いました。

     そんな出自が2つあるという南部鉄器ですが、明治時代の廃藩置県にて岩手県が誕生からは1つに集約されるようになり、南部鉄器の歴史で語られる際は盛岡と水沢の双方が取り上げられます。及富は奥州市水沢に所在しており「水沢南部鉄器」の流れを汲んでいます。

     さて今回話題になった南部鉄器急須「令和」ですが、こちらは企画デザイン段階から菊地さんが携わった作品。純白のカラーで彩られたその装いは、漆黒のイメージが強い従来の南部鉄器とは一線を画す急須です。

     実は及富は、日本で初めて海外で南部鉄器の商品展開に成功したメーカーでもあり、その独自性の高いデザインは世界的にも有名で、各国に広く展開しているいわばグローバル企業。鉄瓶や急須以外にも、鍋敷きや風鈴などの商品も取り扱っています。

     その一方で、南部鉄器古来の伝統も強く意識しており、今回の「令和」についても制作にあたり、ある思いを胸に作られたそう。

     「元々令和は、『平成丸あられ』という鉄瓶がベースで、これは私の祖父が昭和から平成に改元する際に作ったものなんです。令和に関しても、平成から改元されるタイミングで何かしら出来ればと思い、どうせなら祖父が手掛けたものと対になればと思い制作いたしました。実は南部鉄器は、近年はヨーロッパへの輸出が盛んになっている一方で、そのデザインもいわゆる“欧州型”になっているのに職人として違和感がありまして。あくまでも南部鉄器本来の伝統を意識した和の作品なんです」

     そう仰る「令和」。一見するとその純白模様に目を奪われがちですが、よくよく見てみると、急須の表面は「霰(あられ)模様」と呼ばれる南部鉄器伝統の模様にしており、急須置きについても日本で古くから親しまれている梅花紋をモチーフにしていて、モダンなデザインの中にも伝統を強く意識したものなんです。

     伝統と革新が絶妙に合わさった「令和」について紹介したツイートは多くの方を魅了。2万近くのいいねを得られたのと同時に、及富のオンラインショップでも過去最高の売上を記録したそうです。

     そんな「令和」ですが、急須置きをなぜ梅のデザインにしたかも気になるところ。せっかくなので、筆者は菊地さんに理由を聞いてみました。

     「今から50年前の1970年に、現在の上皇陛下、上皇后陛下に弊工房をご視察賜ったんです。その際にお出しした湯呑みの柄が梅でして、今回はそれをモチーフにしました」

     ちなみに「令和」の言葉の典拠(出典)は、万葉集にある梅花の歌32首の序文で、このめぐり合わせには菊地さん自身も大変驚かれたそう。これも南部鉄器の歴史あればこそ、もたらされたのかもしれませんね。

    <取材協力>
    菊地海人さん(@kaito_kiku327)
    南部鉄器工房及富(oitomi.jp

    (向山純平)

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • 西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデザイン
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    西陣織とコラボした「薬屋のひとりごと」の長財布が発売!猫猫と壬氏をイメージしたデ…

  • 「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言
    インターネット, 社会・物議

    「女のクセに」「女なのに」鍛刀場に寄せられる心ない声に女性村下が提言

  • スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催
    イベント・キャンペーン, ゲーム

    スクエニクリエイターに焦点を当てた企画展 名古屋で2024年2月開催

  • 「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミナルに開設 オープニングセレモニーにハローキティも登場
    イベント・キャンペーン, 経済

    東京ブランドのPR拠点「#Tokyo Tokyo BASE」が羽田空港第3ターミ…

  • 遠野市観光協会が販売する「カッパ捕獲許可証」をゲット!
    ユニーク, 雑学

    夢あるわぁ 遠野市観光協会の「カッパ捕獲許可証」をゲット!捕まえたら賞金1000…

  • 手描友禅染工房「池内友禅」が魅せる「引き染め」という新たな可能性。
    インターネット, びっくり・驚き

    手描友禅染工房「池内友禅」の「染め替え」に京きものの新たな可能性を見る

  • 自然の恩恵のちょっとした応用。岩手・松川温泉松楓荘が備えし「温泉トラルヒーティング」。
    インターネット, サービス・テクノロジー

    自然の恩恵をうまく活用 岩手・松川温泉松楓荘が備えし温泉トラルヒーティング

  • それはあなただけの「とっておき」。予約3年待ちかんざし作家・横田涼子。
    インターネット, サービス・テクノロジー

    予約3年待ちのかんざし作家・横田涼子が生み出す一粒の宝飾

  • 1500年超の伝統を守り続けるために。墨の伝道師・長野睦の挑戦。
    社会, 経済

    伝統を守り続けるために 「墨の伝道師」長野睦の挑戦

  • 表現者として解釈を追求。陶芸家・岡村悠紀が「かに座の蟹」で新境地開拓。
    インターネット, びっくり・驚き

    自在置物の陶芸家・岡村悠紀が「かに座の蟹」で新境地 表現したい題材への一歩

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 魔改造カップヌードル
    商品・物販, 経済

    日清食品「魔改造カップヌードル」4品を新発売 定番フレーバーを背徳アレンジ

  • 企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開
    社会, 経済

    企業と株主対立を“見える化” ストラテジックキャピタル、ガンホー批判サイト公開

  • 無料クーポンリレー
    イベント・キャンペーン, 経済

    ファミリーマート、ファミペイ新規登録者向け「無料クーポンリレー」開始へ

  • 「文藝きっかわこうじ」表紙
    イベント・キャンペーン, 経済

    吉川晃司60歳記念「文藝きっかわこうじ」発行 UL・OSとコラボキャンペーン開始…

  • 芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演
    企業・サービス, 経済

    芳根京子さん、地震保険の新広報キャラクターに就任 新CMで「なまベェ」と共演

  • メガ焼豚ラーメン
    商品・物販, 経済

    喜多方ラーメン坂内、“肉の壁”に挑む期間限定「メガ焼豚ラーメン」販売

  • トピックス

    1. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…
    2. マクドナルド非公認レシピ「改造てりたま」

      マクドナルド非公認レシピ!夏のてりたま欲を満たす「改造てりたま」を作ってみた

      春限定の人気商品「てりたまバーガー」を夏でも味わうため、筆者が考案した「改造てりたま」の作り方を紹介…
    3. 江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50さんが60歳の節目に放つ、まさに“レジェンド級”のコラボ商品が登場です。YouTubeチ…

    編集部おすすめ

    1. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    2. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    3. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    4. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    5. 作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      夏休みの宿題において、多くの小学生が悩まされる「作文」。特に低学年の子どもにとっては「何から書けばいいのか分からない」壁にぶつかることもしば…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト